第34話 燃える怒りと新必殺技
やっと合図が上がったのは、上空を何度も旋回して景色にも飽きてしまっていくつかのスキルを習得している頃だった。黒い何かが森の中から空へと上がって来て上空で爆ぜた。合図が上がったのはいいんだけど、間が悪かったのかかなり離れてる。っていうかなんであんなに浅い地点なんだ。もっと奥にいるのかと思って横にも前にも進んでしまっていた。まぁ、背中を向けてたら気付けなかったかもしれないしそう考えると気付けただけマシなのかもしれない。
「アルクス、あっちで合図が上がったから向かってくれ」
「ケェー!」
言うが早いか、合図のあった方向へと向かうアルクス。さぁ、着いたらどんなかっこいいセリフを言おうかな。10分も飛べば合図のあった地点へと辿り着いた。ゆっくり降りてもらうのも考えたけど、下では何やら切羽詰ったような声も聞こえる。ここは急いだ方がいいかもしれない。
「よし、ここで大丈夫だ。あの穴目掛けて落としてくれ。アルクスは戦闘が落ち着くまでここで待機しててくれ」
下にはリクルースの放った魔法が通ったお陰でぽっかりと穴が開いている。アルクスがそこを目掛けて俺の肩を掴んでいた足を離す。俺の身体は重力に従って自由落下を開始し、吸い込まれるように穴を通って落ちていく。
痛い痛い痛い!思ったより痛い!
リクルースの魔法が枝葉を蹴散らしていたお陰で穴みたいになってるとはいえ、身体を枝が擦って痛い。 このまま地面に叩きつけられたら危ないとは思ってたけど、それ以前に地面に着く頃にはボロ雑巾になってそうだ。もうさっさとスキルを使ってしまおう。龍が身体に降りてくるタイミングを着地と同時にすればかっこよく見えるだろ、多分。
「【融合躍進】!!」
スキルを発動すると、パラメータが一気に引き上げられて、身体に当たる枝も気にならなくなる。今の俺は普通の武器でも傷つけるのは難しい。当然枝なんかじゃ傷一つつかない。
身体を包んでいた枝葉が途切れ、視界が広くなる。衝撃を膝で吸収して地面に降り立つと同時に龍にぶつかり、身体が光って水の渦に包まれる。渦が弾けとび、一度遮られた視界が戻ってくる。
かっこよく登場してかっこいいセリフを言おうといくつか考えていたのに、全て吹き飛んでしまった。受験者らしき人達が地面に横たわっている。ここまでは、俺も予想していた。
まず予想外だったのは、戦闘している相手がガイサではなく、二足歩行するガタイのいい狼みたいなモンスターだということ。こいつらは恐らく、コーキンがこの森で一番注意するように言っていた隠密狼達だろう。深いところに住むという話だったのに、まさか遭遇してるなんて。
「お前ら全員覚悟しろ・・・!」
思わず呟きがもれる。かっこいいセリフも何もあったもんじゃないな。それを聞いた隠密狼達はバカにしたように笑っている。一体だけ笑いの質が違うような気はするけど。
レルカは木にもたれかかった状態で力なく項垂れていて、クードは赤く染まった身体を起こそうとしているけど起き上がれそうにない。リアクースは怪我はしてないようだけどへたり込んで震えている。ジェノ、リクルース、レイドが隠密狼に邪魔されて助けに向かえなかったんだろうというのは、4匹の隠密狼と対峙していることで理解出来た。
本来のターゲットであるガイサと、Aランク冒険者であるコーキンとテッペの姿は見えない。ここよりも奥の方で激しい音が聞こえてくるから、巻き込まないように場所を移したんだろう。
アルクースの方へ向かおうとしていたらしい隠密狼は、ジェノ達が対峙している隠密狼よりも一回り程大きい。他のが180cmくらいに見える中、多分あいつは2m越してる。なんとなく群れのボスっぽいな。
そのボスと目が合う。鋭い牙が覗く口の端を歪ませ、ふてぶてしく笑う。それを見て、俺の中に激しい怒りが沸いて来た。確かにかなり強いのは伝わってくる。多分ジェノやレイドでも一人じゃ厳しいだろう。知能も高そうで、以前戦った赤いトカゲよりも手強そうだ。けど、俺が来たことを後悔させてやる。遅れてしまったことに対する八つ当たりをたっぷりとぶつけてやるからな。
けど、それよりも先に他の隠密狼を始末することにしよう。今は全員俺を見てて動きは無いけど、俺が動けばまた戦いが始まるだろうし、ならレイドやジェノが自由に動けるようにしといた方が良さそうだ。
「なるほど、こいつは強いな。こんな雑魚共の相手なんざ後でいいか」
楽しそうに笑いこちらへ身体を向けるボス狼。こいつは、狩りは相手が強いほど燃えるとかそういうタイプなんだろうか。趣味や嗜好なんて個人の自由だけど、俺の知り合いを傷つけるような奴はとりあえず全員敵だ。
両手を前にかざすと、俺を囲うように水のリングが二本、俺の目と鳩尾くらいの高さに一本ずつ出現する。それを隠密狼達はニヤニヤして見ている。しかし、俺の仲間達は違う。慌てたように動き出す。そう、これは事前に決めてあった攻撃方法だ。
「それで何するのか見せてもらおうかぁ!」
ボス狼が俺目掛けて突っ込んでくる。確かに速い。今の俺とだと大体同じくらいだ。しかし、それならこっちの方が速い。俺が両手を交差するように引き、再び交差させながら勢い良く広げる。すると、水の輪は凄まじい速度で外側へと広がりながら飛んでいく。
それはまさに一瞬のことで、両腕を振るったその瞬間に、何が起きたのかを理解しないまま、隠密狼達は半径20m以内の木々と共に、輪切りにされて崩れ落ちる。俺の仲間は高く飛び上がったり、低くかがんだりして回避している。ギリギリだったのかレイドとリクルースは輪切りにされた隠密狼を見て青い顔をしているけど、今は気にしないでおこう。
「クソが、何しやがった!」
激昂しているのは、ボス狼。間一髪のところでスライディングの要領で回避したらしい。中々の反射神経だけど、回避されるのも織り込み済みだ。何も問題は無い。
「説明してやる理由が無いだろ。来ないのか?」
睨み付けると、悔しそうに睨み返してくる。原理は簡単、細く圧縮した水を高速で飛ばしただけの、ウォーターカッターだ。コノミがあのトカゲを両断したのを真似てみた。森林伐採になるから出来れば使いたくなかったけど、ついカッとなってしまったから仕方ない。
挑発が効いたのか、隠密狼が再び駆け出して距離を詰めてくる。少し近づかれていたからさっきの技は隙が大きくて使えない。いや、【水の使い手】はパッシブにしたから一々スキルを起動することもなく普通にノーモーションで撃てるんだけど、それも味気ない。やっぱり技っていうのはかっこいい構えありきだと思うしな。
隠密狼から開放されたジェノ達はリアクースやレルカの方へ駆け寄っていくのが見えた。よしよし、こいつは俺がぶっとばしとくから手当ては頼むぞ。
ボス狼に対しては、仕方ないので近接戦闘に付き合うことにした。切りかかってくる剣を左手で受け止めてそのまま握り締める。それなりに強靭になっている俺の手はこんなことで傷つくことはない。ボス狼も判断が早く、左手で殴りかかってくる。それに対して右の拳をぶつけてみる。
力比べのつもりの拳のぶつけあいは、僅かに俺の方が勝ったようで、ボス狼の身体が後ろに流れる。あえて追撃をしないと、ボス狼は後ろに跳んで距離をとった。もういいか。そろそろ俺の怒りを新しいスキルと一緒にぶつけてやろう。
俺が右手の平をボス狼へとかざすと突然ボス狼の身体を水が包み込む。あっという間に3mの球体になった水はボス狼をとりこんだまま、宙へと浮かぶ。必死にもがいているようだけど無駄だ。あの大きさだとかなりの重さになる。それが中心に向かうように操作しているから、暴れても大した動きにはならない。大丈夫だ、このまま溺死させることも出来るけど、そんな残酷なことはしないから安心して欲しい。
必死にもがくボス狼とそれに対峙する俺に、みんなの視線が集中しているのを感じる。ここはかっこよく決めてやらないとな。
両腕を前に突き出して手首で交差させる。そこからゆっくりと腕を左右に広げていくと、手と手の間を光の線が繋ぐ。その光は周囲に漂う俺の魔力を光へと換算し、動きに合わせるように更に収束していく。両腕を一杯に広げたところで、動きを止めても、光は収束を続けていく。
太くなり輝きを増した光の線を両腕に纏いながら腕を閉じていく。腕がぶつかる寸前で右腕を指先が天を向くように向きを変えながら肘を90度曲げる。横から見るとLの字になるように綺麗にだ。左腕も正面まで来たら肘から先だけをそのまま閉じて、左手首を右肘の少し上に押し付ける。それと同時に、技名を叫ぶ。
「ドラニウム光線!!」
両腕に纏った光は更に右腕に集中し、遂に光線として右腕から放たれる。赤や青などプリズムの輝きをもった光線は、大量の水で出来た牢獄を貫いてボス狼の身体へと到達する。
腕に集まった光を撃ち尽くすと、ボス狼の身体が一瞬発光して、そのまま水の球体ごと爆発した。砕け散った水と破片は辺りへばら撒かれて消滅した。
「ふぅ、スッキリした」
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