第2章 崩壊

第9話

「ねえ、はるにい。どうしたの?なんか元気ないよ?」


 杏梨が俺の様子に気づいたのか、話しかけてきた。幸い、ほのか達は話に夢中な様で俺の様子には気づいていない様だ。杏梨は頭はあまりよくない、というか、アホの子だ。だがなんというか、動物的なカンが鋭い。



「ん、あぁ、いやほら、今日亡くなったっていう子の事考えててさ」



 そういうと話に夢中になっていたほのか達もこっちを見てくる。俺は皇から聞いた話から話しても問題のなさそうなところを抜粋して杏梨達に話した。



「それで、はるにいはどうしてそのことについてずっと考えてるの??」


 杏梨は不思議そうな目をして尋ねてくる。



「いや、だって普通に考えてておかしいだろ?生徒会に入る様な子だしいじめられてるって感じもしなかったし。いや、そりゃ気づいてなかっただけかもしれないけど急な自殺なんて考えられーー」



「い、いや、そうじゃなくてね?はるにい」


 すると杏梨は俺の言葉を遮るように自らの言葉を被せる。



「別に、そんな事どうだっていいじゃん」




 ......え?



「ん。杏梨のいう通り、私も、なんではるとが『そんなこと』を気にしてるのかわからない」



「確かに、私もわかりませんわ。なぜ『そんなこと』に春翔さんが頭を悩ませているのでしょう」


「な、み、みんな、何言って......だって、現に人が死んで......ほのか、お前だって......」



 俺は唯一口を開いていなかったほのかに話しかけた。しかしほのかはやはりまた不思議そうな顔をしてーー


「ごめんなさい、はるくん。私もちょっと......だって、それ、私たちと『関係ない』じゃないですか?」



「っ......!!」



 俺は部室から飛び出していた。




ーーーーーーーーーー



 気付くと、俺は生徒会室の前に来ていた。扉に手を掛けると鍵が開いていることに気がついた。



「あ、アリサ会長?」



 生徒会室にはアリサ会長が1人で座って昼食を取っていた。目の下にはクマが出来ていて、少し疲れた様子だった。


「ああ、神宮寺春翔ですか。どうしました?いつもの通り部室で昼食でも食べているものかと」


「いえ、その......ちょっと気分になれなくて飛び出して来ちゃったと言いますか、ははは......」



 俺が頬をポリポリとかきながら気まずそうにしているとアリサ会長は優しく微笑む。



「いいですわ、話を聞いて差し上げます。話してみなさいな」



 俺は部室での出来事を話した。アリサ会長と話していて改めて冷静になって考えて見ると、確かにほのか達は亡くなった庶務の梅野さんとはほとんど面識もなかったし、俺だってまだ知り合ったばかりだ。そこまで気にすることじゃないという意見も分からなくはない。



 しかし、俺は4人の性格を知っている。褒められるものではないが、俺の知ってる4人は誰かが怪我をしたり風邪をひいたりしただけで学校をサボってでも看病をしにくる様な、優しい性格だ。



 いくら自分の知らない人であっても、普通は同じ学園の生徒が亡くなった、だなんて大きな問題を『そんなこと』だとか、『関係ない』などと平然と言えるだろうか?



 一通り話終えるとアリサ会長は難しい顔をして考え込んでいる。そして俺はそれに、と言葉を付け加える。



「それに、そもそも梅野さんだって自殺する様には見えないんですよ。確かにあったばかりですし、そんなに梅野さんの事知らないけど、昨日の梅野さんはすごく楽しそうで......その何時間か後に自殺する様な人のとる態度じゃなかった様に思えて」



 すると会長は軽く頷くと話し始める。



「私も、梅野の死は少し腑に落ちないです。梅野がいじめられているだとか、家庭に問題があるかどうかは生徒会役員になる際に調べましたし。ですが、自殺でないとするならば、それは......」



「もしかしたら誰かに殺されたのかもしれません。いや、何の証拠も無いんでそんなこと言ったら笑われるかもしれないですけど」


 やはり、梅野さんは誰かに殺された。その線が強いだろう。アリサ会長は少し考え込んだ後、言いづらそうな顔をしながらこっちをみてるくる。何だろうか?



「聞きづらいことなのですが、先ほどの話を聞いて、少し思ったことなのですが......」



 先ほどの事??何のことだ?



「もしかしたら、梅野を殺したのはあなたの幼馴染達のうちの誰かかもしれません」




ーーーーーーーーーー



 俺は今日、珍しく1人で帰っていた。



ーーもしかしたら、梅野を殺したのはあなたの幼馴染達のうちの誰かかもしれませんーー



 別に皆を疑っていて1人で帰っているわけではない。ただ、色々頭を整理する時間が欲しかった。俺はそんなことを言われて思わず笑い出してしまったが、アリサ会長は真剣な顔で訴えてきた。



「まさか......な」



 そんな時考え事をしていたのがいけないのだろう。角を曲がると人とぶつかってしまった。ごめんなさい。そう声を掛けようとするとーー



「ご......ぶはぁっ!」



 胃からは赤黒い液体が逆流し、溢れ出てくる、なにやら脇腹が熱い。そう思った瞬間腹部に激痛が走った。痛みに耐えきれず、俺は思わず地面に伏してしまう。








「さよなら」



 頭へとナイフを振り下ろされる。そこで俺は意識を失った。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る