プロローグ

 カン! カン! カン! カン! カン! ……


 商工業で有名なサウスの街の夜、けたたましい鐘の音が鳴り響く。そしてすぐに、窓や戸を閉めるガタガタ、バタンという音があちこちから聞こえてくる。


「奴らが来たぞー! 皆、家に隠れろ!」

 カンテラを持った男が大声でそう叫び、辺りを見渡す。


 やがて窓を閉める音も聞こえなくなり、静まり返った人っ子一人いない街には、うっすらと不気味な紫色の霧が漂っている。


 誰も外に出ていないのを確認すると、男は鐘突き台の方へ行き、鐘突き台の上で先ほどまで鐘を叩いていた男の方を見上げて声をかける。

「皆隠れたようだ。俺たちも引き上げようぜ。またあの薄気味悪い霧が出てきやがった」

「ああ」

 鐘を叩いていた男は頷いて、カンテラを持った男のところまで降りてくる。そしてカンテラを持っている男と並んで歩きながら話をする。

「しっかし、隠れたり窓閉めたりしても意味あるのか? ヤツら、いくらでも自由に家ん中入ってこれるだろ?」

「目を付けられない事が肝心なんだよ。目を付けられたヤツが真っ先に狙われるからな。アイツら、面白半分で暴れまわってるだけなんだ。一応、ヤツらの欲しがりそうなブツは港に置いておいた。それをかっさらっていくだけで満足してくれりゃありがたいんだがな……」

「欲しがりそうなものって何なんだよ。食いもんとかじゃねーだろ? アイツら別に食う必要のねぇ体なんだし……」

「酒は好物らしいぜ。赤ワインだとか……そのあたりがよく狙われてるらしい」

 鐘を叩いていた男はそれを聞いて眉をひそめる。

「ふーん。でもそんなことしてちゃあ、ヤツら味をしめてこの街に入り浸るんじゃねぇのか? 逆効果だと思うけどな」

「命には変えられねぇだろ。ワインだけで済めばそれにこしたことはない」

「……そうだけどよ」


 海の方から不気味な歌声のようなものが聞こえてくる。それに気がついた二人は足を止め、港の方を見る。

 霧がだんだん濃くなってきたため見えづらいものの、こちらに向かってやってきていると思われる帆船の影がうっすらと姿を現す。


 男たちはそれを見て顔を青くする。

「…来やがった……。いつ見ても不気味な光景だぜ」

「ああ。さっさと避難しよう」


 男たちは十字路に着くとそこで別れ、別々の方向に走ってゆく。


 サウスの街の夜。がやってくる日は、決まって街を濃い紫色の霧が覆い尽くしている。そして、やがて不気味で愉快な歌声が聞こえてくる―――


「♬~ 生前の恨みは暴れて晴らせ~後悔は楽しい航海で忘れよう~」

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