第5話「七夕」
天の川をまたぎ、織り姫星と彦星が瞬(またた)いている。しかし、すぐに雲が厚くなり、星はおろか天を覆い雨を降らしてしまった。
「ねえねえ、お母さん。あした七夕だけど、大丈夫かな?」
窓枠に頬杖をつきながら、娘が言った。庇(ひさし)には、吊された照る照る坊主が、雨に打たれ濡れていた。
「大丈夫よ。明日の夜には天気になって、織り姫も彦星に会えるわよ」
と、母親は娘に言った。
「笹の葉、さ~らさら~。のきばに揺れる……」
小さい女の子の声が、窓に響いた。しかし、それを打ち消すように、雨音は強くなった。
七夕の当日。小学校に着いた女の子は、男の子の友達に今夜の話題をした。
「照る照る坊主が、晴らしてくれるといいんだけど」
それを聞いた男の子は……
「大丈夫だよ!僕の家も、照る照る坊主を吊したから」
と、言った。その言葉で女の子は少し安心した顔をした。
その夜。夕方から降り出した雨は、雨足を弱めず降り続いた。女の子は少し悲しい気持ちで、その夜は寝る事となった。母親は声をかけようにもかけられず、その姿をじっと見ていた。
次の朝。学校で、がっかりしている女の子に、男の子は言った。
「でもさあ。雨の日には会えないって、人間が決めた事だろ?」
女の子は男の子が何を言ってるのか、良く分からなかった。
「雲の上の天気って、知ってっか?」
女の子は、ブンブンと首を振った。
「お父さんに聞いた話しだけど。どんなに土砂降りだって、雲の上には何もないから、関係ないんだって!」
「???」
「だからつまり……雲の上はいつも晴れているから、雨は関係ないし、それより天の川は宇宙にあるから、地球の天気は関係ないんだってさ」
「つまり……織り姫と彦星は?」
「地球の人間からは雨で見る事が出来ないけど……宇宙の話しだから昨日の夜、天の川を渡って会えてたんだってさ」
女の子の顔が、パアッと明るくなった。男の子はお父さんに聞いた難しい話しを、なんとか女の子に話して聞かせる事が出来た。
実際の所、女の子には話しが難しく、男の子の話しは良く分からなかったが……
「じゃあ、会えたんだね!」
「そうだよ!」
女の子は男の子が励ましてくれるのが、とても嬉しく。男の子は女の子の表情が明るくなった事に、ホッとした。
そして、その明るい表情がもっと見たいと……
「そうだね!だからいつか僕らも高い所にいったらさあ」
と、男の子はつけ足した。そのあと二人人は……
「じゃあ、雲の上に行ったら見えるかな?」
「高いビルは?」
「いやいや山の上だよ」
「飛行機なら確実かもね!」
と、盛り上がった。
いつか大人になったら、織り姫と彦星が会えるのを、どこかの場所で二人で見たいと……
二人は密かに、思ったのだった。
おしまい
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