第10話 地動説を主張すると処刑されるのか?
大航海時代でたまに話題にされる
●地球が球体である。
●天じゃなく、地球そのものが動いている。
といったものがあります。
有名な異端裁判では、ガリレオが言った「それでも地球は回っている」という言葉があります。
果たして、地動説を主張すると本当に裁かれるのでしょうか?
●地動説の系譜
地動説という表現は、日本語の意訳によるものが大きく、実は二つの論点がある。
1、太陽が宇宙の中心にあるかどうか(太陽中心説)
2、地球が動いているかどうか
この二つは全く意味合いの違ったものになることは先に記しておく。
一方の天動説はどうだったのかと言うと、
「すべての天体が地球の周りを公転している(地球中心説)」
という主張である。(地球が自転してるとか球体とかは別問題)
もし、地動説と天動説を対比させるならば、地動説の1の論点に目を向けて見るのが妥当かもしれない。
太陽が宇宙の中心であったという説(太陽中心説)は、古くは、ギリシャ時代から太陽を中心にして地球とその他5つの惑星が回っていると主張した人物としてアリスタルコスがあげられる。他にも古代ギリシャの偉大な哲人プラトンも宇宙の中心は太陽と考えていたようだ。
さて、ここでこの時代の天文学で重要だった点はなんだったのかというと、「過去や未来の惑星の位置の予測」であった。
天動説を体系的に纏め上げたのがプトレマイオス(二世紀ごろ)という人物で、彼の功績もあって、惑星の位置の予測を複雑な計算式を使うにしろある程度の位置は計算できたのだった。
宗教的な兼ね合い(神が地球をつくったのだから地球は宇宙の中心のはずだ)と現実的な利便性の二つを兼ね備えていた天動説は約1500年もの長きに渡って支持されることになるのだ。
というわけで、アリスタルコスら何人かが地動説を唱えたわけだが、結局はこれらの天文学を全て体系的に纏め上げたプトレマイオスにはとうていかなわないもので支持されることがなかったというわけだ。
しかし、大航海時代になり沿岸航海から遠洋航海が実施されるようになると、天動説の様々な矛盾点が顕在化してくる。そんな中登場したのがコペルニクスであった。
●コペルニクス(1473~1543)の太陽中心説
実用的な面と思想的な面の両方を兼ね備えていたプトレマイオスの天動説が長きに渡り支持されてきたと述べた。
実用的な面で重要視されたのが、「過去や未来の惑星の位置の予測」。
コペルニクスは、1543年に「天球の回転について」という著書で惑星の位置の予測(惑星の軌道計算)の計算方法をしるす。
古代アリスタルコスを初めとして、太陽中心説を唱えた者は何名かいたのだが、彼以前の太陽中心説を唱えた者たちに共通してるのは、こんな点だ。
1、明確な軌道計算をしなかったこと
2、地球が動くのなら、鳥や雲が何故取り残されないのか、誰も地球を押していないのに、どうして止まらずに動き続けられるのかなどといったことを説明できなかったこと。
要は、根拠がないただの妄想では、だれも学説とは認めないし、妄想の域を出ないのである。
しかしながら、人々は大航海時代になると羅針盤と星図をたよりに自らの位置を把握し、遠洋航海ができるようになってくる。
そうなると、実際の惑星の位置と地図に書かれている惑星の位置がかなりずれていることに気がつく。
また、もう一つの問題として一年の正確な時間がわからないということもあった。 この当時使われていたユリウス暦は実際の季節と暦上の日付が一週間以上ずれてきていたのだった。
コペルニクスが悲願としたのは、二つ目の問題点で、彼は天文学者・法律家で、敬虔なカトリック教徒でもあった。
彼にとって一年の長さが正確に測れないというのは宗教的に具合が悪く、自身が天文学者である中もどかしい思いをしていた。
そして彼はそれを達成すべく研究活動を進め、「天球の回転について」という本で軌道計算の方法を記したのだ。
彼の天球の回転についてはこんな感じだ。
コペルニクスはアリスタルコスの説を参考にして太陽を中心におき、地球がその周りを1年かけて公転するものとして、1恒星年を365.25671日、1回帰年を365.2425日と算出した。(1年の値が2種類あるのは、1年の基準を太陽の位置にとるか、他の恒星の位置にとるかの違いによる)wikipediaより
また、誰でも同じ方法で1年の長さや、各惑星の公転半径を測定しなおせるようにした。
これを読むとわかるように、コペルニクスは「過去や未来の惑星の位置の予測」を述べた初めての太陽中心説の学説だったのだ。
そのため、彼は近代天文学の祖とされている。
また、プトレマイオスの天動説と違って優れていた点は、惑星と惑星の距離を計算できること。
もちろんありがちなことだが、彼の説も実際には間違ってることがいくつかある。
例を挙げてみると
1、地球は球体だと信じていた(実際には自転してるので正確な球体にはならない)
2、惑星の軌道は円軌道だと信じていた。(実際には楕円。このため軌道計算に正確性をかいたのだろう)
と もあれ、コペルニクスによって太陽中心説が学説として世に送り出されたのだ。
●ヨハネス・ケプラー(1571-1630)
コペルニクスの「天球の回転について」が世に出てからもコペルニクスの直属の弟子以外には彼を理論的に支持する者が現れなかった。
そして17世紀になりようやくケプラーという人物がコペルニクスの理論に光を当てたのだ。
ケプラーは神聖ローマ帝国の天文学者であった。しかし彼の残した実績は天文学者というよりは、天体に関する物理学者というほうがふさわしいと思われる。
(最もこの時代にそんな分野分けがなかったのだからしょうがないが)
彼の残したケプラーの法則とはこんなかんじだ。
ケプラーの法則(-ほうそく)は、1619年にヨハネス・ケプラーによって解明された惑星の運動に関する法則である。
ケプラーは、ティコ・ブラーエの観測記録から、太陽に対する火星の運動を推定し、以下のように定式化した。
第1法則 : 惑星は、太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動く。
第2法則 : 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に描く面積は、一定である(面積速度一定)。
第3法則 : 惑星の公転周期の2乗は、軌道の半長径の3乗に比例する。
ふむ......よくわからん!!
一言でいうならば、「過去や未来の惑星の位置の予測」を今までにないほど正確な形で示したということ。(位置の予測については、計算方法をルドルフ星表というものを作り、世に出した)
蛇足ではあるが、1609年に彼が発表した著書は、「新天文学」という著書である。
彼はさらに、光の二乗の法則というものも発見している。(光の強さは距離に反比例するという法則)これによって天体観測の精度も劇的に向上したはずだ。
ケプラーの発見と彼の残したルドルフ星表によって、これまでの30倍もの精度で過去や未来の惑星の位置の予測ができるようになる。
このことで、地動説は実用面では天動説をはるかに凌ぐことになったのだった。
この後、天動説にとどめを刺すのがかの有名なアイザック・ニュートンである。(ニュートンについてはここでは書きません)
ケプラーとニュートンによって、地動説の優位はゆるがないものになりました。では、問題の地動説を主張したらやばいことになるとは本当のことなのでしょうか?
●CASE1 コペルニクスの場合
コペルニクスは自身の著書「天体の回転について」は、コペルニクスが自説を発表するまでに、死の直前まで待っている。
このことで、迫害を恐れたのだと単純に解釈することはできるが、コペルニクスはカトリック教会の権威という側面もあり、もし自分の学説が間違いだったらということを恐れたにすぎないというのが最近の研究の発表である。
また、彼の著書「天体の回転について」は、ローマ教皇への献辞がある。献辞とはローマ教皇のお墨付きの著書という意味。
これを見る限り、天体の回転については、宗教的に批判されたものではないことがわかる。
余談だが、コペルニクスは迫害を受けてはいない。
●CASE2 ガリレオの場合
1633年にガリレオは地動説を唱えたため、教皇から異端との判決を受けた。「それでも地球は回っている」という言葉はガリレオのこれに反発した有名な言葉である。
さて、地動説を唱えて異端とされたのは後にも先にもガリレオただ一人ということに注目したい。
このことは、ガリレオが当時の権威・学問体系を強く批判したことによって招いた結果という見解もある。
ガリレオは、当時の権威アリストテレス学問を盲目的に信じることを批判し、哲学を宗教から切り離すべきだと主張していた。
このことが、権威にしがみつく者からすれば快くなかったのだろう。
●CASE3 ケプラーの法則
ケプラーによってあみだされた「惑星の運動に関する法則(ルドルフ星表)」は、批判されるどころか正確な位置の予測ができると広く受け入れられた。天文学者(当時の教会権威と深く結びついていた)にとって地動説は特に受け入れられない対象ではなかったようだ。
●CASE4 ジョルダーノ・ブルーノ
1 600年に異端とされ火刑になった人物。地動説を唱えたために処刑されたといわれている。
しかし実際のところ、異端理由として地動説はあげられていない。さらに、彼はこういったことの専門家ではなく軌道計算の方法などももちろん示していない。一方で現在の教会制度を強く批判したことでも知られている。どちらかといえば、教会批判で火刑になったのではないか?
このケース1~4を見てみると、どうやら地動説を唱えたところで迫害対象になったり、火刑になったりはしないようですね。
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