8話 聖剣の便利な使い方

 ラスティ「ちょっ、タイム!タイムさ!ウタイ君。」


 ウタイ「うっせぇな。なんだよラスティ君。」


 ラスティ「スポンて!伝説の聖剣ってスポンて抜ける普通!?風呂の栓じゃないんだぞ我輩!」


 ウタイ「でも、全然、力入れてなかったし、なんか、ガバガバだったぞ。穴の方。」


 ラスティ「ガバガバ言うな!」


 ウタイ「昔の勇者、何回も刺し入れしたんじゃない?」


 ラスティ「くそ! あのクソ勇者め!」


 伝説の勇者を罵倒する伝説の聖剣。


 ラスティ「ううっ、大事なシーンなのに、新たな伝説の始まりのシーンなのにスポンて……」


 ウタイ「良いから帰るぞ。時間の無駄だ。昼飯までには帰りたい。腹減った。」


 ラスティ「さっきキノコ食ったばかりだろう。」


 と、ふてくされるラスティ。

 それをよそにウタイは背負っている薬草入れのかごにラスティを突っ込んだ。


 ラスティ(ええー!我輩、薬草感覚!?)


 ラスティ、泣きっ面に蜂。


 ラスティ「かごに入れるのはやめろ!ウタイ!せめて腰に帯剣して!剣扱いしてくれ!」


 ウタイ「あー、すまん。薬草感覚だったわ。あっはっは。」


 ラスティ「やっぱり!我輩、そんな気がしてた!」


 かごからラスティを取り出すウタイ。

 腰のベルトとカーゴパンツの間にラスティを突き入れた。

 落ち着くラスティ。


 ラスティ「久々の人間の腰だな。まあ、鞘は無いし帯剣ベルトじゃないから居心地は悪いが、かごよりはマシだ。」


 ウタイ「そいつはどうも。さて、帰るには、さっき滑り落ちた崖を登らないとな……。」


 と、ウタイは先ほど転落した小さな崖を見上げる。

 崖の上までの距離は目測でおよそ5m。ウタイの身長は1m75㎝ほど。


 ラスティ「中々の高さだなウタイよ。良く怪我なしで済んだな。

 ……お?なぜ我輩をベルトから抜くんだウタイ。なぜ振りかぶる構えを取るのだウタイ。ねぇ、ウタイ?」


 ウタイはラスティの柄の部分を握り、刃先を背の方向に向けつつ、大きく振りかぶる。

 振りかぶると腰をギリギリと捻り、捻りを戻す強い反動を利用し、ラスティを崖の中腹あたりをめがけ投擲とうてきした。


 ウタイ「どっせい!」


 ラスティ「ぶふぉあぁぁぁっ!」


 と、ラスティは悲鳴をあげ、ぐるんぐるんと身を回転させ壁へ飛んでいく。

 刃先が見事に狙った崖の中腹へ刺さった。


 ウタイ「あらよっと。」


 ウタイは、軽く大地を蹴り跳び上がる。

 刺さったラスティをステップ台のように利用し、更に高く跳び上がった。


 ラスティ「へぶっ!」


 いつの間にかラスティの柄には、ウタイのベルトがくくりつけられていた。

 ラスティに踏み乗る前に、垂れ下がったベルトの端をキャッチ。

 ウタイはもう一段階高く跳び上がる際、宙返りし、ラスティを壁から抜き回収しつつ、崖の上に着地した。


 ウタイ「決まった!100点!」


 と、ウタイはドヤ顔とポーズを決めた。


 ラスティ「100点!じゃないわ!我輩をそんな風に扱ったの、何百年の歴史の中でも貴様が初めてだ!

 歴代史上、雑!!」


 ラスティはベルトにぶら下がりながら怒鳴る。

 ウタイは気にせず、ベルトを腰に巻き、ラスティを再び帯剣した。


 ウタイ「え?刃類の得物ってこういう風に使うんじゃねぇのか?」


 ラスティ「使わん!なにその物騒な常識!?」


 ラスティは確信した。とんでもない男に拾われてしまったことに。

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