第18話「宇宙に続くドア」
僕は宇宙へつながっているドアを知っている。そのドアは、とあるビルにあるドアだった。ビルとビルの狭い間を抜けると……ビルの裏にドアがあった。そのドアが宇宙につながっていた。
深夜、酔っ払って、道を間違えてしまい、たまたま見つけたドア。開けると、そこには輝く宇宙が広がっているのだ。
初めて見つけた時の僕は、それがなんだか分からなかった。ポスターか、何かと思った。でも、無数の光が光り輝いている。
試しに、近くにあった空き缶を投げ込んで見た。空き缶は、そのまま音もなく……
ただひたすらに、真直ぐ進んで見えなくなった。
目の前に広がっているのは、テレビや図鑑でみた宇宙だと気付いた。
銀河の帯。
紅く輝く星。
巨大星雲もあった。
僕は手を入れてみたくなった。しかし昔、学校で「真空」を習った時、真空管のなかで、風船が膨張するのを見たのを思い出し、思いとどまった。取りあえず、僕は煙草を吸った。
『そうだ!』
煙草の先を入れてみよう……さてさて、どうなるだろうか?
煙草は案の定……ドアの入り口、空間の真ん中で、ふっと消えてしまった。
僕はそれから、時々ここに来てドアをのぞいていた。ある日、来る途中の公園で拾った、30センチほどの長さの枝を差し入れてみた。
枝を引き戻すと、カチカチに凍っていた。僕は、ウオッカのビンを直接口にあて、広大な宇宙を眺め、心癒していた。今夜のつまみは、マゼラン星雲だ。
ある日。
この世が嫌になった僕は、このドアの向こうに行こうと思った。
『きっと、一瞬で終わらせてくれる!!』
そう思い、ドアを開けた。真っ暗だった。星の光は、全くなかった。僕は、今夜はブラックホールだと思った。
僕は、ドアの向こうに飛び込んだ……
「ダメだよ~!勝手に入っちゃ~」
その途端、誰かに注意されてしまった。
パチッ
と、明かりが点いた。
まばゆい明かりに目がくらんだ!
「勝手に倉庫に入らないでね!」
そこには、初老の警備員がいた。僕は、警備員に頭を下げながら、入って来たドアから出ていった。
街の雑踏の中、空をあおいだ。都会の灰色の夜空には、「星」は見えなかった。
歩道橋を上がる。幹線道を車が走っていくのが見える。テールランプは、流れ星のようだった。きっと、飛び込めば終わる。でも……僕は滑稽な気持ちになった。
『マゼラン星雲とともに死のうと思ったのに……こんな、地上の雑踏の中とは……』
だから僕は……
もう少しここでやって行こうと、思ったのだった。
おしまい
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