第0.2話 私は、決意した!
私は、この世界に生まれて本当に良かった。
ここに住んでいる皆は、優しく私を出迎えて、育ててくれた。
そして、アティラという名を授かった。
赤子の頃の記憶は、当然なく、最初に覚えているのは、麦茶色の顔をした生き物の姿だった。
その後にその生き物が熊さん、グリズリーだったという事を知った。
多種多様な動物達が暮らしている中、早速気づいた事があった。
それは、私自身が他の動物とは、明らかに違うという事。
両手両足、体中を見える範囲を見て、他の皆との決定的な差を知った。
私には、全く毛がないのだ。
着物は、死んでしまった動物の毛皮で身を包み、靴は藁で編まれて非常に心地いいとまではいかないが、山道を歩く時には、小石を踏まずでいられるのが何よりのメリット。
十五歳を迎えた日から十数年。
私は、当然ながら違和感を感じた――成長が止まっている事実を。
身体は衰えない、病まない、老いない。
これは、明らかにおかしいと思った。
ある日私は、覚悟を決めてグリズリーに私自身の事を尋ねた。
「ねぇ、グリズリー」
「何だい、アティラ?」
可愛らしい仕草で首を傾げグリズリーの両目を真剣に見て言った。
「何で私みたいな動物はいないの?」
勿論、これが初めて訊いた質問ではない。
過去に何回も同じ質問を尋ねてみたが上手い具合に誤魔化されたり、話を逸らされたりして今現在は、150回目まで同じ質問を繰り返したのだ。
訊きながらふと、考え込む、良く150回もの回数を誤魔化せたものだと。
そして、私自身もよくここまで耐えれたのだろうと。
だがしかし、今回限りビシーッと諦めずに挑もうと決意した。
「ふむ、ん~ん、ん~ん……ん~~~~ん」
これは、新しいパターンだ。
これまでは、誰か近くにいたから如何なる対応できたが今回は、それを見越して敢えて二人きりの状況を作った。
未知なる冒険前に、グリズリーの新たなるパターンは、どう動くのか?
今度こそ勝って答えさせて貰うぞ、グリズリー。
「ん~ん、ん~~~~~~ん」
「……」
考え込むの長すぎる!
どう考えてもこれって……
「まさか!!」
何でこう嫌な予感というのは高確率にあたるのだろうか。
まだん~んと唸る、グリズリーの顔を慌てて覗いてみると。
「何で寝ているんだよ~!!」
鼻提灯を膨らませながら、アティラは指でパンッと弾かせる。
それに驚いたグリズリーは、寝ぼけて『あ~あ、アティラ、もう朝か?』などと惚ける。
しらけた私は、パンパンに膨らませた頬をしながら全力で怒りアピールをして『もう帰る』と言い残してそっぽを向いてその場を立ち去った。
何となくだけど気づいていた。
もしかしたら私に言えない内容なのかもって。
水面に映る自分を見てようやく何かを悟ってしまった。
やはり私は、ここに住む皆とは、別物だ。
私は、グリズリーと一緒に住んでいる。
洞穴だけど、雨しのぎとしては申し分ない住処だ。
夜は、結構冷えるが、グリズリーは、優しく自分の身体に抱き寄せ暖めてくれる。
私自身が一体何でこんな世界に生まれてきたのか何度も考え、考え抜いて、それでもその答えに辿りつけず、何度も何度も憂鬱な気持ちにもなったが、できる限り皆の前では、いつもの私でいようと、笑顔でいようと頑張って来た。
見ず知らずの者を優しく受入れ、
こんな幸せがあっていいだろうか?
勿論、自分が何者かを知るという好奇心も存在していて、それを皆が隠しているのかという不安もある。
しかし、これ以上、追求するのも考え物だ。
果たして、知っているのだろうか?単に知らないのかも知れない。
検討するべき点が沢山あってかなり難しい案件だ。
思い悩んだ末、やはりしばらくの間訊かない事を決めた。
「今は、この生活を目一杯楽しもう」
決意を改めて固めた。
翌日、目を覚ますとグリズリーは、洞穴にはいなかった。
時間は、太陽を見ながら何となくとしか解からないが、ほぼ天辺に上っているからして、かなり寝坊をしてしまったらしい。
ぐぅ~~~~
腹を空かして、何か朝食になる物を探すか、と思いきや足を止めて、ふと考え込む。
「や~、こんな時間になったから朝食として呼べるや否や~」
難しい、といっても深く思い悩む案件ではないが、一度悩むとなかなか抜け出せない所が難しいと考えた方が正しいのかもしれない。
「アティラ、起きたか。朝食を持ってきたぞ」
不意に後ろから声がして振り返るとグリズリーが木の実や生魚を背中に担ぎながら近づいていた。
食料を見るなり、ぐぅ~~、とまた鳴り響く。
少し照れながらも苦笑いをしながら、グリズリーも笑顔を向けていた。
「さあ、食べましょう」
大きな葉っぱに食料を並べ食い始める。
「グリズリー、魚はあまり好きませんけど」
そう言いながらパクパクと木の実のみを食べていた。
「いけませんよ、ちゃんとたんぱく質が含まれている物もちゃんと食べないと」
グリズリーの説教を聴きながら、嫌々と嫌いな生魚にがぶりと噛み付く。
「うぇ、やっぱりこの生臭いのは、嫌いです」
「それでも、食べなきゃいけません。ちゃんと食べないと大きくなりませんよ」
「……」
「あっ!!」
悪気がないのは、わかっている。
グリズリーもまた私が思い悩んだいるこの体質について知っている。
「ごめん、アティラ。そういう意味じゃなくてね……」
慌てて謝るグリズリーに私は頭を横に振った。
「ううん、気にしてないよ。悪気があって言っている事ぐらい判っていますから。それに、グリズリーが言う様にちゃんと食べてないからかもしれないし……」
「本当にごめん」
「だから、謝らなくてもいいって」
申し訳なさそうに頭を俯かせながら、どうにか気持ちを落ち着かせるのに成功したものの、かなり時間は掛かった。
グリズリーは、責任感が強くて私を育てると言い出したのもグリズリーの方からだったらしい。
暖かい季節と寒い季節を循環しているこの世界では、景色も空気もそこに住む動物さえも変わっていく。
暖かい季節では、花見をしたり、遠くの方へ冒険をしたりして遊び、寒い季節では、近くで雪遊びを繰り返している。
この暮らしをまた数年と繰り返していた。
変化は、勿論あった。
一つは、グリズリーが相手を見つけ出して、子を生し、その育成にも私も手伝う事になった。
家族が増えた事はとても喜ばしい。
私自身もとても嬉しい出来事だ。
普段のグリズリーなら、ある期間、子供に狩りを教えて、ある程度一人でできるようになったら独立させるが私に配慮してか、その期間を過ぎても共に過ごす事ができた。
けれど、家族三人で暮らす日々は、そう長くなかった。
グリズリーパパの体調も日に日に弱まり、一年が過ぎた頃に亡くなってしまった。
その晩は、泣いたんだと思う。
あまりにもショックで、しかしグリズリーの子供の事を考えると強くならなければならない。
心配かけず、強く生きられるように、そうお父さんのように。
月日が流れ、おそらくはもうかれこれ百年は経ったのであろう。
しかし、私のからだはまだ十五のまま。
グリズリーの子供も亡くなり、今は、その曾孫と一緒に暮らしている。
多くの動物達とも付き合えるようにもなり楽しい暮らしを送っているが、やはり私だけが残るのはかなり辛い。
けど、皆に心配させまいといつでも明るい自分でなければならない。
そして、思わなかった出来事が目の前に起きてしまった。
夜の筈なのに明るく、目を開けて見ると。
私の目の前に巨大な光の門が現れていた。
吸い込まれるように少しずつ引き摺られていた。
必死でいたから気づかなかったけどドシャドシャとした足音が聞こえて後ろに振り向くと動物達全員が集まっていた。
群れの中心にいたのは、グリズリーの玄孫がたっていた。
「さよならだよ、アティラ」
その時の私に思考が上手く働いていなくて、ポロッポロと言葉をランダムに言ったんだと思う。
「何で、お別れするの?」
その時に悟った。
あの扉の向こうには、別の所に繋がっていて、友人や家族とは、ここで別れる。
だって、皆して涙を流すんだもん。
「何で、皆泣いているの?」
きっと皆は、気づいていたんだ。
私が我慢していた事を、笑顔の他に悲しみや辛さがあった事を。
だけどね、悲しいも辛いも全部全部気にしてないんだよ。
だって、私は、本当に――
「嫌だよ!私、お別れしたくないよ!!」
――ここの皆が大好きだから!
涙をポロポロと落としながら、初めて笑顔以外の表情を見せた。
遠くからグリズリーの声がする。
何かを言っている。
「聴きたいよ!!」
突然、魔法ように不思議な感覚に襲われた。
辺りの風が止み、グリズリーの声だけが聞こえた。
「この先何があろうと、僕達は決して君を忘れたりはしない!!だから、アティラ、幸せになって生きて!!愛しているよ、アティラ、いつまでも」
私は、込み上がる衝動を抑えられず、心の言葉をチョイスして叫んだ。
「私も、グリスリーが大好き、皆も大好き!私、頑張って来るから、皆が心配してくれなくていいように、幸せになって来るから!!」
心の底からの言葉。
私は、見捨てられたのではない、新たに生きる道を与えられたのだ。
幸せになって欲しい彼らの願いを叶える為、そして、私自身の幸せの為に行って来るよ。
この光の門の向こうにある、新たなる冒険へ――
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