第10話


 ゴーン ゴーン ゴーン





 鐘の音が聞こえる。



 俺は誰かに刺されたらしい。



 くそっ、起き上がれない。せめて、せめて、俺を刺した奴の顔だけでも......




ーーーーーーーーーー



「え、あ、はるくん、お、おはよう」


「......え?」




 気がつくとそこにはほのかがいた。


「な......っ!?いや、さっき、俺は刺されて、あ、うぅっ......」



 胃の中の物が逆流しそうになる。口を手で押さえて吐きそうになっているのを堪えているとほのかは慌てた様子で謝ってくる。



「あ、や、はる......くん?ご、ごめんっ、なさいっ、そんな、起きてたって気付かなくて、えっと.....きゃっ!?......あ、あれ?はるくん?」



 俺は先程の死の恐怖から逃れるために、みっともなくもほのかに抱きついてしまっていた。





ーーーーーーーーーー



「はるくん?落ち着きました?」



 俺がほのかから離れるとほのかは心配そうな目で俺のことを見つめてくる。やばい、状況が状況だったとはいえ、もの凄く恥ずかしい。



「わ、悪かった、ほのか。その......変な夢見ちゃってさ。ところで、今日って何年の何月何日だか、わかるか?」



「えっと、今日、ですか? えっと、2016年の11月10日です!」



 夢、いや、そんなはずはない。俺は確かに、2016年11月10日を既に『一度』体験している。それに、はっきり言って、さっき自身に起こった死の体験が偽物であるとは到底思えなかった。異物ようなものが体の繊維を切り裂き体内に入り込んでくる感覚、そして胃からは逆流し、そして傷口から流れ出る血の感覚。あれが夢であったはずがない。



 だけど、一体、なにが起こったのか。



「は、はるくん? あの、顔色も悪いですし、今日は学校はお休みしますか?皇君にでも連絡してノート取っておいて貰えばーー」


「いや、大丈夫。本当に悪い夢を見ただけ。心配かけて悪かったな。それより、急がないと学校遅刻しちゃうな、ほら、着替えるからほのかは出てった出てった!」



 俺はどうにか心配するほのかを部屋の外に出し、制服へと着替え始める。はっきり言って、学校になど行きたい気分ではないがそうも言っていられない。確認しなければならないこともある。



ーーーーーーーーーー



 学校に行くとやはり、人混みが出来ていた。やっぱり、そうだったか......俺は人混みの中から皇を見つける。


「皇、なにがあったんだ」


「神宮寺、ああ、じつはーー」



 皇から話を聞くと、やはり俺が意識を失う前と同じ状況であることがわかった。これは一体.......どうなってるんだ。



「まあ、そうは言っても、ちょっと気になる事があるんだよな......そうだ、この事ーー」



「待ってくれ、気になること、気になることってなんだ」



 俺は前回聞き流してしまったことを皇に聞き返した。すると皇はバツの悪そうな顔をする。



「いや、な、実はなんでかよく分からない噂が流れてるんだ........なんでも、今回の事件、実は自殺じゃなくて殺されたんじゃないか。しかもその犯人ていうのが.......」


 そこで皇は口ごもってしまう。なんだ、なんだっていうんだ?


「おい、どうしたんだよ、そこまで言ったなら聞かせてくれよ」



 俺がそういうと皇は決心したかのように真剣な目になる。



「お前ら、現代社会研究部の誰かが梅野さんを殺したんじゃないかってな」



「な、なんなんだよそれっ!??」



 俺は思わず声を荒げる。噂にしてもそんなこと、ふざけている。だか、皇は真剣な顔で話を続ける。



「いや、もちろんそんなはずはない。気になることっていうのはつまり、そんな噂を誰が流したのかって話しだ。 お前らに気付かれる前に噂の元を潰そうかとも思ってたが、まあ、お前も当事者だしな」


「あぁ、悪いな。ちなみに噂の内容もう少し詳しく教えてくれるか?」




 皇の話によると、噂の内容はこうだ。

 


 生徒会は現代社会研究部に対して、廃部勧告を行った。現代社会研究部の1人が引き抜きに応じて生徒会に入ることで話は無くなったが、その他の部員が生徒会役員を逆恨みして自殺に見せかけて殺した。そんなものだ。



 はっきり言って意味がわからない。そもそも、廃部勧告を受ける事から人を殺す。という発想も話が飛躍しすぎだし、もしそうだとしたなら、そもそも狙われるのは生徒会のトップ、アリサ会長のはずだろう。



「だから言ったろ? この噂に整合性なんてもんはない。だけど......流石に友達をそんなたちの噂で苦しめようとしている奴がいる。俺はそれを許せない」



「皇......ありがとうな。ちょっと、俺のこと好き過ぎて気持ち悪いけど」



「なっ......!? てめえー!」


「はははっ!」




 だが俺達を貶めようとしている奴が居る、それは分かった。なんで1回死んだはずの俺が眼を覚ますと無傷で、しかもその日の朝にタイムスリップしてるのかは分からないが、それはそれで都合がいい。謎は多く不安だらけだが、俺はそのまま教室へと向かって行った。



 

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