第22話 医療の発展「パレ」と「ヴェサリウス」

 中世から発展していなかった医療ですが、ルネッサンスがはじまったあたりでようやく、新しいステージへ進化していきます。

 今回はパレとヴェサリウスについて見てみます。また機会ありましたら古代編もつくってみます。


●アンブロワーズ・パレ(1510-1590)

 アンブロワーズ・パレは現在に続く近代外科の基礎を築いた人物として後世に名を残している。

 フランスで1510年に誕生したパレはパリの床屋に弟子入りして医学を学び19歳でパリのオテル・デュ病院で働いた。

 当時床屋と医学は密接な関わりがあり、床屋外科医と呼ばれ大学で医学を学んだ者より格下に見られていた。

 現在の基準で強引にいえば、床屋外科医=外科、大学で医学を学んだ者=内科となる。


 話をパレに戻すと、パレはオテル・デュ病院で働いた後軍医として負傷した兵士の治療を行い、開放創、銃創の軟膏による治療、結紮による止血法で外傷、切断肢の治療などを行い、自身の治療技術と知識の蓄積が飛躍的に向上した。

 この軍医としての経験の中で画期的な技術を彼は開発する。そのうちの一つは、銃創の治療に使ったといわれる軟膏である。

 当時の銃創の治療には、煮えたぎった油をぶっかける(よけ悪くなりそうなんですが)焼灼止血法という方法が一般的だったのだが、パレによって軟膏による治療がはじまる。軟膏による治療のほうが焼灼止血法より予後がよく苦痛も少ないものだった。

 パレの軟膏による治療法は兵士にも受け入れられ彼の名声は高まった。

 

 もう一つは、彼が近代外科の祖といわれる技術で、血管結紮による止血法といわれるものだ。

 これは、血管を糸で縛って止血する方法で彼以前にもこの技術はあるにはあったが、パレは切断肢断端の止血に血管結紮を使った。(切断肢断端の止血は当時焼灼法を用いていた。傷ついたら焼く)

 1582年には彼の集大成をまとめた大外科学全集を発表し、この本は後世の外科の元となる。

 最後に彼の言葉を記すことで結びとしよう。


" 私が包帯し、神がこれを癒したまう Je le pansay et Dieu le guarist ( I treated him, but God healed him )"



●異端児アンドレアス・ヴェサリウス(1514-1564)

 ヴェサリウスは都市国家ブリュッセルで医者の息子として生まれる。父は時の皇帝マクシミリアンと血の繋がりがあったため(私生児なので、正当な血統ではない)、皇帝の薬剤師として仕える。

 そのような家庭出身であったので、彼はルーヴァン大学・パリ大学で医学を学び、ここで当時の解剖学で一般的であったガレノスの学説を学ぶ。


 ガレノスは古代ギリシャの医者(天文学や哲学にも詳しい)で、解剖学の本を多く残し、中世ヨーロッパでは広く受け入れられガレノスの書があるので実地の解剖は必要ないとまで言われていた。

 フランスと神聖ローマ間での戦争もあり、最終的にヴェサリウスは現在のイタリアにあるパトヴァ大学で博士号を取得し、そこで教授になる。

 

 パレのお話でも出てきたことだが、当時解剖を含めた外科は大学出身ではない床屋外科医があたり、内科より下に見る風潮があった。

 しかしながら、ヴェサリウスは実際に人体を解剖し、観察することによって真実を確かめることを生徒に教え、実際に多くの解剖にあたった。

 また、この人体解剖に関しては、パドヴァの裁判官らが協力し処刑者の人体を提供していたこともヴェサリウスの解剖を助けていたこともここに記しておく。

(ダビンチも人体解剖図を残していますが、彼は自室でひっそりと解剖を行っています。人体解剖はまだまだ批判の多いものだったのです。ヴェサリウスがこれだけ公の場でずっと解剖をし続けられたのは周囲の協力あったのこと。彼はなかなか人望が高い人物だったのでしょうね。)


 そして、ヴェサリウスは、1541年いよいよガレノスの学説にメスを入れはじめる。

 彼によると、ガレノスの解剖書は人間に基づいて書かれたものではなく、猿を元に書かれたものであると主張した。

(実際に古代ローマでは人体解剖が禁止されていたので、ガレノスは猿を解剖し研究ししていた。)

 この主張は、ガレノスを支持する保守的な医者から痛烈な批判を受け、彼が亡くなるまで延々と論争を引き起こすことになる。

 そして1543年に有名な解剖学書「ファブリカ」を出版。ファブリカは近代的な解剖学の祖とされている。

 余談ではあるが、バーゼル大学にある現在残る最古の骨格標本はヴェサリウスが1543年にバーゼルで行った公開解剖の後寄進されたものである。

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