第2話

『せ、先生ですか!本当に先生?宮池先生、宮池芝先生ですか、か?』

『そうですけど、うるさいです、ご近所迷惑になりますから、黙ってください。あ、ついでに僕がここに住んでるのも黙っててくださいね、別になにがある訳でもないですけど、嫌がらせとかされたら嫌なので。』

『みょ……』

麗華の脳はフリーズしました、しましたとも!だって、だって、万年人の入らないお隣さんにたまたま越してきたのが先生だなんて、この萌えときゅんをどこに仕舞えばいいのかしらっ。この目の前のいかにも、隣が生徒とかマジないけど仕方あるまい挨拶も終わったし寝よ、と顔に書いて面倒くさそうに首筋をかいているイケテナイ先生が、四六時中、あっでも学校にいる時間の方が長いのでそれは大袈裟ですけど、あ、でも学校という同じ空間に常にいて家に帰ったら隣にいて、やっぱりつまり四六時中近くに先生がいる生活ですか!麗華は一体前世にどれだけ徳を積んだんでしょう、それともどんな悲哀に満ちた恋をして来世では幸せな恋ができますようにと願った姫様なんて方を前世に持っているんでしょうか、幸せすぎるじゃないですか!

『じゃ、これで、おやすみなさい』

先生が、麗華におやすみなさいって言った。言いました、普段学校ですれ違った時におはようございますと言っても会釈しかしない先生が私におやすみなさいって、もうむしろ私は眠りについていてこれは夢の中ですか、ならぜひ先生の目覚めのキスで起こされたいです!

『ちょ、ちょっと待ってください!』

麗華は萌えと胸キュンとセンチメンタルの境をふわふわ漂う中、自分の心いや肝をしっかりと握り言いました、言ってやりました。

『何か用ですか』

そう宮池先生に返されて焦りました、なにも考えてなかったので。麗華はここでなにをいうべきか、ええっと、先生にとって麗華は一生徒で隣人、つまり隣人らしく振る舞えばよいのですね。

『この辺物騒ですし、これから、困ったことがあったら何でも行ってきてくださいね!』

『お気づかいありがとうございます、じゃ。』

先生がありがとうって……いや、落ち着くのよ麗華、こんなにいちいち萌えてたら燃えてたら命が持つもんじゃないわ、これからこんなことがしょっちゅう起こるかもしれないのに!心を乱されちゃいけません!麗華がすべきことは、今すべきことは、いま、すべきことは。

『宮池先生』

先生が振り向き、首をかしげ、私の目を覗き込んだその瞬間。

『宮池芝先生、大好きです。付き合ってください。』

萌えときゅんで包まれていたはずの麗華の心にびっくりするほど冷たい風がなだれ込みました。

『生徒に興味はないです。』

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