第31話 魔女裁判官ジャン・ボダンと魔女狩りで財を築いたホプキンス
大航海時代が幕開け、西欧の人々は目覚しい科学技術の発展をなしとげ、西欧近代の始まりと歴史の教科書には書かれています。
しかし、大航海時代も中期に入ろうとする、1530年に歴史上最も悪名の高い魔女裁判官がこの世に生を受けます。
彼の名はジャン・ボダン。彼の詳しい資料が手に入ったので、ここに記述しておきます。
さまざまな残酷極まりない所業であったジャンですが、彼は熱狂的で信仰心の厚いキリスト教徒であって、彼は、自分の行動は純粋に神のために行ったことであると信じていました。
●ジャン・ボダン
1530年にフランスのアンジェに生まれ1596年に死亡。彼は、憑かれたような使命感を持って「魔女裁判」に情熱を傾ける。50歳のとき「悪魔憑き」という悪魔学の書物を刊行。
おどろくことに、悪魔憑きはその後20余年にわたって10版を数えるほどの大ベストセラーとなる。彼の書物は魔女狩りの先導役を果たしたかのように。
この書物は、魔女や妖術使い(魔女の男性版)の審理を担当する裁判官に、その考え方や特性を理解してもらう為の手引書としてかかれたのだが、内容は、みずからが手がけた審理の実例をあげ、必要以上の徹底的な糾弾を他に強要していたという。
■審理の内容の一例
「被告が共犯者を自白しても、それを理由に罪を軽くしてはならない」
「容疑者は、嫌疑をかけられたこと自体、拷問をかけられるに十分な理由となる」
「したがって、一度告発された者は、もはや釈放など考えられない」
「かれらに神への畏怖を教えるには、いずれ消滅する肉体だが、その肉に熱い鉄で烙印を押すしかない」
■ジャン・ボダンの定義する魔女と妖術使いとは?
神の法を知りながら、悪魔と契約を結び、正しい道からはずれた行為をしたもの。
と定義されている。
だから、すこしの同情にもあたいしないとする。実際、ジャン自らの裁判では、老幼とわず、病人・精神疾患と思われるもの全てに平等に容赦の無い拷問を加えていた。
このような、今から見ると倫理のかけらのない思想であるが、ジャン・ボダンにはこんな一面もある。
■国家の粛清者リストに入っていた
彼の著作の多くは、異端審問所の検察官から有害視され、またカルヴァン派(フランスは当事、新教(カルヴァン派)と旧教徒(カトリックの間で宗教戦争をしていた)への寛容を示したことから、新教徒への疑いをかけられ、粛清されるべき人物のひとりとしてリストに挙がっていた。
ジャンにとっては、神に対して帰依することには変わりは無いのだから新教に対しては寛容であったみたいである。
■ローマ法の教授であった
国家論の著者としても知られ、ローマ法の研究をしていた学者であった。また、弁護士も開業しており、代議士として選出されたことも。
彼は、当時の第一級の知識人であり、今の日本で言えば、東大の法学部の教授兼弁護士で、選挙にも出馬し、衆議院にも選ばれたといったところか・・。
純粋に神を信じ、それを研究することによって、後世に信じがたいほどの大きな悪名を残してしまったのは、歴史の皮肉である。
次は魔女狩りで財を築いたホプキンスについて
16世紀から17世紀にかけては、大航海時代・宗教戦争が一大ムーブメントでした。宗教戦争がはじまると増えてきたのが、魔女狩りという暗黒の歴史です。当初は純粋な気持ちから始まったであろう魔女狩りも、私利私欲のために使われるようになってきます。
今回は、魔女狩り私欲のために使い財を築いた人物を紹介します。
●魔女狩り実業家ホプキンス
魔女狩りについてはここでは詳しく述べるつもりはないが、この魔女狩りによって殺害された人数は、数百万にもおよぶといわれていることだけは冒頭に記しておくことに。
魔女だと疑われた人物は、法廷につれていかれ、残酷な拷問のあと自白を捏造され、裁判を受ける。これがいわゆる魔女裁判で、この捏造された裁判を終えると哀れな被告は火刑に処される。
さて、ここで被害者である被告が殺害された後、被害者の財産はどうなるんだろう?
被告の財産は、家族に分配されたり遺産相続されたりするわけでなく、全て教会が没収する。だから、魔女狩りは商売としてもおいしいわけだ。
そこで出てきたのが、魔女の摘発をするという怪しげな業者。この魔女発見業を行うには、資格は必要なく誰でもなれた。
この業者の中でも有名だったのが、今回の主役ホプキンスである。
マシュー・ホプキンスは、イギリスのサフォーク州出身の弁護士で、別名「魔女狩り将軍」と呼ばれ1645年からのたった二年間で、なんと300人以上の魔女を処刑台に送り込んだのだ!
この300人以上という数は、当時のイギリスの魔女狩り犠牲者の約3分の1になるというからいかにものすごい数か想像ができるだろうか・・。
ホプキンスは、エセックス(イギリスの地名)を中心に魔女発見活動を開始する。
魔女の恐怖におびえていた人々は、魔女を発見してくれるならと莫大な報酬を彼に払い(なげかわしいことだ・・)、魔女を発見してもらったのだった。この報酬、魔女を一人発見するごとに支払われるのだが、高いときには20ポンドもの料金を請求することもある。
これがどのくらいの額かというと、一ヶ月の平均労働賃金が180ペンス(100ペンスで1ポンド)なので、大体一般労働者の年収分を支払ったことになる!!
今で言うと350~500万くらい支払ったということか。
こんな詐欺みたいな値段でも人々が喜んで払ったのだから驚く・・・。
魔女狩りを利用して一大財産を築いたホプキンスですが、続いて魔女発見方法をご紹介します。
●使い魔の発見
ホプキンスがこれだと目をつけた魔女候補の家には、必ず使い魔がいると断言した。使い魔は犬・猫・蚊・蛇・クモ・蝿などが指定される。
あたりまえのことだが、これらの生物はどこの家庭でもいるもので指定された家では必ず使い魔が見つかるという算段だ。
使い魔がいるぞ! と断定された哀れな魔女(被害者)を次にまっているのは針刺しの拷問である。
魔女には魔女マークといわれる感覚がマヒしている場所があると言い伝えられ、その場所を特定するために針を全身に突き刺して魔女マークを発見するというわけだ。
ここでホプキンスは狡猾な手段をもちいた。それはどんなものかというと、針を突き刺したときに針が体内に刺さらずに逆に柄の部分に押し戻されるというインチキ針だったのだ。
こうして針を突き刺していく中で、インチキ針を使い魔女マークと断定したわけ。(とんでもない詐欺師である・・・)
こんなインチキをしているものだから、彼の魔女マークの発見は確実なものとなり彼の名声を高めることになる。そうしてますます依頼料金が高騰していくというわけだ!
しかしこんな詐欺も長くは続かず、このインチキに気がついたある神父にこれを指摘され、彼は廃業に追い込まれることになる。
●哀れな魔女被害者
ここで捕捉として、哀れな魔女となってしまった女性たちに多かった人物像を挙げてみよう。
まず、村社会という隔絶された空間で目立つ女性が被害者になることが多かった。美しく、富裕な女性が狙われる対象だ!
こういった女性は、何もしなくても男性にもてる。そして彼女だけがモテモテなものだから、周囲の女性も快く思わない・・・そうして体よく魔女とされ、火刑にされてしまうパターン。
もうひとつは、性的に厳格だったシスターが多かった。性的に抑圧された教会内では、性への欲望に溢れ、禁忌を犯すものも続出したそうだ。当たり前だが、抑圧されてるものからすれば、こっそりと欲望を満たすものは快くないわけで、あのシスターは悪魔にそそのかされてるとなるわけだ。
魔女狩りに関する暗黒の歴史はここでは深く語りませんが、この魔女狩りは相当な被害者を出したものだったとだけは、ここに記しておきます。
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