第62話 アルマダの海戦でスペインは勝利できなかったのか?

 61話を読んでから読むことを推奨します。


 アルマダの海戦でスペインは勝利できなかったのか?

 まずは、アルマダの海戦についてのまとめを書いてみます。


●アルマダの海戦とは?

 スペイン無敵艦隊の英国侵攻における1588年7月21日から7月30日にかけての各種戦闘の総称。(WIKIのコピペ)


◆もうすこし噛み砕いて言うと、

 スペインが、イングランドの王位争いに介入して失敗したので、今度は力づくでなんとかしてやろうとした海戦。

 当時世界最強と思われていたスペインの無敵艦隊(アルマダ)が、イングランド海軍に惨敗した一連の戦いのこと。

 これをきっかけに、イングランドの国際地位が向上し、後の大発展につながると一般的には言われている。



●イングランドが勝てた要因

 簡単にまとめてみると、三つの要因があると思われる。


◆船舶の差

 波の穏やかな内海用のガレーのスペインに対して、イングランドは外洋向けの帆船。そしてこのころ、海戦の主体が白兵戦から砲撃戦に移行しつつあり、白兵のガレーではダメなことはおさっしください。


◆ネーデルラントと戦争状態にあった

 スペインは、ネーデルラントにいるファルネーゼ公と合流し、上陸戦を行うつもりだったが、ネーデルラントの妨害にあいそれは適わなかった。もし、合流できていれば、戦況は変わったかもしれない。


◆海戦のエキスパートがいなかった

 なぜか、海の戦いで陸戦部隊をもってきたスペイン・・。これは、上陸してからが勝負とでも思っていたのか?

 さらには、司令官に素人のシドニアという人物を置いたことも敗北要因の一つと思われる。


●最初に・・このままの条件でアルマダの海戦を戦った場合・・。

 アルマダの海戦と同じ条件で、スペインとイングランドが戦った場合・・わたしの予測するスペインの勝率は・・・・・


 ・・・・・・・・

 0%・・・・・・・・。

 10回やれば10回負けます。


 勝負事ですので、展開のあや?というものは確かにあると思います。しかしながら、この海戦に限って言えば、あやがあろがなかろうが、スペインの敗北は確実だと思われます。


 アルマダの海戦でスペイン・イングランド共にそのままの条件で戦えば、スペインの勝利はないと結論づけました。

 それを語る前に、なぜスペインは陸戦中心の部隊を組んだのでしょう。


●テルシオ陣形

 15世紀に開発されたマッチロック式小銃と呼ばれるものは、日本で親しまれている名称を使うと火縄銃と標記される。この火縄銃の仕組みは、火薬と弾丸を銃口から装填し、火縄に火をつけ引き金を引くと、着火し弾丸が飛ぶという仕組みである。

 このマッチロック式小銃の利点は、値段が安価なこと。ただし、装填速度に難があるので、装填中の時間を食い止める必要があった。

 これを効果的に採用したのがテルシオ陣形である。


 テルシオ陣形は、スペインが開発した射撃銃と装填の間に方陣(主に槍兵)で守らせるテルシオ陣形を開発。

 この陣形は、当時ヨーロッパ最強との歌声が高かったフランス陸軍を完膚なきまでに叩き潰したほど強力であった。さらには、銃器はピサロやコルテスらコンキスタドレス(征服者)が新大陸でアステカ文明を滅ぼすときにも活躍している。


 こういう事情があって、ゲーム内のイスパニアは火器が盛んなのだろう・・。しかし史実では大砲生産が盛んだったのはフランスだったそうである。


 こういった強力な陸軍を持つスペインは、ブリテン島(イングランドのある島)へ上陸し、陸戦をしたかったのだろうか?

 はたまた、白兵中心だった先のレパントの海戦と同じような戦いを想定して陸軍中心の部隊を組んだのだろうか・・・。


 その答えはどうやら両方である。

 アルマダの海戦開始前の1587年にカディス港をフランシス・ドレーク率いるイングランド艦隊に襲撃される。これを迎え撃ったスペイン艦隊は、イングランドのガレオンの前に全く歯が立たず完敗。

 このことから、スペイン王フェリペはイングランド海軍は驚異的な強さを持っていると認識していた。だからこそ、ネーデルラントにいたファルネーゼ公の軍隊も合流させようとしたのだ。

 スペイン海軍で、まともにイングランドのガレオン船と戦うとかなり不利が予測される。

 だからこそ、防御艦隊で上陸し、自慢の陸軍で決着をつける必要が出てくる。また、海戦になったとしても、精強な陸軍を置いていれば、白兵で戦況を打開できるかもしれないと考えたのではなかろうか・・。(もちろん、砲撃主体の大きな海戦を経験したことがないので、レパント海戦を想像することもあると思われる。)


 そんなわけで、今の我々の眼からみると信じられない陸軍中心の海戦を選んだスペインにもちゃんと理由があったことが読み取れる・・。


 スペインとイングランドがそのまま戦った場合、スペインの勝率は限りなく0に近い。そこで、どうやっていればスペインが勝てる可能性が出てきたかを見てみよう。


●船を入れ替える

 これは現実的に不可能・・。というのは、スペイン無敵艦隊を編成するのに莫大な費用がかかっており、その船を全て捨てて新たに新造船を導入するなど資金的に不可能であり、戦略的に見てもよろしくなさすぎる作戦と思われる・・。


●司令官を入れ替える

 シドニアは、全く海戦の経験がなく、性格的にも穏和な人物で、軍事行動の司令官と正反対にいる人物だった。

 さらに、大貴族で誰からも当たり障りないので彼が司令官に選ばれたのだ。

 ならば、軍事的に無能なシドニアを、海戦経験豊富な人物と入れ替えてみては戦況がよくなるだろうか?


 答えはNOである。

 「シドニアならどの貴族も納得する」という点においてシドニアは、今回の司令官に適していると考える。

 もし、シドニア以外の人物が司令官につけばスペイン艦隊は全くまとまりを欠いたものになってしまうだろう。(プレヴェザの戦いで、圧倒的戦力を持った連合艦隊が不和のため、ハイレディンに敗れたように・・)

 ただ、シドニアは戦いには全く不向きな人物。しかし、彼は人の言うことに紳士な姿勢で聞く耳は持っている。

 ならば、彼を表に立て、補佐という名目で軍事指揮を取れるプロフェッショナルがいたらどうだろうか?

 これならなんとか統制が取れ、さらに指揮も今までよりはましになるだろう・・。


●戦う海域を変えてみる

 目的がイングランド上陸である以上、海域変更は不可能・・。この選択を変えることは戦争をする意味がなくなってしまう。


●ネーデルラントと和解する

 これも不可能・・。当時のネーデルラントに対する苛烈なスペインの弾圧の原因は、新教とカトリックの宗教問題から。

 ネーデルラントが新教だったために、熱心なカトリック教徒だったフェリペはネーデルラントに弾圧を加え、ネーデルラントはそれに反発し独立戦争に発展して行く。敵対度としては、イングランドよりはるかに高いネーデルラントと和解は全く持って不可能だろう・・。

 しかし、それではIFは語れない、手のひらを返したようにスペインがネーデルと和解し、ネーデルに独立を保障、お詫びとして莫大なお金を払うことで和解できたパターンも考えてみよう。



 二つのパターンを分析したのが以下になります。

●司令官を変えてみる

◆勝率15%

 戦争できない司令官シドニアに海戦経験豊富で優秀なブレーンを雇い入れる。シドニアは、ブレーンの指示を全て聞き入れ、なおかつスペイン艦隊は統制がとれたものになるとする。

 イングランド軍の優秀さをよく知るブレーンは、イングランドとの交戦を避け、防御陣形のままネーデルラントにいるファルネーゼ公との合流をはかる。

 いくら待てども来ないファルネーゼ軍・・・。じょじょに削られていくスペイン艦隊・・。ここでの判断の早さが一つ目の勝負の分かれ目だと思われる。

 ファルネーゼ公との合流をいちはやくあきらめ、艦隊を上陸させられるか?


 これが実行できれば、おそらく上陸できる場所はスコットランドであろう。スコットランドは当時フェリペが支援していたので、援助は受けれるかもしれない。

 上陸したスペイン軍がイングランド軍と戦う場所は、イングランドとスコットランドの国境辺りになるのだろう・。ここで初めて、装備の性能の差で上回るスペイン・テルシオ陣。

 しかし、海路での補給がままならない状況でイングランドを突き崩すのは難しいだろう。

 そういう意味で勝率15%と予測。


●ネーデルラントと和解した場合

◆勝率25%

 途中までの戦闘経過は現実と全く同じになる。

 現実では、待てども来ないファルネーゼ公。このあとのイングランド軍の攻撃によってスペイン艦隊は壊滅するのだが、ネーデルラントと和解していた場合、ファルネーゼ公の援軍がすぐさま到着するだろう。

 ただし、ネーデルラントのできるのはここまで。それはイングランドとの関係が悪化すれば、ブリテン島南部のドーバー海峡という狭い海域を通過するネーデルラント船に被害が出てしまうからだ。

 ネーデルラントの支援?というかファルネーゼ公の素通りが実現すれば、イングランド海軍を壊滅させることは無理でも、防御陣形を取って突破することはできるかもしれない。


 目標上陸地点はドーバー。

 もし上陸できたとしても、司令官がシドニアでは、最善の策をとることは難しいだろう。

 フェリペが考えた作戦がはまったとしても、シドニアの無知さは隠せない。よって勝率は25%と予測。


●ネーデルラントと和解しブレーンがついた場合

◆勝率 50%

 もはやありえない空想の話となってしまったが、戦争のできない司令官シドニアに、海戦経験豊富で優秀なブレーンが付く。なおかつシドニアはブレーンの意見を聞きいれ、スペイン艦隊は統制のできた動きができるものとする。

 イングランド海軍の精強さを熟知しているスペイン艦隊は、防御陣形のまま、ネーデルラントのファルネーゼ公と合流しようと軍を進める。

 直前にネーデルラントと和解したスペイン。なので、ファルネーゼ公はネーデル軍を気にすることなく出港。

 多少の被害があるものの、ドーバー沖でシドニアとファルネーゼは合流に成功する。

 このドーバー沖の海戦で、激しい猛攻を加えるイングランド軍に対しスペイン軍はどこまで耐えれるのか・・。

 この砲撃をくぐりぬけ、ドーバーに上陸できれば、いよいよ地上戦だ!


 まんまと上陸を成功させてしまったイングランド軍は、ブリマスかロンドンに軍を集結させることはできるが、選ぶとすればロンドンだろう。

 この後、ドーバーを制圧したスペイン・テルシオ陣は、ここを拠点にロンドンまで攻めあがろうとするだろう。ここでの決戦に勝つことができればスペイン優位の条件での戦争終結もありえる。

 ただ、これはかなり難しいと思われる。それは、依然としてイングランド側に制海権があるからだ。そのため、スペインの物資の補給は困難を極めるだろう。強力なスペイン陸軍がどこまでがんばれるかが勝敗につながる。よって、勝率は50%と予測。


 ものすごく空想なIFになってしまったんですが、こうまでしてもまだ50%との予測ですので、アルマダ海戦自体がかなり無茶な戦いだったのでしょう・・・・・。

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