第17話『今度の鍵は……』視点:ジュノ
クラマは、ドゥーガル扮する仮面をジュノから受け取ると、大事そうにギュッと抱きしめてから顔へ運んだ。ところが何か違和感を覚えたのか、ン、と首を傾げた。
と、丁度そこへ黒ジュノが歩み寄っていく。
「既に聞いているだろうか? オレもジュノなんだ。宜しく」
既に融合を果たして現実世界へと降り立った黒ジュノから握手を求める。矛先は当然あわあわ戸惑いだしたクラマだ。
ジュノは肩にそっと手を置いて助言を囁く。「おいクラマ、触ったら呪われるから応じるなよ?」
「の、呪われるの!?」
黒ジュノはやれやれと肩をすくめる。
「はあ。命を救ってくれた恩人に対してその言い草はなんだい、ジュノ」
聞いて幼いジュノは不機嫌になり、怠そうに目を細めた。
「そもそも双子の暴走を止めなかったお前が悪い。ていうか今までの事は全部お前が悪い」
「いいや悪いのはジュノ、キミの構ってちゃん思考が全ての元凶だろう。わざわざ厄介ごとに首を突っ込んだり、わざわざ事態を複雑にして悪化させたり、ひどい構ってちゃんっぷりだ。ほんと見ていられないよ」
「だっ、だれが構ってちゃんだこのやろう!」
「まあまあ。動揺すると図星だって事がみんなにバレるよ?」
「はッ。ち、ちがっ――」
慌てて周りに目を向ける。
するとシャムエルをはじめ、クラマとムゥラも「あらら……」と反応に困っている様子で幼いジュノを見つめていた。
「くっ……。んーな事より!!」
幼いジュノは驚くほど強引に話の流れをぶった切り、近くのテーブルを叩く。
「さっき話してた事はやるのかやらねーのか、はっきりしろよ!!」
「ああね。確かにちょうどいいタイミングで噂のクラマも戻ってきたことだし……」
皆してクラマを見やる。
当の本人は、えっ、えっ、と何度も首を振っていた。
時を遡ること数十分前。場所はリビング。
ルオル・レガの秘術――自己融合魔法は本人いわく、融合する相手と実際に接触して(互いに相手を認識しなくてはならない)さらにそれから2時間以内にお互いの私物を交換して初めて成立するものらしい(失敗するとリセットされ再び接触するところから始めなければならない)。
今回契約を交わす黒ジュノとルオルは、危機一髪を乗り越えた幼いジュノの見てる前でさっそく私物を交換しあった。
黒ジュノは数少ない私物の中から水玉模様のくつ下を差し出した。それも片方だけ残しても仕方が無いからとしっかり一足を揃えて。
一方、ルオルはたまたま懐にあったペンを一本差し出した。
「ほう……。これは見覚えがあるな……。なんだっけ」
ペンをかざすようにして黒ジュノは考え込む。
「そのペンは代々我が家が生産してきたものです。イベントの時など皆に配ってるんですよ」
「へえ、キミの家は文房具屋か何かなのかい?」
「いえ、今は違います。祖先がそうでした。ヴィンセントレイズ女王ってご存じですか? 俺はその息子です」
「ヴィンセントレイズってあの、ローレンス連合を率いる?」
「はい」
「……ってつまり、キミらは……王子と王女? えっと確か次期君主は国王だって噂があったはずだから……キミが継承者第一位?」
「一応。俺個人としては姉さんが次期女王になればいいと思ってますけど。今までのところ女王のほうが多かったみたいだし」
黒ジュノのみならず幼いジュノもこっそり反応を見ると、姉ムゥラは少し目を伏せ訳ありな表情をしていた。
「お姉さんのほうはどうやらそう思っていないようだけど?」
「姉さんは病気が一生治らないと思ってるんです。だから継承権をこっそり自分から放棄した。風格は絶対俺なんかよりも姉さんのほうがあるのに」
弟ルオルは将来自分が王位継承することに不満なようだ。
しかしジュノにしてみればそんな事はどうだっていい。
「こらこら。盛り上がってるとこ悪いけど、まだこいつらが本物だとは証明されてねーぜ。女に一回や二回優しくされたからって簡単に惚れちまう童貞みたいにそんなあっさり信じるなって」
唯一広い視野をもつ自分がちゃんと周囲を律してやらないと。幼いジュノはわざわざ大仰に両手を腰に当て溜め息交じりに再度念入りに水を差す。
「いいか、まずな、いくら静養中とはいえ王子と王女が揃いもそろってあんな場所で、しかも警備とかその他諸々ない状況でのんきに暮らしてるわけがねーだろ。それに、よーく考えてみろよ。いくら冥王族が云々かんぬんって言ったって国の奴らがそれをそのまま鵜呑みにして黙ってるはずもない」
「姉弟が人質という立場になってなければね」
ボソッと黒ジュノが要らない一言を口にした。
ハア? とつい顔をしかめてしまう。
「ふん、んなわけ……」
条件反射で否定したものの、幼いジュノは一瞬ノドに魚の骨が引っかかったような、ちょっと腑に落ちない顔をした。
そう、よくよく考えてみれば、それは十分あり得る事だと気づいてしまったのだ。そしてその事に気づかせたのは、自分より賢いであろう外見も中身も真っ黒ないけ好かない妖怪だ。納得しがたいのも当然だろう。
しかし、だからといって偽るのは良くない。訂正すべき点があるなら相手がたとえ憎たらしい奴でもそうするべきだ。もしこれで「絶対ありえない」と意固地になって嘘を吐いてしまえば、何て器のちっちゃい奴なの、と周囲からバカにされかねない。
「いや……あり得る。そういえばおれもかなり前からそう考えてはいた。でもどうもそんな感じがしないから一度は頭の隅へやったけど、改めてお前からそういう意見を聞くとやっぱりその可能性は捨てきれないな」
平常心を装ってなるべく冷静に同意してみた幼いジュノは、手応え(周りの反応)うんぬんは無視して更に続ける。
「そもそも、ブラックが疑うどころかこいつらのフォローに回ろうとしてる時点で、もう答えは決まっているようなもの――」
「ハイちょっと待った。率直に問うけど、ブラックってもしかしてオレのこと?」
「はああ?」
思いっきり青筋を立ててイライラ顔を浮かべると、黒ジュノはあえて問うた自分が馬鹿だったよと言わんばかりにうな垂れ、深い溜め息をついた。
「……もういい。続けて」
「良し。んで、んーと、そう、ブラックがフォローに回ろうとしてるのを見ると、ほぼ確実に裏は取れてるんだろ。二人がうんたら女王の血縁だって事は。なら人質としての価値は十分すぎるほどあるわけだ。つまり、あ、ここからが本題な。つまり――、ムゥの病気を治して、なお且つここから無事に脱出させたらおれ達は――。いや、おれは、少なくとも女王から感謝され、この名を幾つかの国に広めることができる」
気づいたらガッツポーズしていた。
「進路はズレにズレたけど、これならおれの世界的評価はうなぎ登り間違いなしだ! おれをブラックリスト入りさせた委員会のクソどもめ……、目に物見せてやるぜ。ふふふふ……。ふふふふははははは!」
ふんぞり返っての悪代官ばりの高笑いはしばらく続いた。
「あはは……。いやいや笑ってる場合じゃありません。あの、ムゥラさんの病気を治すといっても、何か思い当たる治療法とかあるんですか?」
首を傾げるシャムエルに幼いジュノは一瞬黙って真顔を向けたものの、直ぐさま再び高笑いしはじめた。そんなのは今は気にするなという意思表示である。
すると、そんな幼いジュノの代わりに黒ジュノが反応を示した。
「まず何より知っておくべき情報を手に入れない事には動きようがないな。ムゥ、キミの病気はどんな病気なんだい?」
「……ムゥってまた……はあ。もう無視しよ」
「あれ? 何か気に障った?」
「ううん、もう大丈夫。えっとね、病気なんだけど、症状は昼夜問わず出て私の体から出る黒い根っこが周りにあるものと私を全部一体化させようとするの。酷い時なんて渋滞中の車を数百台巻き込んだ事もあったわ」
「ふーん黒い根っこか。でもさ、一つ疑問に思ったのは、昼夜問わず症状が出るはずなのに今は何ともないように見えるね?」
「それはこの場所が特別だから。大昔から聖地として有名で、ここだと私の病気もほとんど症状が出ないの。地球にそんな場所が? って思うかもしれないけどこれは本当。現に何も起きないでしょ? もしここじゃなかったら今頃、みんな黒い根っこに飲み込まれてるはず」
「思った以上に厄介だな。投薬とか色々試してみた?」
「もちろん。やれる事は全部やったと思う」
「そう……。んじゃあまた質問なんだけど、病気にかかってから何か気になる事とかない? もしくは病気になってから何かが変わったとか。どんなに小さい事でもいいからあったら教えてくれるとヒントになるかもしれない」
「何か気になる事……」姉ムゥラは顎に手を添える。「これは関係あるかどうか分からないけど……」
「いいよ。言ってみて」
「夢を見ると、必ず同じ人の顔がしばらく頭に残ってるの。具体的にどんな顔しているかまでは分からなくて、なんていうか何となく印象が残ってるって感じに」
「ほう。同じ人の顔?」
「うん」
「それは男? 女?」
「男の人。歳は初老くらいかしら。印象に残ってる感じはじっとこっちを見てて、気味が悪いの。何故その人が頭に残るのか理由に心当たりはないし、その人に会った事もなにかで見た覚えもない。――関係ありそう?」
「どうかな。これを病気と捉えるならまだ物心のついていない頃に見た誰かかもしれないし、これをある種の魔法による影響と捉えるならその人物こそ根源なのかもしれない」
「――でも、魔法の効果ではないそうだから、もしかしたら私の妄想か何かなのかも」
「というかさ、魔法の効果ではないって、それ誰に言われたの?」
黒ジュノの真っ黒な顔に『?』の文字が浮かぶ。
「私たちをここへ連れてきた冥王族よ。まずは魔法によるものかどうか調べてみましょうって言ってくれて、検査の結果そうじゃない事が分かったって」
聞いた直後、黒ジュノは「ハア」と溜め息を漏らした。
「キミ……ピュア過ぎ。そんなのデタラメに決まってるじゃないか」
「で、でたらめ……!?」
姉ムゥラは友達が三股しているのを知ってしまったような驚きようで目を丸くする。
そこへ、高笑いをようやく終えた幼いジュノがシャムエルを一つ横へ退くよう促し、さりげなく足を組むようにしてムゥラの隣に座った。柔らかいソファに腰が心地よく沈んでいく。
「ま、ブラックの言うとおり、冥王族が何か隠してる可能性はあるな。その場合、一体全体何がどうなってるのか全容はまったく見えてこねーけど、これだけは確かだ。おれ達がここでやらかした時、予想よりもはるかに冥王族は必死になっておれ達を追ってくる。魔法を病気と偽る時点でただの人質じゃないからな」
「だけどそれは百も承知だろう?」
冷静にブラックは言った。
「いや、確かに追われる身になるとは予想してたけどよ、相手の意図がまったく分からないっていうのは予想外だ」
幼いジュノの目つきが鋭さを増す。
「となると、これはのんびりクラマの回復を待ってる場合じゃないなな。一刻も早くムゥの魔法を解いてここから脱出しねーと」
「脱出はどうとでもなるとして、魔法は恐らく今すぐどうにか出来るものじゃないだろうから、多少契約の内容をねじ曲げる感じになるけど、ここを出てから……あ、駄目か。出たら症状が悪化するのか」
「んー、そこがネックだよな。お前の呪いで何とか出来るなら」
「成るほど。いっそのことオレの呪いで悪化させて死体で脱出させるって作戦か」
「良し。お前はもう口出すな」
冷たくそう言い放つと、黒ジュノは白い体液で悲しみに包まれたことを表現した。
しかしジュノはそれを尻目に、
「おい、シャムエルは何かないのか? 魔法でも魔術でも」
「そうですね……。何かないかと言われましても、魔法の効果を取り除くようなものは使えませんし、まず何より魔法がどんなものか分からない事には……。あ、あ! そうです! そういえばありました! 以前ボランティアで使おうと思っていたものなんですが、本当に体内に根付いてるものならそれがどんなものか知るⅩⅢ種の魔術が使えます!」
「でかしたシャム!」
「はい! ではさっそく!」
と、シャムエルが立ち上がってムゥラの目の前まで移動した。
だが、その後すぐ動きを止め、気になる事でもあるのか幼いジュノに目を向けた。
「ふと思ったんですが……。ジュノさまは使えないんですか? ⅩⅢ種の魔術」
「ん? おれ? 使えるけど?」
「え? はい? で、でしたらワタシでなくても……」
「ちげーんだって。やるって言っても絶対ムゥは嫌だって拒否するに決まってるから、だったら最初っからシャムエルに任せようと思ったんだ」
「絶対拒否されるって一体どんな魔術なんですか……」
「いや、実際に使えちまった時は自分の類い稀なる才能って奴が心底恐ろしくなったぜ。まず前提としてよ、たとえば対象者がムゥなら、使用者であるおれと対象者であるムゥの両方が真っ裸になる必要があるんだ。ああ、真っ裸っていうのは簡単に説明すると――」
「しなくていい!」
真っ先に割って入ったのはムゥラだった。
「えー? まあいいか……。んなわけで、お互いの肉体美を見せ合うのは絶対に良しとしないだろうムゥが相手だから、おれの出番はなしって事だ」
「ジュノさま……。以前といい、今回といい、どうして服を脱がなくてはならないものばかりなんですか」
「ん、まあ、そこはほら、やっぱ魔術もさ一つ一つに個性があるわけよ。んで大まかな個性といえば、性別な。つまり魔術にも女(メス)がいるわけ。良いメスっていうのは分かっちゃうんだろうな、おれの溢れんばかりの野性的な魅力が。となるともう分かるだろ? それを欲してる魔術のやらしいメスがおれを脱がそうとするんだ。そんで――」
「あのう、長くなりそうなのでもういいです」
「はい」
「では仕切り直して、ⅩⅢ種の魔術やりますね」
「お願いします」
シャムエルは立ったまま一度しっかり目を閉じ、再び開けるとそれから一切瞬きをしなくなった。そのまま対象者である姉ムゥラの目を気でも触れたかのようにじっと見据える。
「ムゥラさん、何が起きてもワタシを信じてじっとしていて下さい」
恐らく使用者は一度も対象者から目を離してはならない、対象者は動いてはならないのだろう。
何やら仰々しい物言いにムゥラは少しばかりすくんだのか、肩を強ばらせ挙げ句の果てには瞬きしかしなくなった。
今回シャムエルが使用しようとしているⅩⅢ種の魔術は、サーチを目的としたもので構成されている。同じ効果を得るものでも前提がまったく異なるものが存在する為、ⅩⅢ種の魔術だけでも膨大な数となる。
そもそもⅩⅢ種とは書物のⅠ巻やⅡ巻といったナンバリングから来ている識別番号で、実際に魔導書を発行する折に割り振られたものだ。現在知られている魔術の中で最も巻数を有するのは、生命に関するⅩⅤ種の『未来永劫樹木を絶やさない魔術』で、その魔法を身につけていた魔導士の生涯かけて練った架空世界の五千年にもおよぶ歴史を隅から隅まで理解しなくてはならない。それゆえその魔導書は自ずと図書館の棚を複数占拠する結果になってしまっている。
無論、ネットならばどれだけ膨大な巻数だろうとその情報にアクセスするだけで、いとも容易く読める。だが理解すべき内容はどちらも同じなので結局のところ会得するのに掛かる時間はそう変わらない。
魔術は欲しいものを欲しいままに出来るわけではないのだ。それがどんなに自分にとって欲しい魔術であっても相性によって使えないことのほうが多く、ならいったいどこの誰が、使えるか使えないか分からないのに『未来永劫樹木を絶やさない魔術』のような馬鹿げた魔術を身につけるのか。全部理解したところで肝心の魔術が使えなければ何の意味もないのに。
そう、魔術は万能に見えて万能からはほど遠い力なのだ。
しかし自分に合った魔術と出会えれば、それは心強い味方となりうる。人間同士のように。
「始めます」
と、シャムエルが口にした直後だった。
彼女の足下から八方向へ床に亀裂が走り、それはそのまま空間を切り裂くように天井へと伸びていった。やがて床と同様に裂け目が入った天井はしだいに崩壊し始め、ついには更にその上方へと粉々に散りながら吸い込まれていった。
地盤沈下によって道路に穴が空くのとそっくりにぽっかりと口を開けた天井。しかし見えるのは空ではなかった。
マグマさながらグツグツと煮える亜空間がそこにはあった。
辺りは自然と静まりかえっていた。一体何が始まるんだ? と誰もが息をのんで見守っているのだ。
すると程なくして。
亜空間の奥から静かにのろのろと、無数の触手を有する透明な巨大ウミウシがずっしりとした胴体を見せつけるように現れた。巨大ウミウシは天井からぬるり垂れ下がり、シャムエルとムゥラ両名に向けて無数の触手を伸ばす。
そうしてまるで送電線のように二人が繋がった途端、ムゥラ側から紫色の光線が次々と吸い出され、もう一方のシャムエルへ流れていく一方通行のネットワークが完成した。
この間もシャムエルは瞬き一つしない。
かたや姉ムゥラは目を閉じてじっとしている。
「ジュノさま。やはりムゥラさんは魔法に侵されています。しかも体内に、いえ……もっと深い場所に誰かがいるようです。誰かまでは分かりません」
「顔は見えるのか?」
「いえ、見えません。ただそこから強い魔力を感じます。個人的な感触としては……、これ以上先に進んでしまうと戻れなくなりそうで恐いです……」
「無理はするなよ」
「ジュノさま、ムゥラさんの中にいるのはたぶん力のある……」
次の瞬間、シャムエルは突然自ら逃げるように触手を振り払った。
ふっと巨大ウミウシは煙のごとく消える。それから穴の空いた天井は瞬く間に元通りになり、全ては幻だったのかと思ってしまうほど一瞬にして平常へと移り変わった。
「おい! 大丈夫か!?」
床に倒れ込んだシャムエルに幼いジュノが駆け寄る。
「す、すみません。何かが襲いかかってきたように見えて……」
「無事ならそれで良い」
幼いジュノは微力ながらシャムエルに肩を貸し、ソファへと誘導した。それから少しのあいだ黙って彼女の様子をうかがい、本当に大丈夫そうだと認めてから目線を他へ移す。
「――人質って予想はどうやら当たってるみたいだな。んで、問題はこっからどーするかだ」
幼いジュノは腕を組み、脚を組み、下を向いてウーンと唸った。
「いや案外、簡単かもしれない」
と言った黒ジュノは反対にソファの上で両手両脚をどんと押っ広げ、偉そうにしている。
「出来るかどうかはさておき、彼女の中に元凶がいるならオレ達も中に入れば良い。ほら、たとえばウイルスに感染したら体内に抗生物質を投入するように、おれ達もそうすれば話は早く済むはずだ」
「ムゥの体内に入って直接そこに巣くう輩をしばくって事か? たしかにそれが出来るなら一番手っ取り早いだろうけどよ、幾ら何でもそんな都合良く他人の中に入れる魔法か魔術を扱える奴がいるか?」
「だからオレは出来るかどうかはさておきって言ったんだよ。人の心は読めても、人の深層、根深い部分、魔力でいうところの深淵に干渉するなんてものを身につけてたら洗脳だって簡単にできるだろうし、そんな反則技が都合良くあるとはさすがのオレも思わないさ」
「だったら言うんじゃねーよ」
「一応言ったまで。不可能だと分かっててもそれを実際に言う事でなにかしら次につながるかもしれないだろう?」
「ハイハイ。お利口さんの言う事はやっぱ違いまちゅね」
「…………」
黒ジュノが睨みでビーム光線のごとくジーッと正面から攻撃してくる。
そんな目に遭いながらも幼いジュノはしばし真面目に考えてみた。
根深い部分、魔力でいうところの深淵――すなわち体内に存在する魔力の供給部分に触れている病原体のような奴はかなりの手練れに違いない。そいつと同じ、あるいは似たような事を今この場で実行するにはどうすれば良いのか……。
その時、何故かふと(クラマの治療はどこまで進んだんだ?)と、まさしく深層心理にそれが根付いているように疑問を抱いた。
そして、皮肉にもその無自覚な心配が打開策を生み出す。
「……くっそ。忘れてた。いたぜ! めちゃくちゃ都合良く人の深層に潜り込める奴がっ! ただし、変態行為以外に使えるかはしらねーけど」
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