第23話 ローマと鉛
ローマでは数々の精神状態が明らかにおかしかった皇帝が何人か登場しています。最近の研究では、これら精神錯乱状態は鉛中毒ではないかと言われています。ローマ人は習慣的に鉛を口に入れていました。
●鉛の弊害
ローマでは、錫や銅よりさびにくいという理由でとかく鉛を使うことが好まれた。 古代ローマ時代でも健康に害があると指摘はあったが、水道管には鉛管が使われており、そこから溶け出した水をローマ人は飲んでいた。さらに、食器類-なべ・食器類にも鉛。モルタル・ガラスにも鉛。
とにかくなんでも鉛であった。
さらに、当時のワインは醗酵しすぎてすっぱかったので、この酸味を抑えるために鉛で甘味や香りをつけた。これは、鉛は酢酸にとけると鉛糖という甘い酢酸鉛に化学変化することを利用したものであった。
また、ワインの防腐のために濃縮グレープ・シロップが加えられた。このシロップは鉛でコーティングされたなべでことこと煮るときに、何度もかき回すため鉛が溶け込む。
この作り方でシロップを作ってみたところ、1リットルのシロップに240-1000マイクログラムの鉛が混入したという。
こうして、鉛の混入したワインをさらに鉛のジョッキで飲んだのだから、もう体に鉛入りまくりなのは想像できる。
ある現代栄養学者の推計によると、ローマ貴族の一日の鉛摂取量は平均250マイクログラム。これはWHOが定める許容量の5倍以上にあたる。
●鉛の危険性
では、この鉛、身体にどのような影響を及ぼすのだろう。
■通風
体内に入った鉛は、肝臓や骨に取り込まれ、ゆっくりと臓器をおかし赤血球の動きをさまたげる。
その結果貧血に陥り、グアニン分解酵素の活性が疎外され、通風を引き起こす。歴代皇帝はほぼ全て通風に犯されていたという。
■腹痛・便秘・関節痛・言語障害
通風とともに、これらの症状が起こる。これらが進行すると次のステップに。
■精神障害・筋肉麻痺・失明
鉛をとりまくったローマ人。とかく権力者ほど鉛をとったため、王族ではここまでに陥ったものも少なくないはず。この精神障害という症状で、変な皇帝たちがうまれたんではなかろうか?
おまけ、変になってしまった皇帝を一部ご紹介。
■第3代皇帝カリグラ
彼はねっからの殺人狂でサディスティックな欲望を満たすために、残忍な仕打ちを繰り返す。
また、色情に狂い、浪費にふけった。売春宿を経営し、タブーとされた獣姦も辞さずに、愛馬を元老委員にしたいとだだをこねたあげくに、近衛兵に暗殺される。
■第5代皇帝ネロ
フィリッピーナの連れ子。あまりに有名な皇帝であるため、長々と説明は避けるが、悪行が過ぎたため、最後は元老院から「公敵」との烙印を押され、近衛兵に殺害される。余談ではあるが、最初は名君の気質を見せていた。何がきっかけかわからないが後世に残る悪行を始めてしまう。最初は「正常」だったのだ。
■コンモドゥス
五賢帝マルクス=アウレリウス=アントニウスの子。彼は肉親をことごとく暗殺し、円形闘技場では珍獣を射殺してヘラクレスを自称し、レスラーに絞め殺された。
■ヘリオガバスル
女装して奴隷に身をまかせ、ついには荒くれの奴隷と結婚したくて性転換手術まで受けるが、暗殺される。
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