第4話


朽樹、ゼン、エル、そして霊体の溝呂木は瞬間移動の魔法で溝呂木の勤務先である『レンタル藤岡シーブッヤ店』の前に移動した。


8階建のマンションの1階全フロアをコンビニと一体型なっているお店で地域密着型のレンタル店らしいこじんまりとした雰囲気を出していた。


「いらっしゃいませ~。」と朽樹、ゼン、エル、溝呂木が店に入って行くとレジカウンターに居た一人の男性店員が声を上げた。


「溝呂木、先ほど言った火属性魔法の上手い奴はおるか?」とエルは溝呂木に声を掛けた。


「レ、レジに居てる店員がそうでござる…。」少しオドオドとした感じで溝呂木は答えると溝呂木の声を聴いて男性店員が此方に目を向けた。


「あれ?、溝呂木さんじゃあないですか?、昨日は夜勤で今日は休みなんじゃあないですか?…って、あれ?。溝呂木さんなんか少し透明に見えるんですけど…?」


とレジカウンターに居た男性店員が目を擦りながら言った。


「じ、実は拙者、少し前に死んじゃいまして…。」申し訳なさそうに頭を掻きながら溝呂木は言った。


「はっ…!?!?!?」男性店員は溝呂木の言っている事が全然全く理解できていないので朽樹が簡単に説明すると軽く絶叫して腰を抜かしてしまった。


「マ、マジですか…。私、召喚魔法を見たの初めてなので霊体を見るのは初めてですよ…初めて見る霊体が溝呂木さんだなんて…チョット複雑な気分です…。」


と男性店員が言いうとしばらくして立ち上がり溝呂木を珍しそうに見た。


「すみませんがあなたのお名前は聞いてもいいでしょうか?」と朽樹が落ち着きを取り戻した男性店員に聞いた。


「え?…あぁ… 寿々蒸 ひろし(スズムシ ヒロシ) です。」と男性店員は朽樹に答えた。


「すまぬがあくまで任意じゃがお前さんの記憶を少し調べさせてもらえぬか?」とエルは 寿々蒸 に言った。


「えっ?、あぁ…アリバイですか…良いですよ。」寿々蒸 は大体の事情を察してエルに答える。


「そうじゃな…溝呂木が死亡した3時間前の20分前後を調べるから大体5分程かかるが今からでもよいか?店の方には悪いが…。」とエルは 寿々蒸 に言うと昼間は殆ど客が居ないので大丈夫と答えてエルの指示の元、レジカウンター内にある丸椅子に座りエルに背を向ける形で座るとエルは 寿々蒸 の後頭部に手をかざした。


するとエルのかざした手と後頭部の間に直径30cm程の金色の魔法陣が二重に浮かび上がり魔法陣の一つは時計周りにもう一つの魔法陣は逆回りに高速に回転しだした。


「う~む…溝呂木が死亡した時間には此処で働いておるの…。」と目を瞑りながらエルは言うと少しして金色の回転している魔法陣は掻き消えかざした手を下ろしてエルは目を開いた。


「そりゃあ、そうでしょう。私は殺していませんから…第一に溝呂木さんを殺すほど恨むなんてありえませんから。」と 寿々蒸 は自慢げに エル に向かって言った。


「溝呂木を恨んだりしている奴はいるか?」と ゼン は 寿々蒸 に聞いた。


「う~ん……。ちょっと考えられませんね…溝呂木さんを恨んでいるなんて…言動や行動はちょっと変なところはありますが根は凄く面倒見が良くて真面目な人ですから…。」


腕を組みながら少し考えて 寿々蒸 は答えると溝呂木は頭を掻きながら照れくさそうにしていた。


「…で、溝呂木さん死んじゃってるんですよね?…此処のバイトはもう来れないんですよね~…オーナーが聴いたらショックだろうな~結構溝呂木さんの事、頼りにしていましたから…。」


と 寿々蒸 は少し残念そうに霊体の溝呂木を見ながら言った。


「そうでござるな…オーナーにはすごくお世話になったのでござるから…拙者もショックでござる…なので警察の方々、何としても私を殺した犯人を逮捕してほしいでござる!!。」


と溝呂木は朽樹に拝む様に手を合わせながら訴えかけるように言った。


「わ、分かりましたから手を合わせるのはやめてください霊体の方から拝まれたりしたら変なプレッシャーが…じ、じゃあエルさん…残りはアイドル関係の友人ですか?」


「そうじゃな…現状で可能性を含めると…そうなるのう…。おい!溝呂木、そのアイドルとやらの関係の友人は何処におる?。」


「その事でござるが今日の3時に昼の部のライブステージでハルハルが降臨するのでおそらくは彼奴も居てるはずでござる。」と溝呂木は答えるとエルは自分のパーソナルシステムを脳内表示で時間を確認して現在2時過ぎだと溝呂木に伝えるともうすでに会場に居てるはずだと溝呂木は答え、エルは溝呂木に会場の場所を聞きエルの瞬間移動で直ぐに向かった。


ライブステージの会場近くに瞬間移動で到着するとそこには溝呂木と同じ服装、同じ姿の人物が数百人規模でひしめき合っていた。


「……なあ溝呂木よぅ…お前…溝呂木という種族か?…」とひしめき合っている同じ姿の溝呂木もどきをみてゼンは言った。


「お前が此処に紛れたら探し出せる自信がないのう…」とエルは自分の目頭を押さえながら言った。


「あのう…そこら中から反響しているように、『ござる』とか『乙wwww!』とか溝呂木さんの声が聞こえるのですが……。」と朽樹は溝呂木の方を向いて話したが溝呂木は無言で目を逸らした。


エルは溝呂木にその火属性魔法の上手い友人を探すように言おうとした時、エル達の後ろでドサリ!、と人が倒れる様な音が聞えた。


朽樹、ゼン、エル、溝呂木は後ろを振り向くと姿形が溝呂木と同じで眼鏡をかけている人物が驚きの表情を浮かべ尻もちを付いた格好で霊体の溝呂木を凝視していた。


「溝呂木…お前、双子だったのか?」とゼンは霊体の溝呂木と尻もちを付いて座っている眼鏡をかけた溝呂木もどきとを交互に見て言った。


「ち、違うでござるっ!!。全然似てないでござる!!」と声を張りながら霊体の溝呂木が言った。


「「「似すぎだろ!!!」」」朽樹、ゼン、エルは声を揃えて霊体の溝呂木に言った。


「なっ!、なっ!、なぜっ!、こっ溝呂木が生きてるのだっ!お主はあの時死っ…!」と眼鏡を掛けた溝呂木もどきが驚愕しながら言っていたが慌てて両手で自分の口を押えた。


その言葉を聴いた瞬間、エルは瞬時に空間魔法を展開した。エルを中心に白っぽい淡い光を放つ透明な立方体が瞬く間に大きくなると同時に立方体を境にして景色がすべて灰色になって周りに居た朽樹、ゼン、エル、霊体の溝呂木そして尻もちを付いて座っている眼鏡をかけた溝呂木もどき以外の人が次々に姿を消していった。


立方体が約800mの大きさで留まり、立方体の外側は普通の景色が広がり内側はすべて灰色になった景色が広がっている奇妙な空間が出来上がった。


「さて、溝呂木の双子の兄?、弟?どっちかのぅ…眼鏡を掛けた溝呂木。ここは人払いと拘束用に作った空間じゃよって逃げられはせぬからゆっくり話を聞こうかの…。」とエルは眼鏡を掛けた溝呂木もどきに言った。


「「ふっ!、双子ではござらぬぞっ!!。どっ!、どこが似ているのでござるかっ!!!」」と全く一緒の声で全く一緒のタイミングで霊体の溝呂木と眼鏡を掛けた溝呂木もどきが言った。


「…。」


「…。」


「…。」


朽樹、ゼン、エルは能面の様な顔になり言葉を失った。


「…じゃぁ、お前の名前は何と言うのじゃ?」とエルは眼鏡を掛けた方の溝呂木に名前を聞いた。


「金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 ( こんごうじひろっかくざんえいきざぶろうざえもんのしょうひでやす ) でござるっ!!」と眼鏡を掛けた溝呂木もどきは堂々と自分の名前を言った。


「…。」


「…。」


「…。」


朽樹、ゼン、エルはまた能面の様な顔になり言葉を失った。


「おい溝呂木もどきよ、ワシはそういうおちょくった事をする奴がワシは嫌いなのでな。男らしく本当の名前を言った方が良いぞ。」とゼンは両手に力を込めて指をパキパキと鳴らしながら言った。


「…ほ、本名でござる…」とボソリと霊体の溝呂木は言うとすぐさまエル達は溝呂木に目を向けると瞬時に溝呂木は目を逸らした。


「…。」


「…。」


「…。」


朽樹、ゼン、エルはまたまた能面の様な顔になり言葉を失った。


「お前達の存在自体が嫌がらせに思えてくるのう…。まあそれはさておき先程のお前の言動…溝呂木を殺したのはお前じゃな…まあ、記憶を見れば一目瞭然じゃから隠しても無駄じゃよ。」


とエルは 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 に言っていると 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 はゆっくりと立ち上がり俯いて何やらブツブツと言い出した。


「…いっつも、いっつも、何時も!何時も!何時も!何時も!ももももwwww!!!なんで貴様は拙者の邪魔をするのでござるかwww!!ライブの席だって!なんでいっつも拙者よりも貴様がハルハルの近くなんでござるかw!あの時だって貴様が前に居なかったらハルハルのリボンは拙者が取っていたでござるのにwwww!!!!拙者が居なかったら貴様なんかぼっちのくせにwwwハルハルは…ハルハルは…拙者の嫁でござる…嫁でござる…嫁でござる…ござる…ご…」


「………」霊体の溝呂木は友人の 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 が半ば発狂のごとく言っていることを聞いて呆然と立ちすくんでしまった。


「姿形はそっくりじゃが中身は全然違うのう…さっき会ったばかりじゃが溝呂木の方がお前よりはるかに立派のようじゃ…まあぁ…うだうだ聞くもの面倒じゃから署に連行しようかの。それからお前如きの魔力では抵抗しても無駄じゃからな、おとなしくした方が身のためじゃ。」とエルは 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 に気怠そうに言った。


「うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!うるさいっwwwwwwww!!!。」と半狂乱状態の 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 は叫びながらエルに向かって両手を突き出す様に構えると掌から直径1m程ある赤く光る魔法陣が現れた。


「ん?…その魔法陣の大きさからするとあと少しで中位魔法クラスを習得出来そうじゃのう…もったいないのう~見るからに溝呂木と年齢はさして変わらぬと思うが…その年で中位魔法クラスを扱える者は少ないはずじゃからある程度裕福に暮らせるものを犯罪に手を染めて人生を棒に振るとは愚か者じゃのう…。」とエルは少し呆れた雰囲気を出しながら 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 に言った。


「宗一郎や悪いがお前さんの実力がどれほどか見させてもらえるか?。」とエルは朽樹に言うと朽樹はエルを庇うように前に出て 金剛慈悲六角山衛喜三郎座衛門乃将秀康 に向かい合った。


「は、はいっ!。わかりました。」と朽樹は少し緊張した感じでエルに言うと右腕から直径30cmほどの青白い光を放つ魔法陣が腕を輪切りにする様に3個現れた。


「ふむ、ふむ…上出来じゃ。」と朽樹の魔法の使い方を見て満足そうにエルは言った。



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