第3話「ジャンクフード」

「先輩って、良くこんな夜勤の多い仕事出来ますね!たかだかジャンクフード屋じゃないですか?」


 と、最近入った後輩が愚痴を言っていた。


「そうだね、仕事は大変だね。でも、生きてく為に仕事があるだけでも嬉しいという気持ちもあるんだよ」


 僕と後輩のやり取りを、そばで同僚は聞いているのは分かっていた。同僚は、僕がここに勤めるちょっと前から仕事していた。


 同僚は、後輩をにらんでいる。 その後の後輩の態度いかんでは、きっと同僚は……と思ったので、僕は同僚の様子をうかがいつつ、ポツリポツリと話しを始めたのだった。


◇◇◇


 真面目に仕事はしていた。なのに……

 

 なのに、この事態に陥っている。この冬、24時間営業のジャンクフード屋が僕の根城だった。突然の解雇だった。


「えっ自主退職?解雇じゃなくて!?」


「ええ、でもここに書いてありますよ」


 僕はハローワークの職員の胸ぐらをつかんだ。


「なんで!?」


 職員は僕を同情の眼差しで見ている。『ヤラレタ』と思った。その日を境に、僕の生活は一変していった。

 

 家賃が払えず、ネットカフェ生活。そして、今はジャンクフード屋で夜を過ごしていた。


 それでも毎日、ハローワークに通っていた。しかし本当に仕事がなかった。手持ちの金を計算する。仕事が見つかって面接に行くための資金をのぞくと……すると食費も1日一食とれるかどうかの状態になった。


 たまに、仕事は見つかるものの、すぐに仕事につける訳でなく。ただ面接だけで終ってしまうと、とにかく痛い出費になった。


『もう本当にヤバいかも』


 こちらには友達はいなかった。住み慣れた街をあとに、僕は飛び出して来てしまったからだ。


 ハローワークでは履歴書などは無料で貰える。ノリやボールペンもあった。でも写真だけは、お金を払って撮らなければならなかった。


 もしかしてと思って、余分に撮っておいたのだが、面接の度になくなり、不採用なら返してもらえるよう頼むが、それでも、だんだん足りなくなった。


 毎日毎日、ハローワークで、見ても代わり映えしない求人広告を見て、寒い夜は、いつものジャンクフード屋に行った。


 椅子に座り。机に突っ伏して眠る。


『こんな寝かた、学生時代以来だなあ……』


 と、思いつつ。


『ああ、体を伸ばして眠りたい……』


 浅い眠りについていた。

 

 就職活動を始めて、もう2ヶ月になっっていた。ジャンクフード屋のトイレで、それもカミソリ刃だけのひげ剃りも、板について来ていた。

 

 雨の日は憂鬱になった。食費も底をついた。お腹がすいて、考えがまとまらなかった。

 机に頭をつけ。ただただ、店内の様子を見ていた。


『そういえばずっと居座っていたのに、店員は何も言ってこなかったなあ……』


 僕は、ただただ店内を見ていて……とある事に気がついた!


「あっ!」


 もう構ってはいられない状態だった。体が勝手に動いていた。僕は、いつ以来だろうの満腹感を味わったのだった。

 

 僕が気づいたそれは、客の”食べ残し”だった。客の全てが、買ったもの全てを食べる訳ではないのだ。良くみていると、結構残している人が多いのに気がついた。特にポテトが残っていた。

 

 店員が来る前に、その前にダストボックスを開ければ、ポテトが綺麗なままで手には入った。それを何度もやると、食いきれないほどのポテトが手に入いった。

 

 正直、ダストボックスから拾うのは抵抗があった。がしかし、生きる為だった。

 

 でも、これだけは守っていた。他の客がいる時にはやらないようにと。もし僕が客で、そんな姿の人間をみたらどう思うかと考えると、この店に対して、せめてもの礼儀のような気がしたからだ。

 

 その後、仕事は見つからず。3ヶ月が経っていた。季節は春が来たというが、気候も気持ちも、厳冬期のままだった。

 

 それに……とにかく体調が悪かった。塩辛いポテトは腹を満たすが、栄養にはなっていかなかった。意識は段々と朦朧としていった。

 

 僕は机に突っ伏したまま、閉じた目を開けられなくなっていった。


「…い……おい!おい!」


 誰かに体を揺すられた。頬を叩かれる。目を開こうとするが、上手く開かなかった。でも、目のはしに、店員の制服が見えた。


『マズい!』


 そう思うが思うように体が動かない!


『とにかくマズい!』


 そんな意識の中、僕は店員に平謝りした。その後、店員は自分は店長だと名乗り。僕をどこかへ運んで行った。気づくと部屋の中だった。暖房の効く部屋の中で、毛布がかけられていた。


「気づいたか?とりあえず……食べられたら食べな」


 目の前に、この店オリジナルの「幸せセット」が並べられていた。他の客が食べるのを見て、いつか食べたいと思っていたセットだ。


「……なあ、ここで働かないか?」


 突然、店長は僕に言った。


「仕事探してんだろ?」


「えっ!?」


「だって……」


 ほらっと言う、店長の顎先をみると……防犯モニターがあった。


「正直、この3ヶ月間、居座られて参ってたよ。でも毎日、履歴書書いたり……ハローワークに行ってたんだろ?」


「なぜそれを?」


「悪いけど、あとつけたよ。そして食べ残し……もう出て行ってくれ!と、言おうと思ったが……」


 僕は、ずっと見られていたのに気づき、とにかくとっても恥ずかしかった。


「まあ、固くならず足をくずして……食べ残しを漁られたときには、勘弁ならないと思ったが、ちゃんと気を使ってたなしな……人間、出来るもんじゃねえよ。極限になっても、ちゃんとしようなんてよ!」


 僕は泣いていた。


『見ている人はいるもんだ』


 と、思った。


「なあ、うちで働けよ。人間性は信用する!」


 僕は、店長の言葉に頷いた。


 「よし!」


 そういうと店長は引き出しから封筒を出し……


「このくらいでいいかな?いや、もう一枚入れちまえ!」


 そう言って、自分の財布から万札を出し封筒にいれたのだった。


 「今日は遅いし、疲れもある。明後日から来てくれ」


 そう店長は言って封筒を手渡してくれた。


 その翌日。


「おはようございます!」


 僕はビジネスホテルでさっぱりしてから、1日早く店に行った。誠意を見せたいと思ったからだ。店長は驚いていた。


 でもこの行動のお蔭で……店長の口利きで、すぐに泊まる家が見つかった。


◇◇◇


「まっ、そんな詰まらない理由が、僕の働く為の理由さ」


 僕は、後輩に話し終えた。後輩は赤ら顔になっていた。


「まあとにかく、楽しく仕事をしようよ!」


 僕は、後輩の背中を叩いた。後輩の足元の床に……水玉模様が出来ていた。


 人生は、どこでどう変わるかなんて、誰にもわからない。


「さあて、客が来たぞ!」


「いらっしゃいませ!」


 確かに、たかだかジャンクフード屋だ。でも、僕はこの店の、ファストフードの仕事に誇りを持っている。

 

 そして思う……







 そんな人は、結構たくさんいるんじゃないかな?


おしまい


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