第10話「ブリキの兎 」

 あるところに兎たちがいました。兎たちは牧場で飼われていました。たくさんの兎にまじって、違う兎がいました。その兎はブリキで出来ていたのです。だから、仲間の兎から……


「お前はあっち行け!」


「鉄クズ臭い!」


 と、言われ仲間外れにされていました。そして牧場に来た人たちには……


「いてて!なんでこんな兎がいるんだ」


「抱っこしたら、子どもの手が切れたわ!」


 など言われていました。問題がおきてばかりなので、牧場主からは……


「お前を鉄クズ屋に売ってやる!」


 と、言われていました。さてそんな牧場でしたが、ブリキの兎にも良い所がありました。体がブリキだったので……


「うわっ!クチバシが欠けた」


「はっ歯が折れた!」


 と、鷹(たか)や狼が襲って来ても大丈夫な事でした。そのお陰で……


「助けてくれてありがとう」


 と、仲間の兎に言われたり……


「狼をやっつけてくれて助かった。ここに居てくれ」


 と、牧場主が言いました。牧場主はそして、ブリキの兎がエサを食べる必要がない事にも気づき……


「今まで悪かった」


 と、牧場主は言って、キーキーいっていたブリキの兎の体に、油をさしてくれました。


 そうしてブリキの兎は、牧場の一角に柵を作ってもらい、ひっそりと暮せるようになりました。そんなある日。


「この兎!鉄で出来てる」


 ある日、牧場に遊びに来た女の子が、ブリキの兎を見つけました。そして柵の中に入り、ブリキの兎を抱き締めようとしたのです。


「僕を抱き締めるとケガをするよ!」


 ブリキの兎は、女の子に注意すると、柵の中を必死に逃げました。


「大丈夫!ケガしても」


 そう女の子は言うと、ブリキの兎を捕まえて、優しく抱き締めました。


ツー


 と、女の子の手から血が流れました。


『またケガさせてしまった』


 ブリキの兎は怖くなりました。また周りを、困らせてしまうと思ったからです。


「大丈夫。大丈夫だからね」


 と、女の子は言いました。辺りが騒がしくなりました。女の子の親たちが集まって来たからです。


『もう、この牧場を出よう。自分が悪いんだ』


 と、ブリキの兎は思いました。


「大丈夫、大丈夫。あなたは、本当は違う姿なのよ。だから大丈夫」


 女の子の手からは、血が垂れていきました。それでも自分を抱きしめてくれる女の子に、ブリキの兎は泣きました。油の涙を流しました。そして思ったのです。


『誰かに抱き締められるって、こんなに安心するんだ』


 と。


 本当は、ブリキの兎も誰かに抱き締めて欲しかったのです。


 その時です。


「あっ」


 ブリキの兎は耳の先から、柔らかな体へと変わっていきました。そして気づくと、普通の兎になっていました。


「ほら!大丈夫だったでしょ?」


 と、女の子は言いました。


 それからブリキの兎は、普通の兎として牧場で過ごしたそうです。


おしまい


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