第51話 死神の掟

「お師匠さま、ごめんなさい……失敗しちゃった。僕が毎日ちゃんと修行していれば……」


 ヘルの死角から突然現れたムーは、ゴーストバスターの背後からその魂を刈り取った……はずだった。

 しかし実際は、狙いを誤り……魂ではなく肉体を、自身の大鎌で切り裂いてしまったのだった。


 ゴーストバスターは背中から血を流しながらも、ゆらりと体を起こし、軽く笑う。

「……ちくしょう、油断したぜ。目の前の死神に集中していたうえに、四方八方に幽霊の気配だらけだったもんだから……背後にこんなちっこいやつがいたなんて……体と気配が小さすぎるのもあって、全く気がつかなかった」

 ゴーストバスターはそう呟いたかと思うと……大鎌をヒュッと振るうとすぐ近くにいるムーを捕え、自分の大鎌をその小さな体にぴたりと当てる。

「あッ!」

 ムーが小さく声をあげる。ゴーストバスターはムーににんまりと笑いかけながら続ける。

「ここの死神さんに弟子がいたとはな……。だが、魂をろくに刈れないような奴だったおかげで、魂は取られずに済んだぜ。とはいえ傷なんかつけられて、久々に痛い思いをさせられたわけだが……さあて、この俺に傷をつけた落とし前をつけてもらわねぇとなぁ。こいつをどうしてやろうか」

 ヘルはそれを見てすかさず、自身の手から大鎌をぱっと放す。甲板の上に大鎌が落ちるガランという音が船上に響き渡る。

「ゴーストバスター、おぬしも手負いになった事だ……一旦勝負は中断しよう。この通り、武器は放棄した。だからその子のことを離してやってくれ」

 ヘルの言葉を聞いて、ゴーストバスターはせせら笑う。

「そういう訳にはいかねぇなあ。俺はここで仕事をしくじる訳にはいかねぇんだ。ここで逃せばお前らはこのまま魔の海域に入っちまって、二度と追いつけなくなる。俺だって、そろそろゴーストバスターとして名を上げねぇとお先真っ暗だからな……。手負いになろうが、今回の仕事を放棄するわけにはいかねーんだよ」

 その答えを聞くと、ヘルは静かに尋ねる。

「……ならば、どうすればよい」

「……そうだな……」


 ゴーストバスターはムーをちらりと見た後、今度はヘルににんまりと笑みを見せる。

「じゃ、こいつの代わりに師匠のお前の魂をいただくってのはどうだ? そしたら、このちっちゃな死神だけには手を出さないと誓ってやるよ」

 その言葉を聞いたヘルはゆっくりと頷く。

「……わかった。好きにしろ」

「お師匠さま! 駄目です!」

 ムーが身を乗り出して声をあげる。

「よいのだ。……我は、死神の掟をこれまでに幾度となく破っておる。それゆえいつ消滅するともわからぬ身なのだ」

 その言葉に、ゴーストバスターは少し驚いた様子でヘルを見る。ヘルはムーに向けかすかに笑みを見せる。

「ムー。幽霊船の一員とはいえ、おぬしだけには一度も掟を破らぬようにさせたかったのだが……我の力不足からおぬしに心配をかけ、その結果人間を傷つけさせることになって、すまなかった」

「そ……そんな! それだって全部、僕がお師匠さまの言いつけを無視して勝手にやったことなのに……」


「死神の……掟? 確か前にもヘルがそんなこと言ってたような……」

 マルロが呟くと、隣にいるスカルがそれに答えてくれる。

「死神の掟ってのは……そうだな、どうもあの大鎌を振るう時は、死期の近い人間の魂なんかの、刈り取るべき魂を刈る時しか本来は許されないって決まりがあるらしい。どうもそれを守らないと、いつか掟破りの罪でその身が消されるかもしれないって話で……だから、あいつには極力人間を殺させないようにして、俺らが代わりに手を下してきたんだが」

 マルロはそれを聞いて、監獄やウエス魔道学院でヘルが死神の掟について言及していた内容を思い出す。

「ヘルが一度刈った人間の魂をすぐに持ち主に返してるのも、確かその掟のためなんだったっけ?」

「そうだな。無関係の魂を刈るってのも、本来は掟に反する行為らしいが……あいつはすぐに持ち主に返すことで誤魔化してんだ。それが問題になるのかならないのかは俺にはわからんがな」


 そんな会話をしていると、ゴーストバスターが船員たちを見渡し、口を開く。

「話はついた。このちっぽけな死神の魂を見逃す代わりに、そこの大人の死神の魂をもらっていくことにする。だがその前に、死神だけじゃなく、周りの奴らも全員一旦武器を床に置きな。こっちは傷をつけられて本来の動きはできねぇ状態なんだし、死神の魂を刈るまでの間は、それくらいしてもらわねぇとな」

「はあ? そんな要求飲めっかよ……」

 反論するスカルの言葉をヘルが静かに遮る。

「……言うとおりにしてくれ」

 ヘルの言葉を聞いて、周りの船員たちは戸惑いつつも海賊剣を甲板の上に置く。一方で、スカルだけは最後まで渋り、再びヘルを見る。

「……ヘル……本気か? お前、ここで成仏する気なのか?」

 ヘルはスカルをじっと見た後、無言で頷く。

「……っ! そうかよ! 勝手にしろ!」

 スカルは盛大に舌打ちした後、自分の海賊剣を二本、乱暴に床に投げつける。


 ゴーストバスターは最後にスカルが武器を甲板に置いた様子をじっと見て、口を開く。

「……まずはこの死神さんの魂をいただくが、その後ならお前らは武器を手に取ってもいいぜ。ただし俺も、その後は周りの幽霊どもの魂を一つ残らず刈ってくつもりだから覚悟しな」

 そう言った後、ムーとマルロ、シルクに目をやる。

「死神さんとの約束は守って、この死神の弟子だけは逃がしてやるよ。あと、そこのガキ二人は人間だからな、傷つけると俺が死神の掟に反しちまうし、特別に見逃してやる」

「……そんな……」


 マルロはゴーストバスターの言動が本気であることを感じ取り、顔を青くする。

 そして、これから起こることを予感すると、脳裏にこの前見た悪夢がふっとよぎる。

(僕は……何もできないかもしれないけど、それでも今は、この幽霊船の船長なんだ。船のみんなを、あんな風にするわけにはいかない……‼)

 マルロはそう思うと、ありったけの大声で叫ぶ。

「お願い、カナヅチのお兄さん! みんなの魂を取らないで! お兄さんの背中の傷は元通りになるように、船でちゃんと治療するから……!」

 ゴーストバスターはその声を聞いて振り返り、以前船で会話した時よりも冷たい笑みをマルロに見せる。

「……その妙なあだ名は健在かよ。おい、ボウズの身の安全は約束してやるから、死霊のお仲間たちのことは成仏する時が来たんだと諦めて、おとなしく従いな」


 皆の緊張感が最高潮に高まりつつあるそんな中……近くにいた幽霊たちが数人、マルロの言葉にかすかに反応する。

「……ん? カナヅチってなんだ?」

「こんな時に、さっき割れた甲板の修理でもするってか?」

 スカルもゴーストバスターの一挙一動に気を張りつつも、マルロにちらりと目をやり、ひそひそ声で尋ねる。

「おい、カナヅチのお兄さん……って、それどういう意味なんだ。あいつの武器は見ての通り、大鎌だろ」

 そう囁くスカルに、マルロはゴーストバスターが前に言っていたことを思い出しながら答える。

「えっと……何でだっけ。俺はカナヅチだって言ってたから名前なのかと思ったら違って、確かカナヅチは水に沈むとか何とか言ってて……」

 スカルはそれを聞いて目を見開く。同時にマルロも自分の言った内容にハッとするが、慌てて付け加える。

「あっでもあの人嘘つきだし、幽霊が苦手って嘘ついてたから、それも嘘って可能性が……」

 スカルはマルロの言葉を最後まで聞き終える前に、周りにいる幽霊たちに向かって言う。

「おい、幽霊ども! そいつはカナヅチだそうだ!」


 幽霊たちはスカルの言葉を聞いて目をぱちくりとさせつつも、スカルが何を言いたいのか……それに気が付くと、一斉ににやりと笑い、ゴーストバスター目がけてぴゅーっと飛んでゆく。


 ゴーストバスターは今から魂を刈ろうとするヘルに注意を向けていたため、既に武器を置いた周りの幽霊たちについては注意していなかったようで、突然集団でやってきた幽霊たちを見て目を丸くし……ムーに大鎌を突き付けている体勢のせいか、先程背中を負傷したためか、咄嗟とっさに動けずに対応が遅れる。

 幽霊たちはそんな相手の隙をついて、集団でゴーストバスターの体を、捕らえられたムーごとまとめて神輿みこしのように持ち上げる。それからぴゅーっと飛んで船から出ていき、真っ直ぐに海へと向かう。


「……まさか」

 ゴーストバスターは顔を青くする。そして大鎌を持つ手に力を入れるが、ちらりと下方を……足場のない、どこまでも広がる海を視界に入れると、ぴたりと動きを止める。

「ああ、暴れない方が身のためだぜ」

「ここで俺らの魂を取ったところで、お前は海へ真っ逆さまだからな」

 顔面蒼白で幽霊たちを見るゴーストバスターに、幽霊のひとりがにやりと笑う。

「その反応……どうやら本当にカナヅチみてぇだな」


 幽霊たちは幽霊船から少し離れたところまで飛んで行くと、にやにやと笑いながらゴーストバスターに声をかける。

「さてと、このあたりでいいか」

「周りには岩場も何もないし、今回は足場になってくれる海坊主もいないぜ?」

「この海のど真ん中にこいつを置いていくとするか」

「異論はないぜ」

「そうしよう」

「な、何言って……そんなことしたら、俺が今からこの死神の弟子の魂を……っ」

 その言葉を聞いた幽霊たちは、きょとんとした顔でゴーストバスターを見る。

「は? おまえこそ何言ってんだ」

「そんなもん、俺たちには関係ない話だろ」

「……へ?」

 今度はゴーストバスターが目をぱちくりとさせる。

「俺らは全然構わねぇぜ、さっさとその子の魂を取れよ。そうすりゃお前のことはこの海のど真ん中に落としていくまでだ」

生憎あいにく、俺たちはその子の師匠でも何でもないから、死神のヘルとは違ってその子のことにはそんなに大事じゃないんでね、そんな脅しは俺たちにゃ一切通用しないぜ?」

「さっきはヘルが見てる前だったからお前の言う通り武器を置いたが、ここなら思う存分やってくれて構わねぇぞ?」

「……えっ」

 ムーが小さく呟くと、幽霊はムーにウインクする。

「幽霊船の全員の魂と比べりゃ、どうしてもそうなるだろ?」

「わかってくれるよな? ムー」

 ムーはぽかんとした顔で幽霊たちの顔を見ている。


「くっ……」

 ゴーストバスターはちらりと海に目をやり、ごくりと唾を呑み込むと、大きくため息を吐く。

「あーもう、わかったよ! こいつは返してやる!」

 ゴーストバスターはそう言うと、ムーの体から大鎌を離して幽霊たちの方に突き出そうとするが、幽霊たちはムーを受け取ろうとはせず、にやりと笑う。

「じゃ、ついでにおまえの武器もよこしな」

 ゴーストバスターはものすごく衝撃を受けた様子で、大きく目を見開く。

「なんだって⁉ これは俺の命よりも大事な……っ」

 その言葉に、幽霊たちは揃って眉を吊り上げる。

「なーに言ってんだ。命より大事なもんなんてねーよ」

「命なんてとっくに無くなってる幽霊の俺たちに対する嫌味か? この野郎」

「いいからさっさと渡しな」

「今渡したら、俺たちが大事に預かっといてやるからよ」

「なんなら、今ここでお前の命より大事な大鎌とやらを、お前と一緒に海に沈めてやってもいいんだぜ?」

「…………っ」

 ゴーストバスターはそれを聞いて、諦めたように大鎌を幽霊のひとりに手渡す。そして何もかも失ったかのような絶望的な表情になり、両手で頭を抱える。

「ああ……ったく、なんでこうなっちまったんだ……っ。俺の持つ唯一無二の能力を活かして、ゴーストバスターとして世界を股にかけて活躍する夢が……」

 一人でブツブツと呟くゴーストバスターの言葉を幽霊がぴしゃりと遮る。

「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと船に戻るぜ。海の上、嫌いなんだろ?」

 ゴーストバスターは幽霊を思いっきり睨みつける。

「ああ、大っ嫌いだね。船だって、本当は乗りたくなかったんだ! そうしてまでここへやって来たってのに……」

 そうやってまだ不満を言い続けるゴーストバスターを連れて、幽霊たちは幽霊船に向かってぴゅーっと飛んで行く。



 幽霊たちが船に戻ってくると、船員たちが無事解放されたムーの周りに集まる。

「ムー、無事だったか!」

 ゴーストバスターを連れて行った幽霊たちも、ゴーストバスターを向こうに置いてきた後、ムーの周りに集まり申し訳なさそうに言う。

「ムー、悪かったな。さっきはお前の魂なんてどうでもいいみたいなこと言って」

「あれ、本心で言ったわけじゃないんだぜ?」

「ああ。単なるハッタリだからな。気にすんなよな」

「……うん、大丈夫だよ。わかってる」

 ひそひそと謝る幽霊たちにムーは笑いかける。そして幽霊たちから離れてヘルのもとへ行き、目をギュッとつぶりながら、頭を深く下げる(できるだけ深く下げようとするあまり、体が上下逆さまになっている)。

「お師匠さま、ごめんなさいっ! 僕……お師匠さまの言いつけ全然守れないし、足を引っ張ってばっかりで……っ」

「……もうよい。それよりも、その顔についた血をさっさと落とさねばな」

 その言葉にサムも大きく頷く。

「そうでやんすね。今すぐ落とさないと、ムーの顔が永久に血で汚れたままになっちまいますよ? 待ってて下せえ。拭き取る布を取ってきやしょう」

 そう言って船室に向かおうとするサムに、シルクが駆け寄って言う。

「待って、あたしが魔法使って落としてあげるわ。血って洗っただけじゃ簡単には汚れが落ちないでしょ?」


 ムーの無事を確認したマルロは胸をなでおろすと、ムーのそばから離れ……武器を取り上げられ、すっかり意気消沈しているゴーストバスターの元にやってくる。

 マルロは、しょぼくれた様子で甲板に座り込むゴーストバスターを見下ろして、ぽつりと呟く。

「お兄さん、本当にカナヅチだったんだね……」

 ゴーストバスターはマルロの顔を見上げ、苦々しい表情で笑う。

「多少は真実を混ぜた方が嘘がバレにくいっていうからな、そこだけは本当のことを言ってたんだよ。ったく、それがこんな形の結末に繋がるとは……くそっ、ボウズのつけた妙なあだ名にしてやられたぜ」

「……でも、さっきは海坊主たちの上をひょいひょいって渡ってたから、カナヅチっていうのも嘘だったのかなって思ったんだけど……」

 ゴーストバスターはそれを聞くと、その時のことを思い出したかのように体をぶるっと震わせる。

「ああ、あん時はただ必死で……内心は冷や汗モノだったよ。小船が沈められそうになった時は、終わった、と思ったもんだぜ」

「……お手柄だったな、シルバJr.」

 近くで話を聞いていたスカルがやってきて、マルロの肩をぽんと叩く。ゴーストバスターは誰に聞かせるでもなく文句を言い続ける。

「俺の死因は溺死だったからな、今でも海は大っ嫌いなんだよ。ゴーストバスターとして活躍するって俺自身の夢のために、ここまで我慢して船で来たが……あーあ、本当はお前らが北大陸にいるうちに、陸地でやり合っておきたかったぜ」

「え、溺死って…お兄さん、死んでるの? もしかして、幽霊……」

「違ぇよ。一旦死んだが生き返ったっつうか……息を吹き返したんだよ。だから幽霊じゃねぇ!」

「……死の淵をさまよっていた時に、『死の国』を訪れて、死神となったわけか」

 後ろでその話を聞いていたヘルがぽつりと言う。ゴーストバスターはヘルをちらりと見て頷く。

「ああ。死神になる運命のやつは、どうもあそこに行き着くみてぇだからな。死神の能力を持ってから生き返ったせいなのか、俺は人間ではなく死者の魂を刈る役割の死神になったみてぇだ」

 マルロはそんな会話を聞いて、驚きのあまり目をぱちくりとさせる。

(ゴーストバスターも、ヘルと同じで死神なんだ……! ヘルがさっき死神の一種って言ってて、どういう意味なのかなって気になってたけど。確かに同じような鎌を持ってるけど、まさか人間の死神がいるなんて思ってなかった……)


 一方のゴーストバスターは不思議そうにヘルを眺め、口を開く。

「そーいや俺の知ってる死神ってものは、刈るべき魂を求めてただ彷徨うだけの存在で、自分の意思なんてものはない奴らばっかりだったが、お前は違うよな。それに、この船のやつらも死霊のくせに意思をもってやがるし……ここのやつらは一体何なんだ?」

「……ここの死霊たちは、特別なのだ」

 ヘルがぼそりと言うと、ゴーストバスターは食いつく。

「特別……ってどういうことだよ? さては、何か秘密があんだな⁉」

「……あったとて、それをおぬしに言うわけがなかろう」


 ヘルとゴーストバスターが言い合っているところに、サムがやってきてゴーストバスターに肩を貸す。

「さて、怪我人の手当てをしねぇと。今から医務室に来てもらいやすから立ってくだせぇ」

 それを聞いたゴーストバスターは目を丸くしてサムを見た後、ヘルやスカルの方を見る。

「え、お前ら……俺のことはどうする気なんだ?」

「……ここは海の真ん中で、陸地に寄る暇もなさそうだ。とりあえずこのまま連れてゆく。無論、妙な動きをされぬよう、見張りを常につけておくがな」

 ゴーストバスターは何か言おうとして口を開くも、何も言わずに口を開いたまま固まって……しばらくした後、ようやく一言呟く。

「……そうかよ。じゃ、しばらくの間、この船で世話になるぜ」

 ゴーストバスターは船医のサム、そして見張りのために付いていった幽霊たちとともに、おとなしく船室に入ってゆく。


 それを見届けた後、スカルはヘルに尋ねる。

「おいヘル……今後あのゴーストバスターのことはどうするつもりなんだ。武器取り上げたとはいえ、あいつが船にいる間に見つけられたら厄介だろ。武器だけでも海に捨てといた方がいいんじゃねぇのか?」

「……武器は、捨てはせぬ。厳重に保管しておけばよい。……それに奴には、次の場所でその能力を発揮してもらうやもしれぬからな」

 スカルはそれを聞いて目を見開く。

「もしかして、またあの大鎌をあいつに持たせる気かよ! せっかく苦労して武器を取り上げたってのに……」

「あの場所……あの海域の中では、あ奴もこちらに攻撃する余裕はないはずだ……カナヅチだという話ならば尚更なおさらな。それゆえ、まずはなんとしてでもあそこを越えることが最優先だ。その後の話は……その後で考えればよい」

「……ああ……確かにそうだな。ま、あの野郎の弱点はシルバJr.のおかげで見つかったことだし、海の上にいる間はなんとかなるか……」

 スカルはその件に関しては納得した様子だったが、まだ何か言いたそうな様子でヘルをじっと見る。その視線に気づいたヘルは尋ねる。

「……何か言いたいことでもあるのか?」


 スカルはしばしの沈黙の後、口を開く。

「……お前、さっきは簡単に成仏する気だったようだが……そうはさせねえぞ。死神の掟に反するようなことだって、これ以上お前にはさせねぇ……代わりに俺が全部引き受ける。だから……せめて船長に会うまでは、消えんなよ、ヘル」

「……ああ。心得た」


 ヘルが素直に頷くと、スカルはかすかに笑みを見せた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る