第50話「最期に伝えた事」
僕は婆ちゃんと二人暮らしだった。貧乏だったけど、明るい婆ちゃんだった。その明るさからか近所の人たちからも愛されていた。だから……
「お前の婆ちゃんには助けられた!」
と、良く知らない人からも言われたものだし、何かと助けてもらった。婆ちゃんは人が良かった。だから貧乏なのだと知った事があった。
そして僕が高校へ進学する時に、あげく進学のお金を騙し取られてしまったのだった。
「ごめんよ~ごめんよ~」
と、婆ちゃんはオイオイ泣きながら、僕に土下座して謝った。
その時、僕は激しい感情に襲われた。自分でも何に対してだか分からないのだが、あの時の気持ちを表すなら「悔しさ」の一言だった。
それから僕は働いた。そして婆ちゃんを悲しませたくなくて夜学に通った。これで学業も仕事も自分で賄う事が出来るようになった。当時は、たまにだが僕の給料で買ったケーキを、婆ちゃんと二人で食べるのが楽しみだった。
そんなこんなで大人になり、それなりの社会人になり、結婚もした。そのうち婆ちゃんは、曾婆ちゃんになった。
そんなある日、婆ちゃんが急に倒れた。医者からは危篤だと言われた。その夜、僕は病院に泊まった。
深夜、婆ちゃんの声で、目が覚めた。
「高校ごめんね~。婆ちゃんが馬鹿でごめんね~」
と、呟いていた。胸が詰まってしまった。鼻がツーンとなった。だから僕は婆ちゃんの手を握り、大きく息を吸い込むと……
「ケーキ……食べたね。婆ちゃんと一緒で…………楽しかったよ!」
と、僕はやっとの思いで、声を絞りだした。
僕が言い終えると、声が届いたのか、婆ちゃんはニコリと笑い、目をつぶると……
静かに息を引き取ったのだった。
おしまい
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