第29話「缶コーヒー」

 もう限界だった。俺は自殺しようと近くの高層マンションに上がった。


 それは、暑い日の事だった。


『さあ、ここで!』


 と、思った時に誰かがいた。

 

 見ると、初老の男だった。俺の気配に気づき男が振り向いた。


 俺もビックリしたが男もビックリしていた。そして……


「あなたもですか?」


 と、男は外を指差した。意味は分かった。同じく自殺しようとしていたのだ。俺はゆっくり頷いた。俺は男が見えない所へと移動した。俺はとにかく死にたかったからだ。


「いや~なかなか思い切れないもんですよね~」


「わっ!」


 気づくと背後に男がいてビックリした。


『おいおい俺は関係ないだろ?お前はお前で勝手に死ねよ!』


 と、怒りがこみ上げて来た。俺は場所を変えた。


「なんで死のうとしたの?」


 またもや男の声がした。


「もういい加減にしてくれ!」


 俺は男に怒鳴った。


「お前には関係のない事だろう!」


「まあまあ、そう怒らずに。どうせ今から死ぬのですから」


 と、男は呑気なものだ。ハアハアしている俺に、男は持っていた缶コーヒーを差し出した。


「まあ飲みなよ」


 男はアッケラカンとしている。


「ふざけんな!俺はこれから死ぬんだよ」


「なんで?」


 それから俺は、なぜ死のうとしていたのかを、男にぶちまけた!話が終えると……


「そうでしたか……まあコーヒーでも飲んで」


 俺は男の缶コーヒーをもらった。飲んだら冷たくて美味しかった。


「私もね。同じような理由でね。ここから飛び降りたんですよ」


ブハッ!


 俺は飲んだコーヒーを吹き出してしまった。


『またなに言ってんだ、この男は!』


「えっ?これから死ぬんですよね」


 俺は尋ねた。


「あっ!ごめんごめん。僕もう済ませたから~」


 おいおい済ませたって!自殺をか!?


「僕ね、もう死んじゃってるの。あなたは……もう大丈夫だね!もう飛び降りようとしちゃダメだよ~!」


 そう言うと男は消えていった。


 俺の死ぬ気は無くなっていた。俺は、あまりの出来事に缶コーヒーをグビッと煽った。


『ちょっと待てよ!?』


 俺は慌てて、缶コーヒーの製造年月日を見た!


『おいこれ何年前の缶コーヒーだよ~!』


 俺は大慌てでコーヒーを吐き出した!


 すると……


『大丈夫ですよ~、まだ賞味期限切れてないから~!』


 どこからともなく男の声が聞した。


『そうそう缶コーヒー冷えてたでしょ?私、幽霊だから持ってるだけで、飲み頃になるんですよ~!』


 俺は辺りを見回した。男の声は空から聞こえた。


『あっそうそう。じゃ……







 生きてね!』


それきり男の声は、もうしなかったのだった。


おしまい

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