何故、ナイアルラトホテップは封印されていない?

𠮷田 仁

                     

 Cthulhuクトゥルー神話の邪神達はElder Godsに依り封印されている。現在も尚、書き継がれているCthulhu神話の多くはそうした認識の上に成り立っている。その中で邪神達の使いっ走りともトリックスターとも云われる這いよる混沌Nyarlathotepナイアルラトホテップだけは封印されていない。これも又、邪神達の封印を認識している人達にとって、ほぼ共通した認識だろう。だが、その理由について考察した人もあまり居ない。Nyarlathotepは何故か封印されていない・・・だけなのだ。まるで居ない訳では無い。イギリスのBrianブライアン Lumleyラムレイは明確な答えを出しているが、彼の考察に従えば、嘗てH.P.Lovecraftラヴクラフト(以後H.P.L)が書き記した、這いよる混沌がAzathothアザトースの子供であると云う設定が成立しなくなってしまう。

 そもそもNyarlathotepが封印されていないのも、トリックスターであるのも全ては偶然の産物だったりする。元々この名はH.P.Lが或る詐欺師をテーマに書いた散文のタイトルから来ている。此処では邪神ではなく詐欺師だった。しかしこの名をH.P.Lが気に入っていたのか、Nyarlathotepは邪神として再登場する。しかし人間の姿を取ってはいなかった。Nyarlathotepが人間の姿を取り人間と会話し主人公を落としいれようとして失敗すると悔しがる様子を見せるのはH.P.Lの創造物やキャラクターが次々登場するセルフパロディ的なお遊び作品「The Dream-Quest of Unknown Kadath(未知なるカダスを夢に求めて)」での事だ。この作品はH.P.Lには公表する気が無く、彼の死後、発見したAugustオーガスト Derlethダーレスに依って不本意な事に発表されてしまったもので、つまり人間との意思疎通が不可能なH.P.Lの宇宙的邪神群の中にあってNyarlathotepの人間臭い部分はH.P.Lの構想の中の事では無く、彼自身のセルフパロディの中での事だったのだ。そしてH.P.Lは元々、彼等神々が封印されているなどとは記述していない。只、作品の都合上、神々、Yogヨグ-SothothソトースやCthulhuに大手を振って街中を歩き回られたりしては困るので限定的な出現のさせ方をした結果、封印されていると云っても、その様に見える形に成ってしまっているだけなのだ。そして、矢張り作品の結果、それに当て嵌まらないのがNyarlathotepで、だから唯一封印されていない神と云う事に成っただけの事だ。

 それでは邪神達が封印されている事を前提に、何故Nyarlathotepだけが封印されていないのだろうか?あくまで、わたし個人の考えだが、Elder Godsがわざわざ封印を施そうとしなかったのではないだろうか。彼等にとって封印はそれ也の労力を必要とするもので、Nyarlathotepに対しては、その労力を支払う必要を認め無かったのではないだろうか。Elder Godsにとって、Nyarlathotepは封印するにはあまりに小物過ぎたのではないだろうか。

 確かにNyarlathotepは放置しておくには危険な存在だ。人間にとっては。極端な場合、核戦争を勃発させて世界を終わらせるかも知れない。だが、そう成ってもそれはNyarlathotepの力に依るのではなく人間の力だ。そう考えると、Nyarlathotepが人間達の間でトリックスターとして色々動き回っているのも自分に大した力が無いからではないだろうか。

 わたしは、Elder Godsが邪神達を封印した際、Nyarlathotepは小物過ぎて無視されたのだと想っている。

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