第8話


「んんん......」



 俺は珍しくほのかに起こされる前に目が覚めた。ん?



「え、あ、はるくん、お、おはよう」


 ほのかだ。目の前にほのかがいた。ん?ほのか?なんでほのか? 俺は寝ぼけ眼をこすると冷静になって今の状況を考える。



「おい、なんでほのかが俺の中に部屋にいるんだ」



 俺がそう指摘するとほのかは慌てた様子であたふたしている。


「いや、あのねっ!今日はちょっと早めに起こそうかなーって思ってはるくんの部屋の前に来たら、ドア開けっ放しだったんですよ!!それで!どうせならサプライズ〜て感じで起こそうかなー?なんてーー」


「分かった分かった、いいから、思春期の男子の部屋に勝手に入るな。着替えるから出てけ」



 俺はそう言うと、半ば強引にほのかを部屋の外に押し出した出す。そして、服を着替える前に軽くベットを整えようと今まで寝ていたベットに戻った。ん。なんか口元によだれが、枕もちょっと汚れてるし......よだれ垂らしながら寝るって.....俺って......



 そんな自己嫌悪とその顔をほのかに見られたのではないかという羞恥心を感じながらも今日も俺の1日は始まった。




ーーーーーーーーーー



 いつもの様にみんなと登校してると、何やら校門には普段からは考えられない程の人だかりが出来ている。そこには黄色いテープが張り巡らされていて、何やら見慣れない人たちも大勢いる。一体何があったんだ?


「ん。なんだろね」


「まあまあ。確かに刹那さんのいう通り、すごい人だかりですわ....」


 そうしていると、俺は人ごみの中に皇がいることに気がついた。皇はいつになく真剣な表情をしていて、何か考え込んでいる様だった。こう言う時は皇に聞くのが一番早いだろう。俺はほのか達に少し待っている様伝え、1人皇の元に駆け寄った。



「よう、皇。なんだ?朝っぱらからみんな集まって何をしてるんだ?......って、おい!」



 声をかけても気づいていない様だったので肩を叩くと、ようやく俺がいることに気づいた様子の皇は神妙そうな面持ちで説明しはじめた。



 どうやら、昨日の夜から明け方の間に我が校の生徒が校舎内に忍び込んでいたらしい。それだけなら、おそらくこの学校の守衛が少し上からいびられるくらいの、その程度の話だったんだろう。



 しかし今朝、3年C組の担任が、自分が顧問をしているというサッカー部の朝練をしている時、飛んで行ったボールを花壇へと拾いに行ったマネージャーの悲鳴を聞き、事態が発覚した。ーー生徒の死体があったのだ。


 ちょうどその花壇の上の屋上のへりのところには、亡くなった生徒の靴が揃えて並べられていたという事から自殺の線が濃厚だろう、と皇は言う。




「まあ、そうは言っても、ちょっと気になる事があるんだよな......そうだ、この事、あんま言うなよ?たまたまそのマネージャーが俺のハーレムメンバーだったからここまで詳しいってだけで、まだ警察もそこまで公開してないからな」



「あ、あぁ、わかったよ。ところで、さ。その、亡くなった生徒の名前って分かるか?興味本位であんまり聞くのが良くないってのはわかるけど、名前くらいは気になってさ」



「あ、あぁ、それはまあ、遅かれ早かれみんな知る事だろうしな。俺もあんまりよく知らない子なんだが......たしか、梅野、さん?梅野桜子って名前だったはずーーおい、どうした?」


「い、いや、なんでも、ない」



 梅野桜子。それは、俺が昨日初めて会った、生徒会庶務の後輩の女の子だった。




ーーーーーーーーーー



 きりーつ。れい。ちゃくせーき。


 午前の授業が終わり、昼休みになる。俺は授業の内容に一切集中する事が出来ないでいた。


 まさか、あの子が、自殺なんてする訳がない。自殺を考えていた様な子があんな事を言うだろうか?そう1人で考えているとほのかが心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。



「はるくん。大丈夫ですか?朝から元気ないみたいだけど......」


「あ、ああ、心配かけてごめん。体調が悪い訳じゃないんだ。それより、もう昼だよな。部室行くか」



 昨日初めて会ったとはいえ、知っている人が急に亡くなっていい気はしない。俺は、あまり気乗りしない気持ちを抑えつつ、ほのかと一緒にみんなの待つ部室へ行くために教室を後にした。




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