第11話「ハッピーキャッチャー」
ガバッ!
公園を歩いていると、頭からメッシュ状の何かをかぶされた。
「ごめんなさい!」
メッシュがどかされたので、声の方を見ると……
虫取りアミを持った女の子がいた。
◇◇◇
「えー転校生を紹介します。入って来て!」
こんな高2の時期に転校生かよ!と、担任を見ると、ドアをあけて女の子が入って来た。そして担任の隣りに立った瞬間。
「「あっ!」」
お互いに目があった。昨日の女の子だった。
「何だ、お前ら知り合いか?」
担任がニヤニヤする。女の子は僕を見てニッコリした。女の子はあの時、僕に虫取りアミをかぶせた女の子だった。
公園で会った時は、白のワンピースにフチのある白い帽子をかぶっていたが、今は制服を着ていて、セミロングの髪は左側をゴムで結び、右側はピンで留めていた。
そして女の子は、後ろのあいている席に座る事になった。
◇◇◇
休みの日に公園に行くと、フリーマーケットがやっていて、色んな店があり見て回るのが、最近の僕の楽しみになっていた。その中に……
『幸せ売ります』
と、看板を出している店を見つけた。見ると色んな色の試験管が沢山並んでいた。
色によって値段が違っていて、一番安い試験管は黄色で、値段は300円だった。そして一番高いのは紫色で……
『えっ!2億円!?』
と、値札がついていた。
「いらっしゃいませ!」
ジーンズと白いTシャツ、オレンジのキャップをかぶった店員と目が合う。
「「あっ!」」
お互いに声をあげた。転校生だった。
「これ、なに売ってるの?」
僕が尋ねると……
「この試験管の中には、幸せの元が入っているの。そして願いながらあけると願いが叶うのよ」
と、女の子は言った。
「何にも入ってないじゃん」
「残念でした!普通の人には見えないの」
と、女の子は言ってニッコリした。
◇◇◇
「そっち!そうそこ」
放課後、僕は女の子の手伝いをしていた。
「絶対に上を見ないでね!」
女の子は白いワンピースを来たまま、僕の頭をまたいで、両肩の上に立っていた。
「これは凄い大物よ!ゆっくりと右に動いて」
女の子の手には虫取りアミがあり、いま木の上に見つけたものを取ろうとしていた。
「あと少し!」
女の子は爪先立ちになり右の方へと体を伸ばした。その途端!!
「きゃっ!」
と、女の子はバランスを崩した。そしてスカートを開きながら僕の上へ。
『いっ息が出来ない』
僕はスカートの中、女の子の股に挟まれてもがいていた。
「ごめ~ん!でも、おかげで大物をキャッチ出来たわ」
女の子の嬉しそうな声が聞こえる。が、僕はスカートの中だ。
『白に青のストライプか』
僕は女の子の股に挟まれながら、遠くなる意識の中、目の前のパンツを目に焼き付けていたのだった。
「うっ、う~ん」
「目、覚めた?」
気づくと僕は芝生の上で、女の子の膝枕されていた。
「ああ、ビックリしたよ」
本当にビックリした。女の子の股に挟まれるわ、パンツを間近で見るわで。
「本当にごめ~ん!でもおかげで大物をキャッチ出来たの」
そう女の子は言うと、肩掛けカバンの中から試験管を取り出した。紫色の試験管だった。
「何にも入ってないじゃん」
「だから普通の人には見えないの!」
そう言う女の子は、とっても満足そうだった。
「なあ、なんでいつもワンピースなんだ?」
休み時間、僕は女の子に言った。
「あの格好じゃないと、幸せの元が取れないの。幸せの元が逃げちゃうの!」
と、女の子は言った。つまりはコスチュームという訳だ。
「なあ、何でも願いが叶うのか?」
「叶うわ!でも願いの大きさによって叶うかどうかは変わってしまうけど」
と、女の子は言った。
「一番安い黄色の試験管なら……そうね、小テストで60点が取れるぐらいかな?」
「ところで、紫色の試験管の値段!大丈夫なのか?狙われないのかよ?」
「大丈夫だよ!だって大丈夫なように願ったから」
と、女の子は言うとニッコリした。
◇◇◇
「もうこの辺りは取り尽くしたかも」
夕焼け空で世界がオレンジ色に染まる中、女の子は残念そうに僕に言った。
「取れなくなったらどうするの?」
「売って生活してるから、また別の土地に行くわ」
女の子は僕と目を合わそうとはしなかった。
「今までありがと。手伝ってくれたお礼に、これあげるわ」
女の子はそう言って、僕に紫色の試験管をくれた。
「幸せになってね!」
女の子はそう言って、虫取りアミを片手に夕陽の中に消えて行った。
◇◇◇
しばらくして女の子は学校に来なくなった。
「家庭の事情で急に引っ越しました」
とだけ、先生は説明した。
女の子は行ってしまったのだ。
虫取りアミを持った女の子。
見えない『幸せの元』を捕まえ、試験管に詰め、それを売って生活をしている女の子。
『もう会えないのか!?』
そう思うと僕は、何だか胸が急に苦しくなった。
そして気づくと学校の屋上で、僕は試験管を握りしめていた。
紫色の試験管。僕はそのコルク栓を抜いたのだった。
◇◇◇
「もう!ビックリしたよ~」
「君でもビックリする事があるんだ!」
僕は女の子に冗談を言った。
「まさかもう一度、会えるとは思わなかったんだもん」
ずっと同じ場所にいる事は、有り得ない事だった。何故なら『幸せの元』が無くなってしまうからだ。
「こんな事、ありえないのに、ここはなぜか幸せの元が無くならないの!!」
「そうなんだ」
「だから、他の場所に行かなくても良くなったの!」
「そっかあ!良かった」
僕は女の子のその言葉に嬉しくなった。
「ところでなんて願ったの?」
女の子は恥ずかしそうに僕に言った。
「そんな事言えないよ~」
僕も恥ずかしくなってしまった。
「嬉しかった。ずっと独りきりだったから。あのね、実は私も願ったんだあ」
「えっ!?」
「今までも願ったけどダメだった。でも分かったの!同じように願う事が、こんな奇跡を生むんだって!!」
「そっか!!」
僕は、女の子の笑顔に嬉しくなった。そして、願いを叶える『幸せの元』は、かけ合さると倍以上の願いを叶えてくれた事に気づいたのだった。女の子が僕を見る。
「だから、せーので言おうよ!」
そう言った女の子の瞳に、僕が映っていた。僕らの願いはこうだった……
「「ずっと一緒にいられますように」」
おしまい
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