羅生門と女児パンツ
機械男
第1話羅生門と女児パンツ
ある日の夕暮れ時の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
男は頭に女児のものと思われるかわいらしいキャラクタープリントパンツを被り、堂々と佇んでいた。
男は12歳以下の女児の下着を盗んでは被って歩くということで有名な、
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々ニスの剥げた、大きな円柱に、コウモリが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする
それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、男が羅生門を中心としてホワイトパンツハンティング(女児のパンツを盗む行為)を行っていたためだ。皆、一様に気味悪がって市中を出て行ってしまうのだ。ついでに京都は地震とか辻風とか火事とか饑饉とかいう災がつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。
旧記によると、
侍がその始末であるから、
都のアイドル女児の
病気で寝込む女児の
貧乏で一着しか
とうとうしまいには、引取り手のない
そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、子を持つ親は皆、洛中から引っ越していった。
その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく女児の
ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上で
普通なら、もちろん、主人の家へ帰るはずである。所がその主人からは、
前にも書いたように、当時京都の町は
だから「
その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の
申の刻下りからふり出した雨は、いまだに上る気色がない。そこで、
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっという音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が斜につき出した先は
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる
選ばないとすれば――
しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱にとまっていた
だが、それは太平洋の真ん中でライオンを探すような逃避思考だった。この街にもう女児はいないはずだ。それを
今日はもう寝ようと思い、自身の寝床に戻ることにする。
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の
これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
見ると、楼の内には、
そうして、その
その女は、右の手に火をともした松の木片を持って、その
すると女は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた
――いや、この女に対するといっては、語弊があるかも知れない。むしろ、あらゆる成人女性に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死をするか成人女性の
それほど、この男の成人女性を憎む心は、女の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。
そこで、
女は、
「きゃああああ!変態よ!変態いいいいいい!だれかああああ」
「おのれ、どこへ行く。」
しかし勝敗は、はじめからわかっている。
「何をしていた。言え。言わぬと、これだぞよ。」
これを見ると、
「己は検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようというような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
「知ってるわよ!
女は、見開いていた眼を、一層大きくして、かっと
「あたしはね……風俗嬢やってるんだけど。……ちょっと、お客さんに生パンツあげすぎちゃったから、これをもらっていこうと思ったのよ」
すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。女は、片手に、まだ
「成程ね、下着泥棒の下着を盗むことも悪いことかもしれないわね。でも、ここにある下着は、皆、あんたが女の子から無理やり盗ってきたものでしょうが!。あんたが嫌がって泣きじゃくる女児を足払いして倒してから足を無理やり開いて下着を脱がせるのをあたしは見てたわ。あんたを気味悪がって引っ越しちゃったけど、本来なら今でもそこら辺に往んでいたはずよ。それもよ、あの子たちは何の罪もない純心な子供たちよ。無抵抗な子供から盗むなんてサイテー死んだほうがいいわ。だけど、あたしはあんたの気持ちも少しは分からないでもないわ。女児パンツってかわいいものね。なんとなーく、かぶりたくなったりペロペロしたくなったりしたくなることもあるわよね。あんたもそういう気持ちになって仕方なく盗んだんでしょ?あたしもただパンツがなくなったからここに来たわけじゃない。ちょっと女児パンツに興味がある気持ちもあって、それでここを訪れたってわけ。だから、その仕方がない事を、よく知った上で、この場はなんとかあたしのする事も大目に見てくれるとうれしいんだけどお!」
「お前も女児パンツが好きなのか」
「そうよ、そう言ったわよ」
「しかし、お前には女児パンツは似合わなさそうだぞ」
「好きなら似合う似合わないなんて関係ない。胸張って生きればいいのよ」
しかし、これを聞いている中に、
その時のこの男の心もちからいえば、餓死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか」
女の話が終わると、
「では、己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
「んなっ!?何を言ってきゃっ!」
しばらく、死んだように倒れていた女が、
羅生門と女児パンツ 機械男 @robotman
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