第20話「ドライフラワー・マリッジプラン」

「みんな、知ってたよ」


「そっかあ……ありがと」


 そうして、彼女は目を閉じ……


 二度と開ける事はなかった。


◇◇◇


 あと一か月で、私達の結婚式だ!とにかく、やる事が沢山あって忙しかった!!結局、式場には11回も行って、衣装や花など打ち合わせした。式に呼ぶ人への葉書も大変だった。そんな矢先……


 私は交通事故にあった。


「本当に、ビックリしたぜ!」


 目を覚ますと、彼がいた。彼は、泣き笑いしていた。


「大丈夫だよ!だって、あと少しで結婚式なんだから」


 私の怪我は、軽いもので済んだ。でも、それは彼への初めての嘘だった。


 式は、滞りなく進んでいく。私は、限界点を今日のこの式に合わせた。彼にはナイショで、私の友人という事で医師も呼んでいた。


「病める時も、また健やかなる時も、これを愛し……」


 神父の声が、遠くに聞こえる。誓いの言葉……ゴメンね、嘘つくよ。


「誓います」


 私は、答えた。


◇◇◇


「……さん。今しかありません。どうしますか?延命されますか?」


「はっはい、お願いします」


「ただし、もって1ヶ月ですよ」


「構いません!」


 そうして私は、乾燥式延命処置をしてもらった。意識だけはあった。身体が無かった。時間も、無い。彼には、ナイショの話し。決断しか、無かった。


◇◇◇


「それでは、誓いの口づけを」


 神父に言われ、彼が私のベールをめくる。彼の目にも、涙があった。私の頬に流れる涙。キスをしていると、どちらの涙か分からなくなった。


◇◇◇


「……さん。成功ですよ!」


 事故から、まだ5時間。私は、延命してもらった。


「ところで」


 私は、元通りになっている身体を触りながら医師に聞いた。


「私の身体の成分は、何なのですか?」


 医師は、答えてくれた。


「水……みたいなものですよ」


◇◇◇


 永い永いキス。


 私の身体の限界時間になった。


 身体中から、光が漏れる。


 彼は、驚いて私を見ていた。


「ゴメンね、私……」


 私はブーケをキツく握り締めていた。


 今、言わなければ!


 私が、彼をシッカリと見つめると……


「みんな……みんな、知ってるよ。だから安心して、大丈夫。」


 彼は、私を抱き寄せ、そう言った。周りのみんなが……


 深く、うなずいていた。


 怖くて言えなかった。でも……良かった。


 誰かが、手を叩いた。1人、2人と。それは、段々と増えて教会に響く。拍手の波。私は、暖かな拍手の波に包まれた。私は、彼の胸に深く顔を埋ずめた。


「そっかあ……ありがと……」


 私の身体中から、光が溢れ出した。


 もう限界だ。


 私は、さよならのキスをした。


◇◇◇


 式が終わり、親族だけになった。新郎は、新婦の父と二人だけで、喫煙スペースにいた。


「事故の時、身体のほとんどが無かったんです。燃えてしまっていた……」


 新郎はそう言って、内ポケットから煙草を出して火をつけた。


「作った彼女の身体は、ほとんどが人工タンパクだそうです。人工タンパク・フリーズドライ法だったかな?」


 新郎の言葉に新婦の父が答えた。


「なんかドライフラワーみたいだなあ!ハハハハ……」


 新郎達の煙は、細く長く立ち上ぼった。そこへ医師がやって来た。


「この度は……なんと言って良いのか……」


 医師は頭を下げていた。


「こちらこそ、ありがとうございます。先生からのご連絡がなければ、式なんて出来ませんでしたよ」


 新郎は言った。


 現在の人工タンパク技術は、まだまだ不安定で、ごく小規模にしか使えなかった。彼女の身体は、ほとんどを人工タンパクにしたのだ。式まで持ってくれただけで、ありがたかった。


◇◇◇


 式の壇上で、新婦は目を閉じた。

 

 人口タンパクの崩壊。

 

 身体から漏れる光と共に、新婦は光の泡と消えた。

 

 壇上で、ウエディングドレスだけを抱き締める新郎……







 それを包みこむように、パイプオルガンの音色が教会に響いていたのだった。


おしまい

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