第19話 「早熟の天才」ブレーズ・パスカル
今回は私が知る中で最強の早熟の天才ブレーズ・パスカルについてです。これこそまさに知力チート。
●ブレーズ・パスカル(1623-1662)
フランス中部のクレルモンで生まれたパスカルは、幼少から病弱でいかなる職業にも就くことなく、書斎の中で思想にふけるだけの人生を過ごした。
父は税務高等法院の副委員長を務めており、ブレーズが8歳のときに父は職を辞めてパリに移住する。また、父は一流の資産家で当時の一流の科学者や数学者と交遊していた。
父は税務と会計学が専門で、数学も得意だったが、息子が病弱だったためラテン語の古典だけを教え、それ以外の学問は禁じていた。
12歳のとき、ブレーズはこっそり姉ジルベルトに「幾何学とはなにか?」とたずね、姉は「図形についての学問だ」と答えただけだったが、ブレーズはたちまち、幾何学の創始者ユークリッドが残した32の基本定理を、順番もそのままに証明してみせたのだ!
さらに驚くべきことに、16歳のときに「円錐曲線論」(これについては、わたしが数学がまったくわからないので、上手く説明できないので省きます。)という著書を刊行し、周囲の度肝をぬいた。また、パスカルが生涯にわたって発見・発明したことは、このような感じである。
■円錐曲線の定理
■パスカルの定理(流体と圧力の法則)
■気圧の発見(ヘクトパスカルという名で今も残る。)
■歯車式の電卓(20世紀初頭まで使われた)
■確率論
このように、物理学と数学で信じられないほどの業績を残したパスカルであったが、その短い生涯において、彼はほんの気まぐれで考えた結果の実績であった。
(頭痛をごまかすために、発見した定理もあったそうだ)
彼が生涯考え続けたのは神についてであり、彼の死後敢行された「パンセ」は哲学史上不朽の名作になる。最も有名な一文はこれである。
「人間は自然の中では最も弱い一本の葦でしかない。しかし人間は考える葦である。人間を倒すのに宇宙は武器を必要としない。一陣の風、一滴の水が、人間の命を奪う。だが、宇宙が人間を倒すとき、人間は宇宙よりも高貴である。なぜなら人間は自分が限られた命でしかないことを知っている。自分の無力と、宇宙の偉大さを知っている。宇宙は人間について何もしらない」
●人間は考える葦である。
人間は自然の中では弱弱しい、たかだか数十年で死んでしまう葦(葦とはどこにでも生える雑草)にすぎない。しかし人間は考える葦である。
パスカルはここで何を言おうとしていたのか。
彼は、ここで宇宙(神)と人間を比べようとしている。もちろんパスカルは物理学者なので、自然や宇宙というものについて冷静に考察している。しかし同時にパスカルは神についても考えている。
人間は神によって生を受け、神によって命を絶たれる。神は偉大で、人間は無力だ。
だが、人間は神の偉大さと自分の無力さを知っている。だからこそ人間は「高貴である」とパスカルは言い切っている。
科学と信仰心は一見すると結びつかないように思えるが、実はそうではない。
この宇宙は神が創った。だからこそこの世界には、明解な真理があるはずだ。世界はでたらめに動いているのではない。人間がまだ気がついていないだけで、多様で複雑な自然現象の背後には、必ずシンプルな定理・法則が隠されている。これまで人類はそういった定理・法則を発見してきた。
神が創生した完璧な世界だからこそ、シンプルな定理・法則があるのだ。
例えば、ゆれる振り子をみていたガリレオの前には、神が創生した真理があった。
彼が発見した慣性の法則も、重力の法則、さらには地球そのものも、神が作った真理なのだから。ガリレオもまたパスカルと同じく敬虔なキリスト教徒であった。
パスカルも神の存在を信じていた。神の真理とは何か? パスカルは短い生涯で神のことをずっと考察した。
その結果、パスカルは神の偉大さと人間の無力さを認めたうえで、人間もまた偉大な存在であると宣言している。人間は「考える葦」であり、神が創造した宇宙を理解しようとしている。だからこそ、人間も偉大なのだと。
「考える葦」というパスカルの宣言は、人間の偉大さを認める革新的な考え方で、キリスト教によって抑圧された中世の世界観から脱却して、近代的なヒューマニズムの考え方の出発点になったのだった。
これほどの天才が生涯に渡って出した神についての結論、感慨深いものがあります。
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