漂流編 ~右も左も判らなかった件~

第01話 やってきた、異世界?カルチャーショック連発!!

 元の世界と違ってここは、明らかに雑音が飛び交い、頭痛すらしてきそう。

 少女、アティラは、はっと目を見開くと何やらと混乱が収まらない状況に陥っていた。


「な、なになに。ここは、何処?」


 別世界に向かうという予感は、光の門に呑み込まれる前に覚悟はしていた。

 しかし、予想外にも程があると思うぐらいの光景が彼女を圧倒していた。

 自然100%の世界に住んでいたアティラに取って、建物という概念は存在していない。

 だから首を限界まで上に上げても天辺が見えないというのは、山ぐらいしか知らないのだ。

 だが、今はそんな話はよそう。

 大事なのは、今アティラが直面しているこの状況だ。

 騒音が聞こえる変な鉄製の物体とは、遥かに上回るもっと大きい音。

 それは、何と生き物の鳴き声だ。

 聞いた事もない筈なのに、言葉がちゃんと理解ができる。

 そして、アティラは自分の状況を再認識する事にした。

 今、倒れ込んでいる地面を確認すると土より硬い、石でできていた。

 しかも自然とは思えない平らな感触。


 そんな思いに浸っていたアティラは、ようやく、本来注意するべき点に気づく。

 それは、視線を感じている事と深く関係している。

 そう、騒がしいと思った瞬間に聞こえてきた、意味は判るけど解からないその生き物達の物言いだ。


「やだ、何あの子。広場のど真ん中であんな格好をして……」

「うお、なになに、何なのその格好、超セクシーじゃん」

「しかも、あの長くて栗っぽい色の髪もたまんねェー」


 自身を見下ろすアティラ。

 長い髪は、胸と下半身部分を見事に隠し、けれど割り座の体勢、いわゆる女の子座りの格好のままだとそそるものも見える人もいるであろう。

 しかし、ぼけーっと座り込んでいるアティラは、当然元の世界には存在しなかった概念があった。

 それは、羞恥心だ。

 アティラは、動物の皮の着物を羽織ってはいたが、それはあくまで寒さを凌ぐための物。

 それ以上でもそれ以下でもない、そうつまり意味はないだ。

 しかし、ここの生き物達を見ているとなんとも不思議だろう。

 こんな暑い天気の前に、何故皆が着物を羽織っているのだと自然と疑問が抱いてしまう。


「この世界の常識が理解できません」


 それが、アティラが抱いた最初の印象であった。


 突然、太陽が一瞬隠れ、スー、と軽めに感じる重さの物を肩に掛かるのを感じた。

 そして、次の瞬間に大きな影が叫ぶのを聴いた。


「何ずーっと見ているんですか!見世物ではありません!!」


 猛々しい低い声。

 何処となくグリズリーを思い出してしまいそうな感覚に襲われる。

 やがて目がだんだん慣れていき、その影の正体が他の生き物と同じだと知る。

 アティラは、右手を持ち上げ、その者の袖を引っ張る。


「あの、どうして耳元で叫ぶのですか?私ならこのぐらいでもちゃんと聞こえますよ」

「あ、あのですね、俺は、貴方に対して叫んでなどおりません。むしろ、不躾なに向けて言っただけです」


 アティラは、意味も判らないまま胸に手を当てる。


(やはり、この者からは、グリズリーに似た何かを感じる)


 しかし、その者は今度こそアティラに対して、叱るようなトーンで話しかける。


「それよりも、何で道端で裸でいるのですか!?明らかに変ですよ!!」


 だが、彼の言葉は耳を傾けず、アティラは好奇心の眼差しで尋ねる。


「今君は、あの者達に人だと言ったよね」


 袖をもっと強く引っ張り、好奇心が大きくなる一方。


「う、うん……って、ちゃんと俺の話を聞けーー!!」


 ガン無視決め込まれたグリズリーに似た人という生き物に驚き目を丸くするアティラ。

相手も不審がられる見たいに目を細くするが一瞬の内に視線を逸らす。


(こ、こここここ、コートの中から、むむむ、胸がァァァ!!)


 彼女の位置から見える胸の谷間、今更ながらアティラの容姿は、群を抜く程の美人だ。

 それが彼女が注目されていたもう一つの理由でもあるのだが、あの世界での美の観念が酷く偏っていて、それを判断するにはかなり難しい、動物達であった。

 一方で、突然放り込まれた裸美人のアティラは、そんな事も気にせず、その者に更に身を寄せ付け合う。


「と、取り敢えず、一単ここを離れましょう。まずは、ふ、服、そう服を買いましょう!」


 そう言ってアティラの手を引っ張る着物をくれた人は、アティラを着物が多く並ぶ建物に入った。


 言うまでもないがアティラは、美人でスタイルも良い。

 胸もそこそこあって、惚れるのも無理もないと思える可愛さも備わっている。

 唯一の欠点が育った環境に翻弄され、ここの世界での常識が通じず、変に見られる可能性が高い。

 男は、彼女の欠点を悟りながら服を着られないと勝手に判断し、店の人に頼んで着替えを頼み込んだ。


「しかし、変な女だ。年も俺と同じぐらいか。しかし……今月の小遣いがすっからかんだ」


 深いため息を吐き、男は、空になった財布とを見詰める。


「ま、PASNO(パスノ)にもまだ余裕があるし、問題ないか」


 だが、男の脳裏に今までの状況を思い浮かべる。


(待てよ、彼女が裸で現れたから……もしかして……)


「お待たせしましたお客様。彼女さんの試着がすみましたよ」

「いや、別に彼女じゃありません」


 両手と頭を同時に振りながら否定する男。

 店員の後ろのカーテンの向こうに着替えた少女がいる。

 店員任せにコーディネートされたから男は、少女がどんな格好なのか検討もつかない。

 こくりと息を呑みガラーンとカーテンの開く音が。

 男は、一瞬にして目を奪われた。

 何とも美しい存在なのだろうか?

 栗色の髪に合わさった、若苗わかなえ色のワンピースが膝が見える程度までの長さ。

 ワンピースもふわふわ系で腰の辺りはしっかりと引き締まって、彼女のスレンダーを上手く引き立てるように工夫されている。

 太ももまで長かった髪も束ね、それでも背中の真ん中より下まで伸びていた。

 髪型に関しても、ツイストを掛け、三つ編みハーフアップのなんとも抜群。

 そして、一番驚いていたのは、すっぴんのままでも服装にも全然劣っていない所だ。


(店員さん、グッジョブ!)


 小さい右手のガッツを決め込み、男は少女に近寄った。


「とても似合っているよ。綺麗だ」

少し照れながらも、男ができる範囲内の褒め言葉を少女に投げ掛ける。


《妄想》


「そ、そんな、綺麗だなんて……恥ずかしいです」


 顔を赤らめ、少女は、両手を顔に押し当てる。


「良かったら、お名前を教えてもらえませんか?☆」


 格好良さ気に文字通りのキラキラとしたイケメン顔で訊いてみる。


「いや~、口説いているんですか~?……でも、教えちゃいま~す♪私の名前は――」


《妄想終了》


(……って、誰だよ!!しかも、名前知らねぇから、妄想のしようがねェ!!)


 ちょっと痛い人である。


「ん~ん、少し窮屈、髪もムズムズします……ッッ!!」


 頭にそっと触れた瞬間、違和感を感じる。

 驚きの仕草をその人は見逃さず慌てて聞き込む。


「どうしたの?何か変だった?」

「か、か、か……」

「か?」


 固まってしまったアティラを首を傾げながら、その人はアティラと同じ言葉を口にした。


「髪が硬い!」

(そこかよ!!)


 髪をそのまましていると何の圧力が掛からず髪自体も硬さよりも、滑らかさ、柔らかさが目立つ。

 そして、当然のようにその髪を束ねて形を成す為に固定されれば感触だって勿論変わる。


「はぁ~……もっと大変な事だと思いましたよ」


 混乱している少女は、未だに束ねた髪を触り、何故硬くなってしまったかを探るようにしていた。


 目をきょろきょろさせて、声も少し上げているけど、やはりどう考えても美しく見える少女を魅入ってしまう男であった。

 男は、少女の手を頭から退かせ、優しく下ろす。


「あんまり弄らないで下さい。折角整えた髪ですから、勿体無いです。それに心配いりませんよ。頭の後ろの結び目を取れば直りますから」

「ふん!」

「……」


 少女は、その人の言葉通り、頭の後ろに結ばれた紐に手を当て、引っ張り出し、折角綺麗に整えられた髪形も風の如くなびいて消え去った。

 髪は、太ももの位置に戻り、男は呆れた顔で手を顔に当て、深いため息を吐いた。


「取らないでって、言ったのに!」


 少女は、にこにこと無邪気な笑顔で首を傾げながら男の顔を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る