第25話「時を超えて」

「時を超えて~♪」


 と、中学生の女の子が歌っていると、隣でボーイフレンドが……


「その歌、好きだよね!?時が過ぎても、ずっと愛せるかかあ」


 と、言った。


「出来る?」


 と、女の子は、大好きなボーイフレンドに言った。


『もちろん出来るさ!』


 と、男の子は大好きな女の子に言いたかったものの、言葉には出来なかった。その日の夕方、女の子は交通事故にあった。


◇◇◇


 20××年×月×日の土曜日。14歳の女子中学生が事故で意識を失い、患者として入院した。が、しかし奇跡的に目を覚ました。


「長い間、意識を失っていました。」


 患者の目の前には、白衣を着たお爺ちゃんの医者がいた。


「えっ?今日は何日の何曜日?」


「×月○日の日曜日です……」


 老医師から日付を聞くと患者は、今日が事故に合った日の、次の日の日付と理解した。


「そかっかあ、今日は日曜日かあ。明日には学校にいけるかな?」


 患者に言われた老医師は、困ったような難しい顔をした。


「なんと言えばよいのか……」


 医者はとにかく歯切れが悪い。


「私の身体、どこか悪いの!?」


「いえ、身体は健康そのものです」


 老医師はそう答えた。


「じゃあいったい?」


 老医師は黙っていた。ふと患者は自分の手の違和感に気付いた。自分の両手を見て、そして医師に尋ねた。


「先生、今年は何年?」


 老医師は目を伏せたまま何も言えなかった。患者は自分の顔をさわった。また違和感があった。


「先生、鏡貸して下さい」

 

 老医師は看護師に言って、鏡を用意した。患者に手渡す際……


「決して、気を落とさないで下さい」 


 と、老医師は言った。意を決した患者は、鏡をのぞき込んだ。そこにはなんと……


 老婆の顔があった。


 老医師と同じぐらいの年老いた顔。


「事故で意識不明になられてから、84年の歳月が経ちました」


 老医師がそう告げる。同じ曜日のカレンダー。


「うっ、あっ、あああああ!!!」


 患者は、その場で泣き崩れたのだった。


◇◇◇


 それから数日がたった。


「もう一つ伝えなければならない事があります。その前にまずはこの写真を見て下さい」


 と、老医師は言って患者に何十枚に及ぶ、写真の束を見せた。その一枚目の写真には、女の子が病院のベッドに寝ており、その隣には大好きな男の子が心配そうに座っていた。


 写真の日付は事故の2年後だった。次はその一年後、その次はと……写真の中で歳をとっていく、二人の姿がそのにはあった。


「私、一人になっちゃった。しかも凄いお婆ちゃん。あと……どんだけ生きれるんだろ……」


 そう一人つぶやく。


「大丈夫だよ。忘れたのかい?」


 そういうと老医師は、とても優しい眼差しを女の子に、いや老婆にむけた。老婆は写真をめくっていく。


「先生……えっ!?」


 いつしか写真の中の男の子は、素敵な男性になり、白衣を着ていた。


「君のそばにいたくてね」


 写真の中で、二人は結婚式をしていた。眠れる新婦とタキシードを着た新郎。その周りでは、二人の家族や友達がいた。


「大丈夫、僕らは家族だよ」


 老婆は、写真の束を一枚一枚めくる度に、止まった時間が動きだした気がした。写真の中の男性は、どんどん今の老医師に姿が近づいていった。


「時を超えて~♪」


 老医師は、少し調子の外れた歌を歌った。


「僕は君を愛しているよ。……あの時、言えなくてごめんね」


 そう老医師は言うと、老婆の手を握り締めた。そして二人は最期の写真を、一緒に並んで撮った。


 翌日、二人は亡くなった。84年の時を越え……







 二人は一緒に、天寿を全うしたのだった。


おしまい



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