第12話『秘密を解く鍵』視点:ジュノ



「ふう」

 シャムエルは目をつぶって本を閉じた。


「あれから五時間……。まったく進展がありませんね。もうそろそろ一回目の夜を迎えますよ」


「読書ツールで速読してもまだこれだもんな。もうこうなったら人海戦術で攻めるしかねーだろ。こんなの、2人と1匹でどう戦えっていうんだよ」


「そうだね、でもまずはぼくを人間扱いするところから始めようか」


「でー」

 思いっきりジュノが無視すると、クラマは横からじーっと熱い視線を送ってくる。

 でも気にも留めない。


「思った以上に進捗度合いが低いから、攻め方を変えようぜ」


「変えるって、どんなふうにですか?」


「おれは直接ここの司書連中に聞いて回ってひとりひとりの反応を確かめてくる。もしかしたら誰かが情報を隠し持ってるかもしれない。んでお前らはどっかに魔法の効力を受けている部分がないか、もしくは魔術が隠れてないか手当たり次第探ってくれ。これはこれで非効率ではあるけど、多少の気分転換にはなるだろ?」


 聞いてシャムエルは頷く。

「確かに、それも良いかもしれませんね」


「いや待ってよ」

 本を棚に返し戻ってきたクラマが言う。

「何でジュノが聞き込み役なの? ぼくは人当たりのいいシャムエルちゃんのほうが遙かに適任だと思う」


「シャムエルに任せない理由は簡単だ。シャムエルは相手によってはすぐ信じて騙される。それに知らないやつと関係ない話で盛り上がって気づいたら閉館の時間だった、なんて事になる可能性もなくはない」


「なるほど、確かにありますね」


「シャムエルちゃん本人が認めてどうするのさ! だとしてもキミが何かやらかす事のほうがぼくは恐いよ!」


「心配すんな。……やらかしたとき用の退路は確保してある」


「やらかす気まんまんじゃないかア!」


「ま、とにかく、何かあったら勘違いでもいいから連絡してくれ。じゃ」

 ジュノは席を立ち、くるりと二人に背を向けてその場から立ち去る。




 メイン通路を通って最初に向かったのは近くの貸出案内所だった。

 見ると、幾つものホログラム表示された案内やイベント情報の奥に、司書と思しき背格好がよく似ている二人がこっちに背を向けて立っていた。様子からして恐らく何かの作業中なのだろう。

 たっぷりの後ろ髪をフィッシュボーンに編んだ二人は、背中に大きなリボンの付いた軍服のような制服を着て頭には同じ色のシルクハットを被っており、体格は小柄だった。どこをどう見ても大人とは思えない。たぶん自分より年下だろうとジュノは思った。


 チーン。

 躊躇わずカウンター上のコールベルを鳴らす。

 すると、全く同時に振り返った二人は、やはり同時に「あっ」と声を漏らした。


「ン?」

 ジュノは首を傾げる。


 声の感じから、まるで同級生と再会したような印象を受けたが、双子と知り合いになった覚えはない。一瞬、自分のほうが忘れただけかとも思ったがしかし、魔法のように同じ顔でエリートの風格をもつ女子二人を忘れるわけはない、とジュノは思い直した。

 ならばと脳内に飼っている人工知能に記憶を探らせる。過去に会っているなら必ず見つかる筈だ。


 やがて、そう間を置かずして人工知能は双子を記憶の中から掘り当てた。

 ところがその答えを自分で確かめる前に、相手のほうが先手を打ってきた。


「ン、ってもしかして覚えてないの? それ酷くナイ? あたしらはちゃんと覚えてあげたのに」


「ネ。偽のジュノってば記憶力わっるー」


 何て面倒くさそうな奴らだ、とこっそり舌打ちしたのも束の間、ジュノは目を丸くした。〝偽のジュノ〟――その台詞を吐けるのは恐らくごく限られた人間だけだ。

 そして嫌な予感を抱きつつ人工知能が見つけてきた記憶の断片を見てみると、案の定もう一人の自分、黒ジュノご自慢のハーレムの中に双子はいた。


 何故気づかなかったのか。それは恐らくウズハと、ツインテールしか目に入っていなかった為、視界には入っていたのにその存在には一切気づかなかったからだろう。


「あ、思い出したって顔だ。さては人工知能に頼ったナー?」


「別に使えるものは使っていいだろ。それよか、何でお前らがここにいるんだ?」


「何でってそりゃー、あたしらも天使の庭探しに来てるの。何か文句でもー?」

 フン、と双子は自らの腰に手を置く。

 さすが双子といったところか、息がぴったりだ。


 一方、その動作を見たジュノは何故か悔しそうに唇を噛んでいた。

「……ああクソっ! さすがおれの分身! 好みの性格までおれとそっくりじゃねーか……っ! なんて羨ましい……羨ましいぞこの野郎……!!」


 血走った目でジュノが見つめると、双子は、ひっ……、とおののいて後ずさった。

「ケ、ケダモノ……」

 ぼそっと左サイドに前髪を垂らす少女が青ざめた顔で言う。


「オイ、それはねーよ。おれはまだ何もしてねーだろ。確かに近い将来おれはお前らに酷いことをするかもしれない。だからって今からそんな扱いはひでえわ。あーおれ傷ついた。すげえグサッときたなー今の」

 わざとジュノは胸を打たれたかのような素振りをしてカウンターに突っ伏した。


 程なくして双子の気配が近づいたのを見計らい、素早く動いて双子のシルクハットをひょいっと取り上げた。


「わっ!」

 双子は揃って声をあげる。

「ちょっと! 返してっ!」

 二人ともカウンター越しに取り返そうと必死に手を伸ばしてくるが、しかし嫌らしくも一歩だけ下がったジュノには届きそうで届かない。


 するとジュノは口を大きく緩めてにんまりとした。

 おもむろに手に持ったシルクハットを鼻元へと近づける。

 クンクン、クンクン、と左右交互にソムリエのような華麗な動作で匂いを嗅ぎ、続けざまにス~っと思いっきり残り香を吸い込んだ。


「さ、最低……! 変態!」


「先に人をケダモノ扱いしたのはどなたでしたっけー?」

 ジュノはとぼけつつ未だ匂いを嗅ぎ続けている。


「ジュノ! やめてってば!」


「じゃあお前らが手に入れた情報を全部吐け。どーせ、もう何か行動を起こしたんだろ? それをおれらにも伝えようとしてたかどうかは知らねーけど、今すぐ教えないと次は今着てるその服を奪ってスカートの裾から匂いを嗅いでやる。どうだ? ぞっとするだろ?」

 相手の反応が手に取るように分かるので思わずニヤニヤしてしまう。


「そんなのぜったい嫌! 教えるから帽子返してっ!」


 ほらよ、とジュノは帽子を双子にむけて放り上げた。


「うおっと」

 二人して抱きしめるようにキャッチした双子は、それを頭に被り、ホッとする。それから互いに目を合わせ、頷き合った。

「今のところ分かってるのは――」

 先に切り出したのは先ほどとは違い、右サイドに前髪を垂らす少女。


 ところが何とタイミングの悪いことか、丁度そのとき唐突に館内アナウンスが流れた。


『当図書館をご利用中のお客様へお知らせ致します。もう間もなく日が暮れますので、夜間は足下に十分ご注意ください。夜間は館内全域に蛍火が現れますが、間近で直視し続けますと視力が低下する恐れがあります。手元用にカンテラをご利用されるお客様はお近くの職員へご遠慮なくお申し付け下さい』


「そういや、ここはそんなのあったな」

 懐かしげにジュノは呟いた。


「カンテラいる?」

 双子はすっかり図書館の職員気分でいるらしく、そんな事をさも当然といったふうに言う。


「いやいい。それより情報は?」


「あ、そうだった。あたしらは他の職員ひとりひとりに聞いて回って反応を確かめたんだけど、誰も天使の庭について知らないみたいだった。ネ?」

「ネ」

 と左サイドの少女が愛想良く返事をした。


「考える事は同じとくるとこれはますます……。いや待てそうじゃない今は下心は捨てろ。そうか、誰も知らないか。だとするとあれだな、自力か運頼りって事になるな」

 ジュノは言いながら踵を返す。


「あれ? もう行っちゃうの?」


「もう用は済んだからな」

 しかしふと足を止め、振り返る。

「ていうか防音シール貼ってるのに何でおれにお前らの声が聞こえるんだ?」


「職員だからに決まってるデショ」


「ああそうか。そうだよな。何当たり前なこと聞いてるんだおれ」

 頭をぽりぽり掻いてジュノは今度こそ双子の前から立ち去った。




 やがて図書館は暗闇に覆われた。

 そんな中、ぽつぽつと浮かぶ蛍火。まるで毛のように柔らかな緑色の光を纏う。

 危うく存在が消えかかった本もその光の恩恵を受け、うっすらとだが『本』の姿かたちを保ち続けているようだった。もし彼らが完全な闇に喰われたら一体何に化けるのか想像もつかない。

 元来、本とはそういう存在なのだ。

 見えてる時は『本』でも見えてない時は『何か』分からない。


 夜を迎えて不思議な雰囲気を漂わせる本の住処の中を歩き、ジュノが二人にメッセージを送ってから先ほどいた場所に着くと、先に来ていたシャムエルとクラマは手にカンテラを提げていた。どうやらしっかり真面目に周辺を捜索していたらしい。


「結果は?」


「芳しくないね」

 クラマは首をすくめた。


「そう簡単に見つけられるものじゃねーって事はわかってたけど、こう何も手がかりがないと手も足もでねーな」


「ということは、キミのほうも駄目だったんだね」


「困りましたね……。でも、一日で見つけなければならないって訳でもなさそうですし、のんびりやりましょうよ」

 自分でも述べたようにのんびり椅子にシャムエルは座る。


 そんな彼女とは裏腹に、内心旧冥王族の秘密を暴く未来への逸る気持ちをぐっと堪えていたジュノは、たまらず不満げな顔をする。

「のんびりってな……、そうやって時間を無駄にして歳をとって、気づいたらもうじーさんばーさんだった、なんて事になってみろ。枯れた体でおれはどう大所帯のハーレムを築くんだよ……!?」


「マジギレ!? しかも何で矛先がぼく!?」


「いやだって、キレたい時にキレたい奴にキレる、それがおれの人情だから」


「うわ……。それを人情とか言っちゃうあたり、間違いなく君はビョーキだね」


 聞いた直後ジュノは不快極まりないといった感じの、般若をも圧倒するであろう表情をした。


「おいクラマ……。人間様のおれに向かって病気とはいい度胸してるな? 自分が何者か忘れたとは言わせねーぞ? もし人間様への言葉遣いを忘れたっていうならもういっぺん地中からやり直してこい。なんならおれが直々に埋めてやろうか?」


「あー、君はほんと天晴れだなあ。よくそこまで真っ向から堂々と悪口言えるものだね」


「馬鹿野郎。悪口は本人に言ってこそだろ」


「じゃあぼくも言っていい?」


「良いに決まってる。ただし人間に生まれ変わった後な」


「…………」


「良し、んじゃ話がまとまったところで、今度はおれも手当たり次第捜索していくほうに参加して、やれるだけやるぞ」

 何食わぬ顔でジュノはシャムエルのカンテラを奪い、我先にと歩き始める。慌ててシャムエルも席から飛び出してくる。


「…………」


「おい。クラマ! 何ボーッとしてんだ? お前も来いよ!」


 呼ぶとクラマは静かにやれやれと首を振って、しょうがないといった感じで追いかけてきた。




 二人が捜索途中だったエリアは児童向けの本がずらりと並ぶエリアだった。

 当然のことながら机と椅子は一回り小さめのサイズを配置してあり、今は夜を迎えたからか、子どもの姿はどこにもない。


「どこまで探したんだ?」


「本棚の途中までですね。机とか床はまだです」


「じゃあ机と床はおれが探すから二人は本のほうをやってくれ」


「分かりましたっ」

「了解」


 シャムエルとクラマが本棚へ向かうのを見届けて、さっそくジュノは机の下に潜る。

「ういしょ」

 寝転がって机の裏にカンテラをかざした。これならよく見える。

「といっても……、こんなふうに探して見つけられるわけねーんだけどな」

 二人には聞こえないようボリュームをできる限り絞る。


「だったらどう見つければいい? 中心に据えるのは当然天使の庭、いや旧冥王族の遺産か……。そこから枝を伸ばすのは……」


 ジュノは机の裏に指先をあてがい、その皮膚をなぞっていく。

 すると指先が筆に変身でもしたかのように半透明な線が生まれた。

 線は空豆のような円を描き、続けてその円からいくつかの毛のかたちをした枝を生やす。出来上がったのはまるで神経細胞だ。


 それから中心の円の中に『旧冥王族の遺産』という文字が記された。

 次いでジュノは円から伸びる枝いっぽんいっぽんに指で触れていく。


「子孫……。未来……。争い……いや、力……。秘密……。死……。歴史……」


 直感を元に頭の中を整理していく。たった今ジュノが口にしたのは『遺産』から連想される彼なりのイメージだ。基礎となる第一のイメージを出し切ったら、今度は第一のイメージから第二のイメージへシフトする。要は枝から枝を生やすのである。


 そうしてイメージからイメージを膨らませていき、浮かび上がった全体像を見て一気に発想を広げていくのが手詰まった時のジュノのやり方の一つだった。ある魔術師からの教えである。


「子孫……悔い。未来……希望。力……金、権力。秘密……罪の告白。死……殺害。歴史……伝説。罪の告白……真相の暴露……」


 思いつく限り枝を伸ばしていく。


「伝説……言い伝え……昔話……」


 そして、ふっとジュノは溜め息をついた。


「駄目だ、まとまらねー。地球から冥王星へやってきて、初めて魔力を発見した旧冥王族……、一体どこに隠した? おれならどう隠す?」


 何とはなしに手に提げたカンテラを見る。


 内部の魔力を絶やさない限り、めらめらと燃え続ける小さな炎。ボタン一つで魔力の供給源をオンオフ出来る装置を開発したのも旧冥王族だ。

 旧冥王族と現冥王族との境目は、生殖が可能か否かにある。それまでは旧冥王族の生みの親といえば機械という常識だったのだが、ある日それを覆す出来事が起きて以来、伝染病が蔓延したかのように旧冥王族はつぎつぎと子どもを生んだ。


 するとそれを機に、手詰まり状態だったある画期的な未完成技術にも大きな変化が現れ、たちどころに完成まで至った。


 それこそが魔術である。


 腑に落ちないのは、どのようにして完成に至ったのかの部分が決まって抜け落ちているところだが、冥王族はそれについて真相は闇の中という事にしておきたいのだろう。都合の悪いことは隠す。汚い大人がいつも使う手だ……。


 ジュノはハッとなった。

「あークソ」

 と空いているほうの手で頭をかきむしる。

「関係ねー事まで考えてどうすんだよ、ったく」


 その時だった。ン? と、ある事に気づいた。


 どこからか口笛が聞こえてくる。

 本を読んで陽気になった奴がいるのか、と思うも、そういえば聞こえるのはシャムエルとクラマの声、もしくは図書館職員くらいなものだから、たぶんシャムエルだろうと当たりをつけて子供用の机から這い出る。


 見ると、口笛を吹く輩はやはりシャムエルだった。

「なに呑気に口笛吹いてるんだ、馬鹿。こっちは真剣にやってるっていうのに、勝手にサボってんじゃねーぞ」


 シャムエルは高いところにある本を取るための可動式階段のちょうど真ん中あたりに立っていた。しゃべり掛けると向こうはすぐさまこっちを振り向いた。

「ち、違うんです! 決してサボっていたわけでは!」


「ばーか。どっから見てもそうとしか思えねえっつーの」


「ジュノさま、今のは冥王族に伝わるいわゆる迷信なんです。夜、探しものをしている時に口笛を吹くと、あらびっくり探しものが見つかるってやつです」


「フーン、嘘くせーな」

 床に寝そべった状態でジュノは鼻をほじっている。


「そうですよねどうせ信じても無駄だと思いますよね……。でも、ワタシはこれで三度も探しものを見つけてるんですよっ。凄くないですか!?」


 エルフだとしたらさぞ腹黒く、悪魔だとしたらさぞ人間の血が好きであろう、そんな冥王族の瞳がキラキラと輝く。


「かー、んなの偶々だろ? 毎回口笛吹いとけばそりゃあ犬みたく棒に当たることだってあるだろうよ。それよりちゃんと探せよー? メス犬の分際でこんどサボったらお前のケツをなで回してやるからな?」


 聞くなりシャムエルは呆れ顔をしながら頬を赤くし、自らお尻をガードするように手を添えた。

「ジュノさま……そこはせめて叩いて下さい……」


「良し、ならとっとと口笛を吹け、メス犬。このおれが直々にぶっ叩きがてらなで回してやるよ」


「そうですか。ジュノさまがどうしても撫でるというならワタシも抵抗します!」

 ふっとシャムエルが可動式階段から跳んだ。

 見ると跳んですぐ魔法陣を描き、瞬く間にその中へ吸い込まれていく。


 かと思えば、人をおなじ背丈の一羽の鳥が……、いや、たっぷりの羽毛に包まれたシャムエルが魔法陣の裏側から飛び出し、空中にとどまった。


「どうです? これでジュノさまはワタシのお尻を叩くことも撫でることも出来ません!」

 えっへん、とシャムエルは自慢げに胸を張る。


 しかし残念ながらジュノは彼女に目もくれず、本棚に向かい「たぶんここにはねーだろうなー」と完全な無視を決めた。


「せっかく魔法使ったのに……」

 シャムエルの張った胸が今度はガクッと下を向く。


「おれが素直に相手するわけねーだろ、ばーか」

 本棚を調べるフリをしていたジュノはぼそっと言った。


 それから間もなく、また口笛が聞こえてきた。

 反射的に振り向けば、シャムエルはぷかぷか浮遊しながら本棚の頂上付近を調べている。


「あの魔法便利だな。……ん? あれなら梯子いらなくねえか?」


 気づいてしまったが、しかし本人には黙っていようとジュノは自己完結する。

 そうして目線を上のほうを飛ぶシャムエルから普段の位置に戻そうとした時、ふとある異変を目が捉えたことに気がつき、慌てて目線をそこへ移した。


 場所はシャムエルと机の中間辺り。


 夜間の為に存在している蛍火の数ある中のひとつがぽうっとやや強く光る。

 それが普段通りの明るさに戻ると、次は別の蛍火がまた同じくぽうっとやや強く光った。それはまるでこっちだよと道を案内しているかのように感じられた。


「……そういう事か」


 ジュノは目を丸くしながら呟く。

「気づけよクソ……。言い伝え、迷信、ちょっと考えれば分かる事じゃねーか。……いやそれでも、冥王族の吹く口笛が鍵の役割を果たすっていうのは、やっぱ気づけなかっただろうな……。ああ、なるほど。防音シールをつける図書館なら口笛を職員以外の不特定多数に聞かれる心配はねーもんな。でも蛍火の光は……」


 周囲を見れば利用者は皆、カンテラをそばに置いて本にかじりついていた。


「ここを使うやつはそんなの気にしねーか」

 一人そっと鼻で笑うジュノは、うっし、と声を発し、

「シャムエル、クラマ、行くぞついてこい! 最上級魔導士のおれ様に掛かれば天使の庭だろうと便所だろうと、見つけるのは簡単だってところ証明してやるぜ」


 と全身全霊で、得意満面の笑みを浮かべた。

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