第39話 海の怪物クラーケン

●巨大な浮島

 「波間に浮島がたびたび現れ、そこにはすっかり成長しきった樹木が生えている・・・。その小枝には葉っぱの変わりに貝殻がついているが、その島は数時間すると消えてしまう・・・」

 こういった伝説は、北の海およびノルウェーの沿岸地方にも広く伝わっている。

 トルフェウスの「ノルウェー史」などでこの話に触れられているが、民間人や船乗りたちの考えでは、これらの浮島は悪霊たちの住処で、航海者たちをからかい、計算を混乱させ、かれらの旅の面倒を増やすためにこうして海上に姿を現すのだという・・。

 ポントピタン(作家らしい・・)によれば、ノルウェーの漁師たちはみな、互いの話に一つの食い違いも生じることなく揃って次のように断言するという・・。


●ノルウェー漁師の断言

 数マイルほど置きに出ると、とりわけ一年でも最も暑い時期には、船の水位が突然下がるような気がする。測深器(水深を測る道具)を投げ込んでみると、150から180メートルはあるはずの水深が、50メートルにも満たないことがよくある。それは、海底と水面の間にクラーケンがいるからだ!

 この現象に慣れてしまうと、漁師たちはその場所には魚(特にタラやラング)がたくさんいると確信して釣り糸を並べる。

 そして、釣り糸を引き上げると獲物がたっぷりかかってくるのだった。しかし、もし水位が減少し続け、その一時的な動く海底が上昇してくるようならぐずぐずしてはいられない。クラーケンが目を覚まして動き出し、空気を吸いに、そして太陽のもとでその大きな腕を広げようと上がってくるのだ。

 そんなとき、漁師たちは全力で櫓を漕ぎ、充分な距離をとってようやくほっと一息つく・・・・。

 そして海面を見た漁師たちは、驚くべき光景を目にする・・。


●船員たちのみたもの

 ほっと一息船員たちがつくころ・・・。船員たちは、実際に水上に現れた怪物の背が、1マイル半もある空間を覆うのを目にする。

 魚たちは怪物の上昇に驚いて、怪物の外皮の不規則な突起によってできるみずたまりの中で、一瞬飛び跳ねる。次いでこの浮かぶ大塊から、キラキラ光るツノか針のようなものが現れて、帆をつけたマストさながらに広がりながらそびえたつ。それらはなんとクラーケンの腕なのだ!

 その腕の強力さといったら、もしその腕で釣り船の網具をひっかけたのなら、まちがいなくその船を沈めてしまえると思えるほどである。

 しばらく水面に出ていたあとで、クラーケンは上昇のときと同じようにゆっくりと沈んでいく。

 だが、付近にいる船舶にとって、危険が少なくなったわけではない。クラーケンは沈むときに大量の水を動かすので、渦潮や激しい潮流をひきおこすのだ!


※参考文献「地獄の辞典」

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