第61話 アルマダの海戦
スペインの無敵艦隊(負けるまで無敵)とは、イングランドの造語といわれ、スペインではグラン・アルマダと呼ばれていたそうです。
かの有名な、アルマダ海戦におもむいたスペイン艦隊は、こんな感じです。
■グラン・アルマダ構成
130隻 兵員3万人(ガレー船の奴隷含む)
これらの中には1000トンを超える大型ガレアス船(ガレー船)や大型ガレオン船が含まれていて、基本は白兵戦+砲撃といった地中海の伝統的な戦いを得意としていた。
先のレパントの海戦ではスペインの誇るガレアス船が大活躍し、オスマンから初の勝利をもぎとった。その後、1583年にはアゾレス諸島(当時、スペインはポルトガルを併合していたので、アゾレスはスペイン領)で、フランス商人を駆逐するため、アルマダを派遣し鎮圧したことで、世界に誇る無敵艦隊と言われるようになった。
ただ、このアルマダをしても、次世代の砲撃型帆船には勝つことはできなかった・・・。アルマダの敗北=ガレー船の時代の終焉だったのだ。
先にレパントの海戦については「第52話 最大で最後のガレー同士の戦い」をご参照ください。
■アルマダの海戦 戦力
■イングランド軍(総勢15000人 197隻)
総司令官 ハワード・エッフィンガム
ロンドン艦隊
フランシス・ドレーク艦隊
セイモア艦隊
トーマス・ハワード艦隊(武装商船・義勇船・補給船など76隻)
■イングランド艦隊の特徴
イングランド船は、外洋を航海するのに向いている船で、スペイン船に比べると竜骨が長く、船体が低くつくられていて、戦闘中の操縦が容易であり、砲撃に優れていた。
■スペイン軍(総勢30000人ただし奴隷含む 130隻)
総司令官 メディナ・シドニア
副司令官 レカルデ
ガレアス艦隊
カスティリャ艦隊
ポルトガル艦隊
アンダルシア隊
ビスケー隊
イタリア隊
キッパズコア隊
■スペイン船の特徴
アルマダ艦隊は、大きな戦艦が多く、破壊力が抜群の船が多かった。また、ガレアス船という超巨大な要塞船は他国の脅威となっていた。まずは、砲撃で相手をひるませ、ガレアス船やガレー船が、横付けして白兵するという戦術を得意にしていた。ガレー船の性格上外洋には向いていない。
戦力に奴隷含むとの記載は、ガレー船の漕ぎ手は奴隷だったからである。
いろいろわからない人物や、なんとか隊とかが出てきますが、そこまできにしなくても問題ないです。次は両軍の総司令官を紹介いたします。
●ハワード・エッフィンガム(1536-1624)
英国紳士の走りともいえるハワード卿は、イングランド女王エリザベス一世とも親戚関係であったほどの家柄の持ち主で、人の意見を聞く謙虚さと、作戦遂行をなんとしてもなしとげる情熱を持ち合わせた人物だった。
彼は、アルマダの海戦が始まる前年、スペインのカディス港を30隻あまりのガレオン船で襲撃し、31隻(うちガレー船12隻)のスペイン艦隊を完敗させたフランシス・ドレークに作戦の総指揮を取らせた。実績ある海戦の専門家に迷わず作戦を託した彼の性格は、当時としては稀有な存在だったのではないだろうか。
また、ハワードにはこんな逸話もある。
アルマダの海戦で勇敢に戦った兵士たちが、国庫の貧窮していたイングランド王室から充分な報酬が払われないことを知ると、ハワードは私財を使って彼らに充分な報酬を払ったのだった。
まさに、知性と品性を兼ね備えた英国紳士ハワード。
●メディナ・シドニア(1550-1619)
レパント海戦の英雄サンタクルズ公が、アルマダの海戦の半年前に亡くなると、かわりに総司令官に選ばれたのがシドニアだった。
シドニアが総司令官に選ばれた理由は彼の大貴族としての血と社会的地位の高さであった。元々、穏やかな性格で野心などもっていないシドニアは、海戦の経験もなかったため、スペイン王フェリペに、「自分は無能なのでできません」と司令官辞任の旨を伝えるが、王は彼の辞任を受け入れず、無理やり総司令官に任命する。
無能だと自認するシドニアは、人選もむちゃくちゃで、陸戦経験の豊富な指揮官を選んだり、部下からの信頼のない指揮官を選んだりしてしまった。
二人の総司令官からみても、スペインの不利は否めないと思います。次はようやくアルマダの海戦を見てみます。
●スペイン艦隊出航する
先の1587年、カディス港を襲撃され、それを迎撃したスペイン艦隊は、フランシス・ドレーク率いるイングランドのガレオン船にまったく歯がたたなかった。そのため、イングランド侵攻についてスペイン王フェリペは、このような作戦を立てた。
■イングランド侵攻作戦
イングランド軍は精強なので、まずネーデルラントに向かい、そこにいるファルネーゼ公率いる歩兵3万・騎兵500の部隊と合流し、イングランドに侵攻せよ。また、合流するまでは、極力イングランドとの交戦はさけよ。
この作戦を受け、シドニアは1588年5月18日リスボンを出港。補給のために立ち寄ったラコルニャを6月21に出港。ここまでは順調だったが、途中で嵐にあい艦隊は大きな被害をこうむる。この嵐でサンタ・アナ号とガレー船4隻をスペインは失った。
しかしながら7月19日ようやく、イングランド南西のリザート岬沖に到達する。ここで、シドニアは輸送船を守るために三日月形の陣形に再編成する。
■イングランドの動向
イングランドのハワードはドレークの提言に従い、全精鋭部隊をブリマス港に集結させ、7月20日に出港。7月21日にはスペイン艦隊を捕捉し、ついにアルマダの海戦は幕をあける。
■7月21日の戦闘
イングランド艦隊は、スペイン艦隊を真夜中に発見。先に発見したイングランドは、まず戦闘を有利に進めるため、風上に位置どる。
イングランドにとって都合のいいことに、風上は、スペイン艦隊右翼の後方に位置していた。そこで、イングランドは砲撃の精度が上がる夜明けを待ち、いよいよ砲撃を開始する。
速度と旋回で優るイングランド軍は、スペイン右翼イタリア隊を砲撃しながら追い抜き反転。今度は敵左翼のビスケー隊を正面から猛砲撃すると、ビスケー隊は混乱に陥る。
それでも、副司令官レカルデ乗船の旗艦とグラン号は奮闘するが、ドレーク艦隊に包囲され、砲撃を受ける。レカルデ救援のために、司令官シドニアは救援部隊を駆けつけさせるが、時すでに遅く、レカルデ艦隊は全て戦闘能力をうしなった。
さらに追い討ちをかけるように、スペイン艦隊の財務長官と金庫を収納していたサンサルバトル号が火薬事故のため炎上し、その影響で味方と衝突し航行不能になったヌエストラ・セニョーラ・デル・ロサリオ号が翌日ドレークによって拿捕された。
この21日の戦闘で判明したことは、あらためてイングランド船の速度と旋回は優れたものであることと、スペイン艦隊は、嵐の影響で疲労と細かな破損が蓄積されていること。
■7月23の戦闘
さらに東進し、ネーデルラントに向かうスペイン艦隊は、商船5隻を護衛しているイングランド船トライアンフ号を発見する。
そして風上にたったスペイン艦隊は、ガレアス船に砲撃を命じる。窮地にたったトライアンフ号を救うため、司令官ハワード自ら救援に向かう。
それに対しシドニアは、16隻のガレオン船をハワードに対峙させる。しかしこのとき、またも副司令官レカンド旗艦が包囲攻撃を受けていたため、シドニアはガレオン船をレカンド救援に向かわせることに変更した。
すると今度は、シドニア旗艦がイングランド艦隊に包囲攻撃を受けるはめになってしまい・・・。
と、このような形で激しい戦闘が続いたが、スペインのキッパズコア隊が到着すると、ようやくスペイン艦隊はイングランド艦隊の包囲を打ち破ったのだった。
この戦闘で、スペイン艦隊は、たとえイングランド艦隊の風上に立っていても、速度で優るイングランド船に追い抜かれ、風上に回られてしまうと理解した。
そこで、スペイン艦隊は再び三日月型の防御陣形を築きながら、東進することにした。これによって、統一した艦隊行動を取ることができたので、たとえイングランド船が接近して砲撃しようとすると、スペイン船は一斉射撃をすることが可能となり、スペイン船に打撃を与えることが難しくなってしまった。
また、スペインの大砲が一発打つ間に、イングランドは三発打てた上に射程が長かったという。両軍の大砲はこのようなものであった。
■スペイン キャノン砲
装填速度が遅く、射程も短いが、砲弾が大きく、近距離での一撃の威力は高い。
■イングランド カルヴァリン砲
装填速度が速く、射程も長いが、砲弾が小さく、長距離での砲撃時には威力が小さい。
●7月27日まで
7月23日に、スペイン艦隊は三日月型の防御陣形を崩さなくなると、イングランド艦隊も攻めあぐねるようになる。7月24日は両軍とも補給のため戦闘は起こらなかった。24日になると、イングランド艦隊が、レカルデ乗船のサンタ・アナ号を発見・捕捉するが、スペイン艦隊はガレアスの砲撃によってイングランド艦隊の撃退に成功する。
そのまま東進していたスペイン艦隊は、27日ようやく目的のカレー沖に停泊し補給、この地でファルネーゼ公の大軍と合流する予定になっていた。
●そこころネーデルラントでは・・・・
シドニアは順調とはいえないまでも、目的地に到達し、ネーデルラントにいるファルネーゼ公に連絡船を送る。
しかし、ネーデルラントでは、シーベガーズが停泊中のスペイン船全てを監視し、いつでも砲撃できる態勢をとっていた。
このころ、スペインとネーデルラントの関係はアルバ公の圧政に代表されるように、敵対関係という表現では生ぬるく、戦争状態であったのだ。詳しくはこちらを参考に。
そんなわけで、ファルネーゼ公は、ネーデルラントからカレー沖に行くことができず、スペイン王フェリペが予定していた合流は永久に達成することができなくなってしまったのだ。
時を同じくして、イングランド艦隊は、シーモア卿の艦隊とも合流し、軍儀を開いていた。そこでイングランドは、「火船戦術」を採用した。
■火船戦術とは?
100トンから200トンくらいの船を選び出して、その船に燃えやすいものを乗せて火をつけ、敵船に突撃させる戦術。
イングランドは計8隻の火船を作ってスペイン艦隊に突撃させることを決定した。 またこの作戦は、火船を敵艦隊に突っ込ませることによって、敵艦隊は火船を避けねばならなくなるので、陣形を乱すことができるともくろみのもと、採用されたのだった。
●28日カレー沖の海戦
28日の明け方、カレー港に停泊中のスペイン艦隊を、火船で攻撃することを決定したイングランドは、100トンから200トンくらいの船に燃えやすいものを積んで火をつけ、スペイン軍に突撃し、スペインの堅い防御陣形に楔をいれようとした。
スペイン艦隊もイングランドが火船作戦で来ることは読んでおり、その対策は万全であった。
いよいよ火船8隻が放たれる。風上から予想以上のスピードで燃え盛る船がスペイン艦隊に向かう。その船の速度があまりに速すぎたので、スペイン艦隊はあわてて碇を捨てて出撃するが、艦隊行動をとれるほどの余裕がなく四散する。
この火船作戦によって碇を失ったスペイン艦隊は、潮流にのって北東方向に漂流することになる。
翌29日、クラヴニール沖を潮流にのって航行するスペイン艦隊をイングランド艦隊は全力で猛追し、各個撃破しにかかる。夜明けから戦闘が開始され、スペインの最大船ロレンソ号が航行不能になり、ガレアス船指揮官モンガータは戦死。
その後も追撃が続き、約10時間かけて、スペイン船3隻を撃沈。2隻を航行不能にすることに成功。
翌30日の朝には、さらにスペイン船4隻が撃沈。1隻が浸水で航行不能に。運の悪いことに、強風でさらに3隻の船が行方不明に。
この戦いで、アルマダは計17隻を失い、戦闘継続意欲はもはや無かった。さらにイングランド艦隊は追い続けるが、北緯55度を超えた時点で、もはやイングランドに上陸する可能性はないとして引き上げたのだった。また、イングランドは一隻の被害もなかったのだ!
大勝利を凱旋するイングランドに対し、アルマダは悲惨なものだった。
イングランド艦隊に追尾されていたため、ドーヴァーに戻ることができず、北回りでスペインに帰還することを決意したものの、この航路を知る航海士はおらず、さらに、補給できないことによって船員は栄養不足・船は不衛生になり、疫病が流行する・・・・・。
シドニアはなんとか食料を維持しながら9月15日にサンダデルに寄港したものの、2万人以上の兵が失われた・・・・・。
ながながとアルマダ海戦について語ってきましたが、ようやく全部書くことができました。フェリペはその後二度にわたってイングランドに艦隊を派遣しましたが、いずれも失敗に終りました。
次は、イングランドが勝てた要因を見てみます。
●船舶の差
波が高い外洋に面していたイングランドは、船が全て外洋用の帆船だった。これに対し、波の穏やかな地中海中心のスペイン艦隊は、ガレー船が主体で、外洋で戦うには船が向いていなかった。
また、大航海時代の技術革新で、船での戦いは、白兵から砲撃後白兵、その後、砲撃主体と変わっていった。アルマダの海戦は、砲撃後白兵の時代に終わりを告げた戦いでもあったのだ。
ただ、まだまだ砲撃の威力はそれほどたいしたものではなかったので、地中海で戦闘を行っていれば、スペイン船とイングランド船の性能の差はそれほどでなかったと思われる。むしろスペインが有利に戦えたのかもしれない。
●ネーデルラントと戦争状態にあった
スペイン王フェリペもドレークに完敗した先の戦いで、イングランド船の優秀さは熟知していた。そこで、ネーデルラントにいるファルネーゼ公と合流し、上陸戦を行うつもりだった。しかし、ネーデルラントの妨害にあいそれは適わなかった。
もし、ファルネーゼ公と合流することができていれば、物量に勝るスペイン艦隊がイングランド艦隊に勝利できたのかもしれない。
余談ではあるが、当時のネーデルラントは世界一の造船技術を持っていて、イングランドに供給された船はオランダの優れた技術が組み込まれていた。
●海のプロフェッショナルがいなかった
プレヴェザの戦いでは、海の牙ことアンドレア・ドーリアを雇うなど海戦のプロフェッショナルを雇い戦いを任せたりしていたのだが、レパント海戦以後、海戦のプロフェッショナルを欠いたスペインは、有効な戦略を練れないばかりか、陸戦に長けた司令官を選出したりしていた。
一方のイングランドは、ドレークやホーキンズなど優れた海戦のプロフェッショナルを選出していた。
以上がわたしなりのアルマダの海戦の分析です。みなさまはどう思われますか??
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