第51話「最重要接待」

 今日は遊園地で接待だ。俺は時計に目をやった。


「そろそろ来るな」


 社長じきじきの指示の元、俺は重要な接待相手を待っていた。


 俺は、子どもが出来たあたりから、重要な仕事を任されるようになってきた。それからはなかなか帰れず、家庭をかえりみない状況になっていた。それに伴い俺の役職も昇進し、気付けば課長になっていた。そして気付かぬうちに、子どもも大きくなっていた。


「ねえパパ、3分100円で、肩叩こうか?」


「いや、いいよ」


「じゃあ、靴磨いたら100円は?」


 10歳になった息子はこの所、何かに付けてお小遣いを欲しがるようになっていた。


「いったい何に使ってるんだ?」


 と、俺は妻に聞いた。


「私だって分からないわ」


「家庭の事は、任せてるからな!しっかり頼むよ」


 と、俺は妻に言った。


 ある日社長に呼び出された。社長は机の引き出しから封筒を出し渡した。


「中を見たまえ」


 開けると遊園地の、1日ファミリーパスポートが入っていた。


「これを持って、遊園地で接待してもらいたい!重要な相手のご家庭だから粗相のないように」


 社長じきじきの指示だった。


 そして当日。待ち合わせ場所に、黒塗りのリムジンがやってきた。接待相手が乗ってるだろう後ろのガラスは、スモークグラスで中は見えない。先に運転手が降りてきた。ドアを開けると社長が降り、続いて現れたのは息子と妻だった。


「なんでお前が!?」


 俺が妻に言うと……


「ある日、息子さんが会社に来た。そして言ったんだ。パパの一日を売って下さいって」


 と、社長はニコニコしながら俺に言った。


「ちょっと社長!?」


「と、言うわけで、今日は1日大切なクライアントに付き合ってもらいたい。キミの誠意を楽しみにしておるよ。そうそうあとで報告書もあるからな!どんな事して楽しんだのか?を報告するように!なので、ちゃんと楽しませろよ~」


 と、言って社長は車に乗った。俺がポカンとしていると、スモークガラスが降りてきて……







「あっ、そうそう!よく働いてくれて感謝している。今日から3日、休暇を出すから、本当に家族と楽しんでくれ!」


 と、社長はニッコリして行ってしまったのだった。


おしまい


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