落っこちた木の実⑥

すると、亀が言いました。


「そんなことはありません。あなたは気付かなかったかもしれませんが、私達を助けてくれました。


たとえば、昨日私は住んでいる川から出て、1人で草むらを散歩をしていたんです。そうしたら、足が滑って仰向けに転んでしまったんです。


亀はそういう転び方をしてしまうとなかなか起き上がれないんです。私も頑張ったけど無理でした。


そこで、川の仲間達を呼ぼうと何度も叫びましたが、だいぶ遠くまで来てしまっていたので声が届かず、誰も来てくれませんでした。そうしているうちに声が枯れてしまい、途方に暮れて甲羅の中に頭と手足を引っ込めていました。


すると、急に身体がぐるんと回ったんです。驚いて頭を出したら、青い木の実を抱えたあなたが見えました。


あなたは石をひっくり返しただけのつもりだったのかもしれませんが、そのおかげで私は起き上がれたんです。本当はすぐにお礼を言いたかったのですが、声が出なかったうえに足が遅いのであなたに追いつけなかったんです。だから今日お礼に来ました。本当にありがとう」


猿は、昨日草むらで落っこちた木の実を探している時に、この亀の甲羅と同じ色のものを石だと思ってひっくり返したのを思い出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る