第6話「初めての人工知能」
この話は、1980年代の高校生の僕が、人工知能モドキを作った時の話だ。
高校入学祝いに買ってもらったパソコンPc88。自分でプログラムを組んでみたかったが、結局、なんのプログラムを組むかなんて、アイデアがなくて、結局、パソコンゲームばかりしていた。
そうそう、当時はプログラムの言語はベーシックか、もっと勉強してC(シー)言語で組んでいた。
C言語で思い出した!学校でC言語の本の本を読んでいたら、同じクラスの幼馴染に……
「もう、変態!そんな本、堂々と読まないでよね!!みんなに噂されちゃうでしょ!?」
と、急に怒られた。
「それに、まだ早いんだからね///」
と、赤い顔でモジモジしながら、幼馴染に言われた。タイトルがまずかった。本のタイトルは……
「初めてのC」だったからだ。
そういえば、パソコン仲間と人工知能で論争になった!
「絶対に出来ないって!理論上256(にごろ)以上はシリコン溶けちゃうんだって。人工知能を作るなら、もっと計算が速くなくちゃむりだよ!」
と、友達に言われた。
簡単に言うとこうだ。パソコンが熱くなって、中の機械が溶けてしまうのだ。ちなみに当時、Pc88が8ビット。そして熱で溶けない256ビットが当時の理論限界だった。
容量にしてもそうだ。Pc88で256KB。今で言うDVDに当たる外部記録のフロッピーディスクで1.44Mだった。今の携帯電話でさえ、32GBだ!
今のコンピューターの計算速度や記憶容量なんて一体、昔の何倍なのだろう?
でも、そんな友達の言葉に、僕は熱くなった。
『よし!プログラム組んでやる!!』
と。
そして作ったのが、人工知能モドキ「ハルカ1980」だ。当時の映画、『2001年宇宙の旅』に出てくるHAL(ハル)9000をもじって作った。
どんなものかと言うと、パソコンの画面の真ん中に、10文字程度打ち込める枠が表示され、そこに文字を打つと、「ハルカ」が答えてくれるのだ。
『こんにちは』
と、打つと、運がいいと……
『こんにちは』
と、返ってくるというものだ。なぜ運かというと、いくつかある「返事」をランダムで返すだけだからだ。ハルカに搭載した返事パターンはこうだ。
『こんにちは』
『私はハルカ』
『さすが!』
『知らなかった』
『すごい!』
『センスあるね!』
『そうなんだ』
と、いう言葉。
あと面白機能として、ひらがなを三文字だけ、これまたランダムに表示する機能を入れた。三文字ランダムとはこんな感じ。
『げだぺ』
『たれじ』
など、本当にランダムに出る。でも、まれに『すきよ』なんて出ると……
「うはー!!」
なんて、独り画面に向かって叫んでいた。
そんな、なんちゃって人工知能を作った頃、同じで中学で仲良かったけど、違う高校へ行った友達に久しぶりに会った。こいつもパソコンが好きだった。
「俺、人工知能モドキ作ったよ!」
「本当に!?」
そういうわけで、プログラムをフロッピーディスクにコピーして、友達にあげた。
その夜、友達から電話があった。
「ありがとう!凄く面白いよ。本当にありがとう!」
と、言うお礼の電話だった。
そうそう当時の僕は、良く夜遊びをしていた。夜遊びと言っても、公園で友達と朝まで話してたりとか、そう言ったものだった。
当時は、今みたいな携帯電話なんかないから、いつものごとく朝帰りすると、いつになく険しい顔でお母さんが立っていた。そして言った。
「○○病院知ってるでしょ?早くこの病院に行って!」
「なんで母さん?」
「○○くん、自殺したんだって。だから、早く!」
心臓がドクドクした!僕は、愛車「ハヤブサ号」にまたがった。当時、流行りのマウンテンバイクだった。
病院に着いた。友達はICU(集中治療室)にいるとの事だった。行くと友達のお父さんがいた。友達は父子家庭だった。
「○○が深夜、起こしに来て、『父さん僕、間違って手首切っちゃった』って」
友達のお父さんは、涙を流して言っていた。
部屋中、血の海だったそうだ。
結局、身内以外は会えなくて、友達のお父さんとだけ話した。そしたら、急にお父さんが両手で、僕の手を握って、涙をたらし頭を下げながらこう言った。
「本当に、君のおかげで助かった。君のおかげだ!ありがとう、ありがとう」
と、泣いてお礼を言われた。
お礼の理由はこうだった。手首を切った友達は、『でも最期に』と、大好きなパソコンを立ち上げ、ハルカに挨拶をしたそうだ。
『さよなら』
と。
そしたら、ハルカが答えた。
『いきて』
と。
◇◇◇
「ありがと」
と、自殺しようといた友達が言った。
「バカ野郎!もうすんなよ!!」
と、僕はこみ上げるものを我慢しながら笑って言った。
次の年、そいつは僕の高校に転校して来た。もう、これで大丈夫だった。それもこれも全て、人工知能モドキのおかげだった。
僕の作った、初めての人工知能。それから数十年が経った。
昔の物を片付けていて、見つけたあのフロッピーディスク。
『ありがとう、ハルカ』
僕は、心の中でそう言って大切にしまったのだった。
おしまい
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