第42話 孤児院とヴェルサイユ宮殿
一つ一つが短かったのでまとめて。
――中世フィレンツェの孤児院について
●慈善施設の建設
西欧諸国では11世紀以降、十字軍や巡礼活動が活発化すると共に、巡礼者や貧者、病気の者などのための慈善施設が建設されるようになってきた。
捨児や孤児たちは当初これらの施設に他の人々とともに収容されていたのだが、そのうちそれらの施設だけでは入りきらなくなり、14、15世紀になると彼らだけを専門的に収容する施設が北イタリア・フランドル地方に創設されていく。(いわゆる孤児院ですね)
フィレンツェを例にとってみると、1445年にサンタ・マリア・デリ・インノチェンティ捨児養育院が創設されている。
●フィレンツェの孤児施設
インノチェンティでは、1445年から1485年までの約40年間に、男の子2728人・女の子3618人・総勢6346人が入所している!(当時の人口からしてすごい率ですね)
これらの子供たちがどこから来たのかについて記載のあるものが5分の1あり、そのうち3分の1がフィレンツェとその周辺地域から来ている。
また、残りのほとんどもフィレンツェから半径50キロ以内の地域から来ているようだ。
例外的に、ピサやヴェネチアといった当時から慈善施設がある地域からつれてこられている。
さて、次に興味がいくのはなんだったのかというと、彼らがつれてこられた理由。
フィレンツェでは、女奴隷の子供が最も多く入所している。これは開設当初10年間では全体に3分の1にあたり、次の10年では5分の1に減少し、その後も次第に減っていく・・。
奴隷と聞いて想像するのが大航海時代の闇の歴史である黒人奴隷だが、ここでいう奴隷は全く別の地域からつれてこられたものだちだ。
以前の人口統計のお話で、黒死病によって西欧諸国の人口が激減したとお話した。 1348年の黒死病の大流行によって、労働人口が激減・・、その労働力を補うために、ヴェネチアをはじめとした東方貿易の一環として奴隷が連れてこられるようになる。
この哀れな奴隷たちのうちわけは、タタール人(最多)・トルコ人・スラヴ人・アルバニア人・アラブ人などであった。
彼らのうちのほとんどは女奴隷で、何をさせたのかというと家内労働だったのだ。
つまり、黒死病によって激減した労働人口を補う、特に家内の奉公人の供給が全く追いつかなくなった家内労働をさせるために女性が選ばれたというわけだ。
まあ、その後はお察しがつくとは思うが、女奴隷と主人(もしくは家庭内の誰か)との間に子供ができてしまうことがある。その子供はどの家庭にとっても厄介者だから施設に放り込むというわけだ。
そして、その子供たちの数が、年を追うごとに減少しているのは、前回の人口統計のお話で、大航海時代に入ったころには人口が増加に転じたとお話した。
すなわち、家内労働をさせる労働力の供給が追いついてきたので、女奴隷の数は減ってきたというわけだ。
●ヴェルサイユ宮殿
パリの南西17キロのヴェルサイユの森に、よく狩りに行っていたルイ13世は、ここに小さな狩りの館を建設させた。やがて、そのお供たちめあての居酒屋や露天が開かれて、小さな街となる。さらにその周りに畑ができ、しだいに民家も集まってきた。これがヴェルサイユの始まりである。
次のルイ14世は、愛人とのデートの場所にこの狩りの館を利用するようになる。そんななか、愛人との情事の最中であったかは定かではないが、彼はこの館を大宮殿につくりかえて、この小さな街をフランス宮廷の所在地にしてしまおうと考えたものだからことはとんでもないことになる。
当時の王様の絶対権力を示すかのように、一人の君主の思いつきは即実行へと移され、多くの人民が工事にかりだされたのだ。
しかし、元々狩場だったヴェルサイユには、水もなければ土もない砂地か沼地だ・・・。
完成まで26年を要したヴェルサイユの工事は、「毎晩、荷車いっぱいの死人を運び出す」とささやかれ、徴用された哀れな人々に多数の犠牲者を出した。
最も大変だったのは、この街に水を引くことだった。セーヌ川の水を、125メートル先にある154メートルの高さのマルリーの丘までくみ上げ、そこから8キロの水道でヴェルサイユまで運んだのだ!
この機械は、ヨーロッパ中の話題となり、パリを訪れる者はみなこれを見にきたという・・・・。
しかしながら、この水道だけではまだヴェルサイユの水は足らないので、近郊15000ヘクタールにわたる地帯で、雨水や雪とけ水を集めて、800万立方メートルの貯水をこの街にもたらす大工事も行われたのだった。
これらの給水設備は現在もヴェルサイユ市で使われている。
王様のわがままからはじまった工事・・・絶対王政の王様のわがままはすさまじいものがありますね。
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