第3話 フランス映画愛好家、雁夜京子
レトロスペクティ部、部室。
部屋は暗いままだが彼女達はいた。
彼女達は部室のモニターで映画を見ていた。
白黒の日本映画だ。
侍がチャンバラをしている。
迫真の斬り合いだ。
それを見る京子の表情はつまらなそうだ。
一方その友人、灰御はワクワクした表情で鑑賞している。
キン、と悪玉の侍が斬り殺される、正義の勝利である。
そして縦書きのエンドロールが流れ出す。
灰御はDVDプレイヤーののリモコンのトレイを開ける、を押す。
ガシャーと排出されるDVD。
ディスクには男達が戦っている姿が描かれている。
「面白かったね〜やっぱり昔の日本映画は最高だよ」
灰御は最高の笑顔で言う。
京子は正直つまらない、と言うよりクソだった。という感想を持っていたがこの映画のおかげで友人の曇りなき笑顔が見えたので評価を変えた。
「うん、クロサワの映画は最高ね」
「うん! まあこの映画はクロサワ、全く関わってないけどね」
「ああ、ごめん」
「こっちこそごめん、京子はつまんなかったよね、チャンバラとか嫌いだもんね」
灰御は申し訳なさそうに言う。
昔の映画のおすすめを一緒に見ようなんて言わなきゃよかった、と京子は思った。
しかし言ってしまったものは仕方ないのだ、人は過去に戻れない、だから人は昔を懐かしむのだ、とも京子は思った。
「面白かったって、ただ監督とかあんまり詳しくないからさ勘違いしてただけだよ」
そう京子が言うと灰御はぎこちない笑みを浮かべた。
「じゃあ京子のも見せてよ、映画」
「でももうすぐ下校しないと怒られる時間よ、明日にしない?」
「それもそうね、いちんち何本も映画見ると疲れるしね」
次の日
ウイーンとディスクはプレイヤーに挿入される。
「どんな映画、フランス映画でしょ?」
「見てのお楽しみよ」
映画が始まる。
開拓時代のアメリカの町が映る。
「西部……劇?」
酒場で悪党が暴れて銃を乱射する。
酒場の客は蜂の巣と化す。
それを灰御は笑顔で視聴している。
「京子もこういう映画好きなの!?」
嬉しそうに質問する灰御。
「嫌いじゃないわよ……好きでもないけど」
「じゃあ何で? おすすめの映画何でしょ?」
不思議そうな顔をする灰御。
「あなたこういうの好きでしょ? この映画は私が見たレトロフィルムの中で一番あなたに見てもらいたいと思ったの」
「京子……!」
「あなたのそういう笑顔、ローマの休日より好きよ」
灰御はまた笑顔になった。
それを見て京子も笑顔になった。
おわり。
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