第2話 ガンマニア、黒川灰御

 レトロスペクティ部。

 部室。


 部室にランプの明かりが点けられる。

 そして2人の少女が入ってくる。


「いやあ、今日の数学のテストきつかったネェ京子」

「そう? 数学得意じゃなかったっけ、灰御はいみは」

「違うよ、私が得意なのは算数であって数学なんて高尚なもんじゃないよ」

「ふふん、まあ良いじゃないの懐古するのに数学の知識が必要なことなんて少ないわ、今を生きていくのには大事かもしれないけど」

「それもそうね」

「それよりそんな事で悩むくらいならその絶望的なファッションセンスを悩みなさいよ」


 灰御と呼ばれた赤毛の少女の今日の服装は冬戦争中のフィンランド軍の軍服だった。


「? かっこいくない?」

「かっこいくない」


 京子は友人であり部活部員の服意識を否定する。


「あ、これはシモヘイヘじゃなくて普通の兵士のものよ、モノホンよ!」


 と、灰御は自慢げに言う。


「ふーん、(シモヘイヘって何だよ、人? 組織?)」

「銃は勿論モシンナガンよ!」


 そう言って灰御は身の丈より大きい銃を部室のロッカーから取り出し銃口を京子に向ける。


「エアガンを人に向けちゃ駄目ってそれ買った時店員さんに言われなかった?」

「え? エアガンじゃないわよ」


 灰御の言葉に京子の表情は凍る。

 京子は灰御が冗談を言ったり嘘をついたりしないという性格を長い付き合いから知っているからだ。


「……どこでそんな物を?」

「近所のミリタリーショップ」

「あっ……ああ、そう」


京子の声が恐怖に引きづる。

それを不思議そうに見る灰御。


「……ああ、勿論本物の銃じゃないわよ、なんか怖がってるみたいだけど」

「え、エアガンなの?」

「違うよモデルガンよ」

「お、おう」

「でもこのモシンナガンはね! 今から12年前に30丁だけ作られた幻のモシンナガンなのよ!」

「へえ、よく近所の銃屋で買えたわね」

「店主さんにショットガンの空薬莢をあげたら12万円で売ってくれたわ」

「どこでそんなものを?」

「空薬莢のこと? 自衛隊の伯父さんに私のパンツを渡したらくれたの」

「……わらしべ長者ね」

「それでこのモシンナガンの歴史を京子に語りたいんだけど……」


 灰御は心配そうな顔をする。


「何でそんな表情を浮かべてるのよ、聞くわよ 、銃とか戦争とかには興味ないけどあなたの話は好きよ」


 京子は優しい表情と声でそう言った。

 良い友だちを持ったと灰御は思った。



 おわり。

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