第6話 異世界は怖いところです

いや、消えてはいなかった。


眼の端にキラリと光ったような気がしたと思えば首筋に刃物が突きつけられていた。日本でよく見る包丁や海外のニュースで見るような小型ナイフや拳銃の類ではなく、大きな。素人目で見てもそれは大剣と呼ばれるのではないだろうか。

大きくて、長い。それは一般人は普通は持てる重量ではないものだとすぐにわかる。それをこの人物は軽々と持ち、一瞬のうちにこのありさまだ。

両手を相手の片腕で拘束され、首元には刃。早速ピンチである。


「貴様はこのようなところで何をしているのだ。見たところ人間。貴様らが来る場所ではない。いったい何が目的だ」


聞こえてくる音は、とても低くそれでいてひどく落ち着く。相手は少し怒気を含ませているようだが、それがまるで、イタズラをして両親に窘【たしな】められているかのようで、つい本当の気持ち、素直な気持ちを話してしまいたくなるような、そんな落ち着いた声。

もっとその声を聴いていたいと思うのは自分だけだろうか。


日本にいた時は、漫画やアニメが好きで、ハマった作品の声優陣のCVをチェックしたり、ドラマCDなんかも買ったりしていたため、そういった「声」にひどく関心を持っていた。

そして、今聞こえた声が自分が最も好きだと言える声質であったため、思わず身震いしてしまった。

別に恐怖を感じたからではない。が、


「おい、聞いているか?」


嗚呼、やっぱり良い声である。

しばらく震えながら感動していると、いつの間にか拘束を解いたのか、後ろから覗きこまれた


その時に気付いた。

あの、どうして裸なんでしょう……。


ーーーーーー


やばい。

何がやばいって。

ほら、あれだよ。

自分のさ、あれがあれしちゃう。

最初に言ったけど、自分、ストレートじゃないので。


無駄な脂肪が一切なく、自分の大腿位は有るであろう、上腕

厚みのある広い胸。男性でもここまで隆起するものなのかと、逞しさが強調されている。腹部においても、きれいに八つに分かれており、ハッキリと隆起している。日本では、なかなかお目にかかれるものではない。それにしても腱画【けんかく】がきれいな配置だ。

下半身は、上半身のダイナミックさを損なわなず、むしろさらに肉体の迫力を際立たせている。彼の一蹴りで、重厚な鋼でさえも打ち砕けそうな力強さがみてとれる。

……あえて避けたが、彼のあれは、そうだね……そういったビデオとかに出てくる外国人レベルとでも言っておこうか。ちょっとすごすぎて言えない。



何とか、服を着てもらえるようにお願いして話せるようになった。

なぜか密着して座っている状況だけど。


そして、彼の容貌も相当レベルであった。

たとえて言うなら、ハリウッド映画とかでしかお目にかかれないレベルだよ。

髪色は、ブラウンアッシュ系だが、虹彩はグリーンゴールドであり、ちょっと異世界を感じた。

鋭い視線と堀が深く、鼻筋が高く長い。

そういえば、イタリアに短期留学した時のホームステイ先のハウスがこんな系統だったなぁと、ちょっと懐かしみと同時に、

「うらやましいなこのやろう」という、嫉妬心まで蘇ってしまった。



ーーーーーーー

「すまないな」


彼が困った顔で笑う。

笑うと少し目が垂れて優しい印象になる。


そんな状況にドキドキしているのは、決して相手がイケメンだからではない。




「貴殿はあまり見ない顔のようだな。この場所はあまり人族はこないし、あまり立ち入らせないな。申し遅れたが、俺はウォルフ・レオドガル」という。


じゃあレオ様ですね、といったが「なんだかそれは嫌だな」と言われてしまったので、ウォルフさんと呼ぶことになった。


互いに自己紹介したまでは良かったのだが、どこから来たか聞かれたので、はぐらかすと、

「ちょっと良いか?」

「えっ?」

両肩を掴まれ、見つめられること数秒。急に気が遠くなり、半分夢心地となってしまい、質問攻めに対し、つい先ほど転生(転移)したことを話してしまった。


「すまなかったな。貴殿の秘密は必ず守ろう。」

「信用できません」

ちょっとムッとしてしまい、つい不機嫌な語調で返してしまった。

いじけてしまったのが伝わってしまったのか、

「悪い悪い。では、必ず約束を守る。そのための契約を結ぼう」

「契約?」

あの、「僕と契約して〇〇になってよ」ってやつか?


なんか危なそうなので、素直に教えてもらう。


「単純に、だ。ソウジの秘密は絶対に漏らさないことを約束し、破らせないように縛る契約だ。これで俺はソウジの秘密は話せない。」

それと創司郎には契約の縛りは生じないことを説明されたため、了承した。


何か呪文があるのかと思いきや、

ウォルフが創司郎の左手を両手で挟み込み、小さくて聞き取れないほどの声量で呟き、創司郎の左手の甲に紋様が現れたのを確認した時点で、契約は終了してしまった。その手の紋様も1分もしないうちに殆ど見えなくなり、薄らと痣のような跡が残っただけとなった。


「これで完了だ」

安心させるかのように柔らかく笑う彼は、良い人なのかもしれない。


「なんか、もっと大がかりで現像的なのを想像してたのにがっかりです」


彼がニヤッと笑う。

「そういう契約魔法もあるが、それをしたら、ソウジが俺の妻になってしまうな。そうだな、ソウジがやりたいなら、やってもよいが」


一瞬、あっアリかもって思ったけど、ニヤニヤしてるところから、からかわれていると分かった。


「しなくていいです」

怒ったように言いたかったが、なぜかイジケたようなトーンで返答してしまった。


わるいわるい、と頭をポンポンと撫でるのは彼の癖だろうか。それとも10歳ばかし幼くなった自分がいかに子供に見えるのか。

実際はまだ自分の姿を見ておらず、ステータス上とウォルフの指摘から幼くなった事は分かったが、そこはかとなく解せない気持ちが上回る。



今日は彼にお世話になることにした。





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