もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら
神田優輝
物語の序章
第0.1話 プロローグ
ここは、
様々な生き物が行き交い助け合いながら生きている。
冬眠する動物、春に眠る動物と入れ替わりながらこの世界で生きるたった一人の少女を守ってきた。
長い栗色の髪を毎日丁寧に手入れされ、透き通るような白い肌と薄緑色の瞳を持ち合わせていた。
動物達は、綺麗や美しいの概念を理解していないが、きっと少女の事を可愛らしいと思っているのであろう。
しかし、そんな彼女と過ごしている内に奇妙な事に気づかずにはいられなかった。
どれだけの年月が経とうと少女の姿は一向に十五歳の年から老いない肉体を保っている。
何故そのように身体が衰えないのか、何故年を取る気配がないのかは、動物達には理解の外である。
けれど明るく元気な少女を見ながら楽しそうに笑い合える日々が嬉しくて、その気持ちだけで彼らが抱いていた疑問を遠ざける。
季節は、冬。
白銀に光る景色が三六〇度見回せる時期に少女と動物達は、毎日のように雪合戦でもしながら遊んでいた。
吹雪が降るとカマクラを作って過ごし、また春になると満開の色とりどりの花の下で見つけた木の実を食べる。
そんな生活を延々と続ける尽きがない人生。
そんな少女の笑顔を見ている内に動物達は、またもや疑問を抱けるようになった。
――【何でいつまでも笑っていられるのだろう?】――
思い浮かべば少女の表情を思い浮かべば、いつだって笑顔。
別に少女の悲しむ顔をして欲しい訳じゃない。けれど少女も気づいているのではないのかと焦りと悲しみが自然と込み上げてくる。
当然だ、少女の体質を知っている動物達全員が満場一致でその疑問をしていたのだから。
少女は、一体何人もの同胞を見送っていったのだろう?
彼らの寿命は、多種多様だが、平均からして精々三〇年から四〇年までだ。
普通に考えればそんなものかと思えるが、少女からしてみれば、何とも老い先短い人生なのだろう。
それを何度も何度も永遠に繰り返される生の連鎖を生きる者達と外れた
けれど、来る日も来る日も少女は、その笑顔を絶やす事なく日々過ごしている。
何故、彼女だけがこんな苦しい運命を背負わなければならない?
動物達は、皆して祈りを捧げた。
――【どうか、彼女が心から幸せになれる世界に……】――
無論、動物達は単なる気休めだと知っている。
そのような奇跡が起きようものなら元よりこんな世界には現れなかったはず。
そして、意識か無意識か、彼らは自分達の自己満足に過ぎないと、そう思い始めた。
しかし、物語は一変するような出来事がまさに今始まろうとしていた。
「一体、何が起きているんだ!?」
グリズリーの叫ぶような声が森中に鳴り響く。
その光景は、あまりにも異次元過ぎて幻想的で不思議そのもので、どう説明したら正しく表現できるのかがなかなか難しい。
けれど敢えて、言葉を選ぶならば――そう、これはまさに奇跡と呼べるべきものではないのか?!
目の前に立ち塞がる光の門。
その奥が何処に繋がっているのかも定かではないが、きっと……
動物達が光の門に集い、顔を見合わせこくりと頷く。
そう、これはきっとあの時の祈りが起こした奇跡だ。
少女は、驚きつつも、動物達が集まった事に嬉しさを隠せず近づこうとしていた。
しかし、長年付き合っていたグリズリーは、左右に首を振り言う。
「さよならだよ、アティラ」
唐突の別れの言葉。
少女――アティラが受け止める程の力が果たしてあるのだろうか?
「何で、お別れするの?」
意味も解からず首を傾げながら辛そうな表情を浮かべる。
「何で皆、泣いているの?」
動物全員して、涙をながしていた。
これまで過ごしてきた幸せな日々、しかし、このままでは、本当の意味でアティラが幸せになれるかどうかと聞かれるとどうも答え辛い。
だからこの決断は、誰もが悲しくなる結果だと考えている。
ただ、この先にアティラが幸せを掴められるのであればそれでいいとも思っていた。
「嫌だよ!私、お別れしたくないよ!!」
一向に拒否するアティラの目からポロポロと涙が流れ始める。
初めて見る、笑顔以外の表情。
胸を締め付けるような痛みに耐えながら、有りっ丈の声でグリスリーは叫んだ。
「この先何があろうと、僕達は決して君を忘れたりはしない!!だから、アティラ、幸せになって生きて!!――愛しているよ、アティラ、いつまでも……」
引きずられ、徐々にアティラの身体は門の中に吸い込まれていく。
別れはこんなにも辛かったんだね。
「私も、グリスリーが大好き、皆も大好き!!私、頑張って来るから、皆が心配してくれなくていいように、幸せになって来るから!!」
アティラは、最後の最後までアティラだった。
例え涙目だったとしても、彼女は、にっこりと笑っていた。
全てを受入れて、皆の気持ちを悟って笑顔を見せる。
グリズリーは、そんな彼女の決意を目の当たりにして、両手で胸に当て、光の門も消え行く姿を見ながら遠くへ行ってしまったアティラを思いながら見送る。
悲しく辛い別れの後に残った痛みを抱えたまま、動物達は、その晩ずーっと涙を零しながら過ごした。
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