第41話 アトランティスの伝説
●ギリシアの賢人ソロン
紀元前580年ごろ、公職を引退した賢人ソロンが、エジプトのサイズという街を訪れたとき、一人の老神官が不思議なことを語ったという。
「ソロンよ、あなたたちギリシア人は、ほんの幼児です。ギリシアには老人がおりません。精神においてみな若いのです。あなたたちには、古い思想が伝統によって伝えられているわけでもなく、また、時を経て白髪を備えた学問も、持ち合わせていません。その理由を申し上げましょう。人間は現在に至るまで、幾度となく破滅しているのです。また、これからも破滅するでしょう」
神官は、これまでさまざまな国で起こったことはすべて、エジプトの神殿に記録されているが、ギリシア人はまったく知らないと語ったのである。
その一つが、9850年前に海に没した偉大なアトランティス文明であった。その文明の話を聞いて衝撃を受けたソロンは、帰国して弟にその話を語り聞かせ、弟は孫のクリスティアスに伝える。
立派な弁論家に成長したクリスティアスは、師ソクラテスにアトランティスについて語った。
それを聞いたプラトンがアトランティスの話を、「ティマイオス」「クリスティアス」に書き残した。
●クリスティアスのアトランティス滅亡の話
クリスティアスに書かれているアトランティス滅亡のお話はこのような感じである。
かつて、ヘラクレスの柱(現在のジブラルタル海峡)の外海にアトランティスという大きな島があった。その広さは、小アジアとリビアを合わせたほど広かったという。
この島では、海神ポセイドンが原住民の娘クレイトオに産ませたアトラスが初代国王となり、アトランティスという国名が生まれる。
島は代々10人の王によって、分割統治されていた。豊穣な野には作物が実り、象やラクダなどの野生動物がすごし、運河が縦横に走り、鉱泉と温泉が湧き、道路は舗装され、港には貿易船が溢れ、純然たる都市文明を強力な軍隊が守っていた。
しかし、この理想的な国家アトランティスも、文明が爛熟してくると、倫理(モラル)が地に落ちる。
アトランティスの市民たちは、物欲に走り、不道徳な行為をするようになってしまう。それを見た主神ゼウスは彼らに罰を与えようと決意し、業火と洪水と津波を起こして、アトランティスを一夜と一日にして海底に沈めてしまった。
こうして、偉大な文明がまた消え去り、わずか山頂近くに住む無学な羊飼いたちが生き延びた。
この神話は、現在から換算すると約12000年前のことになる。
●アトランティスはどこにあったのか?
ジブラルタル海峡の西といえば、思い浮かぶのが、カナリア、マディラ、アゾレス諸島である。
■カナリア諸島
14世紀の末に、スペイン人がカナリア諸島を発見したときに、犬がいっぱいいたので、犬のラテン語名からカナリアと名付けられた。
この地には、グアンチェ人という原住民がいて、白人種に近いオリーブ色の肌をした人々であった。
また、島民たちは、「神がわれわれをこの島に移し、置き忘れた」のだと語り、アトラス石像を守護神として拝んでいた。さらに、エジプトなどと同じく、いけにえやミイラの風習があったのだ。
スペイン人が発見当時、アトランティスの伝説と同じく10人の王が島を治めていたが、スペイン人によって滅ぼされる・・・。
真偽のほどはどうなのかはわからないが、象・ラクダはいない。
また、他の諸島ではめぼしいものはなかったのが残念でならない。
●夢を追いかけて
1948年ジブラルタル海峡の西方560キロの海底300メートルに新しい海山が発見された。この海山の頂上部分に堆積している砂と岩石を分析した結果、陸地でしか生成されないものと考え、分析した科学チームは、「アトランティス海山」と名付ける。
また、科学チームはこの海山を12000年前の大規模な火山活動によって沈下した陸地であると推定する。
1960年代には、海底探査艇の水中ソナーによって、大西洋中央海嶺の海溝部にポルトガルほどの陸地が沈んでいるらしいと推定された。
その報をうけて、1971年探査チームは、ヴィーマ断裂帯で、花崗岩の混じった石灰岩を発見。
花崗岩という石は、陸上の空気でしか生成されない石なのだ。
このようにして、現在でもアトランティスの謎は追求されているが、未だ決定的なものは発見されていない。
■エーゲ海のクレタ島
次の候補地が、クレタ島北125キロにあるキクラデス諸島。
前1520年ごろ、近くのティラ島のサントリニ火山が噴火し、火口部がふっとんだ。
1932年ギリシアの考古学者マリナトスは、キクラデス諸島の海底から、赤い花模様の建材・ブロンズ像・陶器類・装飾品などを引き上げる。
アトランティスの発見かと期待されたのだが、残念なことに、アトランティスではないようだ。
というのは、まず、プラトンの描く大陸ほどの広さはなく、ヘラクレスの柱の外海でもない。そのうえ、噴火の年代が新しすぎる。といったことから、アトランティスではないと確定され、いまでは、このあたりに栄えた文明をクレタ文明と呼んでいる。
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