第33話 漁夫の利 スエズ運河利権

●スエズ運河施設計画

 スエズ運河の計画をもちだしたのは、元フランス外交官のレセップスでした。レセップスは1833~1837の間アレクサンドリア領事、カイロ領事を歴任しました。その際に彼に師事されたのが後のエジプト総督となるサイード・パシャでした。

 サイード・パシャは1854年にエジプト総督に即位し、尊敬していたレセップスをエジプトに呼びます。


 レセップスは訪問の際に、かねてから計画していたスエズ運河の施設を提案し、サイード・パシャは自国の利権としても優位なことだったのでこれを受け入れました。

 施設権を得たのが1854年の11月のことですが、権利を得て依頼レセップスにはイギリスからの圧力・妨害工作にたびたび会います。イギリスは、自国の貿易利権がスエズ運河によって侵害されると考えたからでした。


 そこでレセップスは、施設のための株式会社を設立します。株式を世界各国の富裕層へ売却することでフランスだけでなく他国の有力者の利害を取り込み、イギリスの妨害工作に対抗しようとしたのです。

 ようやく株式売却が済み、着工のめどがたったのが施設権を得てから4年後の1858年のことでした。

 このことからも、いかにイギリスの妨害工作がすごかったか物語っています。


 そしていよいよ1859年4月、スエズ運河の工事が開始され、10年の歳月をかけスエズ運河は完成します。

 このときの株式の購入額は後に重要になってきますので、ここで記します。

 40万株のうちフランスの購入量は約20万株、エジプトの購入額は17万株です。

 また、イギリスは一株も買いませんでした。


●イギリスの利権

 当時のイギリスは、1648年ウェストファリア条約によってオランダよりケープ植民地を獲得しました。

 ケープはインドにいたる東回り航路の重要拠点です。ここを抑えていたイギリスの交易利権は相当なものでした。

 しかしながら、もしスエズ運河が完成した場合ケープの有益度は極端に低下します。これまで最短距離であるがゆえに重要拠点であったケープですが、スエズが完成すればその地位は喪失します。

 そのため既得権益を守るために、スエズをなんとしても妨害する必要があったわけです。


●エジプトの財政

 エジプトは、スエズ運河施設のための株式会社に17万株投資しました。

 スエズ運河は莫大な利益を生むことが分析の結果わかっていましたので、大きな投資となりますがエジプトは投資に踏み切ります。

 しかしながら、フランスと違い、エジプトの財政は貧弱です。購入する株式が大きすぎました。

 1億円の収入がある人と、1000万の収入の人が5000万の買い物をした場合どうなるでしょう?

 エジプトの財政は投資の回収を待たずに対外債務超過に陥りました。

 しかたなく、1882年にスエズ運河の株式をイギリスに売却することになります。


●漁夫の利

 こうして、工事になんの犠牲を払うことがなかったイギリスがスエズ運河株式の48パーセントを獲得します。

 イギリスはケープに変わる重要拠点として軍を駐留させ、実質自国の利益に転嫁します。

 一方の当初から計画にかかわったフランスはというと・・・、完全な利益喪失とはなりませんでしたが、イギリスのおこぼれをもらう程度になってしまいます。

 このことは、当時の世界の勢力バランスはイギリス一強を物語る歴史のひとつとなっています。

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