第12話「北風のテーブルクロス」

 その昔、どんな料理でも出してくれるというテーブルクロスが我が家にあった。


「とうとう君は10歳!それは半分大人になったという事。なので君に我が家の家宝を紹介します!」


 それは10歳の誕生日に、パパが僕に紹介してくれた。


「じゃーんっ!」


 テーブルの上にかけられたテーブルクロス。


「ねえねえ、それよりご馳走は?」


 僕はそんな事よりも、誕生ケーキとかそういうのを楽しみにしていたのだ。そんな僕にパパとママは一緒にニコリとした。


「ここから出るのよ!」


 ママが僕に顔を近づけ、ひそひそ声で教えてくれた。


「えっ!もしかして、これが北風のテーブルクロス!?」


 パパはニヤリとした。


「パパ何を頼むの?」


「何でもさ!さあ、好きな物をジャンジャン頼もう」


 僕らは、ジャンジャン好きな食べ物を頼んだのだった。


「じゃあ僕、チキン!」


「ママはハンバーグね!」


「パパはビールだな!」


 お腹がいっぱいになった頃、僕はパパに言った。


「ねえねえ、こんなに美味しいんだから毎日使おうよ!」


「いや、そう思うだろうけど、便利さは楽しさを奪うんだよ」


「だってママだって、ご飯作るの楽だよ」


「確かにそうかもしれない。でも、本当に美味しい食事というのは、そういう事ではないんだよ」


 僕はパパの話を聞いて、意味が分からなかった。


「それに……」


「それに?」


「本当は、ただの便利なテーブルクロスじゃないんだよ。なんていうかなあ……」


 パパは腕組みし始めた。


「まあ、そん時になったら説明するよ!」


 そう言ってパパは笑った。

 

 そしてその後、パパとママが交通事故にあった。


 パパとママの二人で買い物に出かけている間、僕は留守番をしていた。突然の事だった。電話が鳴り、パパとママが、この世にはいないのを知らされた。

 

 それからの毎日……


「トーストと目玉焼きと牛乳」


「カレーライスとサラダ」


「ラーメン」


 食事は、テーブルクロスで取った。


 どんな料理でも出すテーブルクロス。


 でも、どんな美味しい料理でも、味気ないものだった。


 だから、一番大切なのは料理ではなく。パパとママが一緒にいてくれ、楽しく食べられる事だったのだと知った。


「パパ、ママ……」


 僕はつぶやいた。


「パパ、ママ……また一緒に食べたいよ」


 僕はつぶやいた。


「パパとママと……もっかい一緒に食べたいっ!」


 涙がテーブルクロスに水たまりを作っていった。


 その時だった。テーブルクロスが、ぼんやりと光り出した。やがて……


ガシャンガシャン!


 と、料理を落としながら浮き上がっていった。テーブルの上で輝きながら、テーブルクロスは丸くなった。すると……


キラッ!


「うわっ~!」


 輝きがさらに増すと、僕は目が開けていられなかった!腕で光をよけたまま、しばらくが経った。


 光がやんだ。


 僕の目はくらんで、なかなか元には戻らなかった。でも次第に目が見えるようになって来ると、ぼんやりと人の影が見えた。


 一人……二人いる。段々と見えてくる影。


「えっ!パパ?ママ?」


 見えるようになった頃には、目の前にパパとママの姿があった。


「……ただいま」


 パパが言った。


「会いたかったわ!」


 ママが言った。


 僕は二人の胸に飛び込んだ。気付くと、さっきまで光輝いていたテーブルクロスは……







 影も形も無くなっていたのだった。


おしまい

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