第17話「月までの値段」

 宇宙協会の裏手からバイクを出す。走り出そうとした瞬間!


キキー!!


「バカやろ!!危ないだろ」


 俺は文句を言った。道端から飛び出して来た少年。8歳くらいか?


「あ~あ、チョウに逃げられたあ!」


 その時は、手には虫捕り網を持っていた。それから……


「また、お前か」


 少年とは、それからの付き合いだった。宇宙協会の裏手で、サボっていると少年に良く会った。いつものごとくサボっていると……


「これで月に行ける?」


 少年がポケットから硬貨をだした。出した硬貨は、全部で157円しかなかった。


「それじゃあ、いくらなんでも足りなすぎだ!」


 少年はポケットに硬貨をしまった。


「月に行ってどうする?」


「お父さんに会う!」


 俺はこの手の話が嫌いだった。面倒臭いし、自分の事でも大変なのに!と思うからだ。


「そうかあ」


 俺は適当に相槌を打った。


「ねえ、お兄さんにとって宇宙ってなに?」


『俺にとっての宇宙かあ……』


 宇宙協会は民間組織の会社だった。正式名称は「宇宙旅客協会株式会社コスモツアーズ」と言った。


『宇宙に行く意味……』


 今の時代、木星まで簡単にいけるようになった。宇宙協会は、単なる旅行会社の一つだった。


「だってお兄さんは、宇宙飛行士なんでしょ?」


「昔の動画の見すぎだ」


 そして俺は、ただの旅行ガイド兼運転手にしか過ぎない。大型ポーター(星間宇宙船)に客を乗せ、アチコチの惑星を見せて回るのが俺の仕事だ。


 でも、そんなある日……


「リストラかよ~!!」


 突然の解雇だった。


『それでも退職金が出ただけましか』


 と、俺は思った。宇宙協会の裏手からバイクを出す。


キキー!!


「また、お前か!?」


 俺は文句を言った。道端から飛び出して来た少年は……


ヒックヒック


 と、大粒の涙を出して泣いていた。


「アイス食えよ!」


「いいの?」


「俺のおごりだ」


 俺は少年をバイクに乗せ、近くの海に来ていた。


「ママが居なくなった」


「そうか」


「僕、どうしよう……」


 俺は、その足で警察に少年を連れて行った。


「では、こちらで対応します」


 警官は事務的に言った。


『ま、これでもかなり助けたほうだよな』


 俺は警察を後にした。


『ねえ、お兄さんにとって宇宙ってなに?』


 俺にとって宇宙は、ただの職場だ。


『だってお兄さんは、宇宙飛行士なんでしょ?』


 昔、見た映画……


 その昔、親父と映画館で見た『アストロノーツ』の映画を思い出した。宇宙飛行士たちは幾多の困難にも立ち向かい、乗り越えていった……


「売ってくれ!」


 気付くと俺は中古屋に居た。俺はまとまった金で、中古の小型ポーター(星間宇宙船)を買った。


「よっ!来たぜ」


「お兄さん!?」


 俺は、しばらくしてから、少年が収容されている施設に行った。施設に行く前に色々な手配をした。あとは少年を連れて行くだけだった。


「これがお兄さんの宇宙船?」


「ああ、さあさあ乗った乗った!」


 俺は、少年を小型ポーターに乗せた。


 小型ポーターは音もなく浮かび上がると、地球脱出速度まで一気に加速した。俺は月まで真っ直ぐに飛んだ。


「毎度!料金は157円になります」


「えっ!?」


 少年はビックリしていた。月に着いた。


「冗談だ!さあ、そこにお父さんがいるぞ!」


 月の宇宙港に少年の父親がいた。少年を父親に手渡す。少年と手をしっかりとつないだ父親は、何度も何度も頭を下げていた。


 それをきっかけに、俺は……


「火星のタイタンまで!」


「分かりました。ところで、星間ワープは使いますか?その場合は、時間は早いですが、割高になりますが?」


 星間個人タクシーを始めた。


 なんて事のない毎日。そんな日常をつまらなさを、誰かのせいにするのではなく、自分から面白さを求めてみたいと思った。


 つまり、ささやかだが人生に、自分から向き合ってみたいと決めたのだった。そう、あの日見た……







 映画の主人公のように。


おしまい


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