第18話 ランクアップ試験開始

 テイマーのランクアップ試験はトーナメント方式で行われる。闘技場の中で四つの区画に分けて、その範囲で各ランク毎に同時に行われるそうだ。大体毎月行われているので人数も一度に大勢参加することはほとんどないらしく、今回の試験もEランクが60人程でランクが上がるごとに減っていく。今回ジェノと俺の二人が参加するDランクも、19人の参加者がいた。


 強面のギルド職員に連れられて闘技場へとやって来た参加者は、指示に従ってランク毎に散っていく。俺達もぞろぞろと歩いて、Dランクの区画に到着した。


「うし、ずばっと勝ち上がって試験なんざ一発クリアだ!」


「そんなにうまくいくかなぁ・・・」


 ジェノは何も考えていない風に超ハイテンションで。試験なんだし勝てばいいって感じもしないんだけど。ちなみに付き添いは中まで入れないので、コノミは一番近い客席に座らされていた。観客席と闘技スペースの境界には観客への配慮として強力が貼ってあるとかで、安全なそこにいてもらう規則となっているそうだ。


 受験者達の振り分けが大体終わったのを見計らって、ギルド職員が看板のようなものを持ってきて受験者達の前のむきだしの地面へと突き刺す。そこにはトーナメント表が載っており、誰が誰と戦うかが分かりやすく書いてある。


 そこからは各自呼ばれたもの同士が戦い、気絶するか降参をするかで決着となる。なるべく殺してはいけないけど、結果的に死んでしまってもそれは仕方ないで処理される。死にたくないのなら冒険者などなるものではないと、説明を受けた。


 各参加者達は他の人の戦いを見ながら、自分が戦う時にどうするかを必死に考えている様子だ。勝てばいいってもんじゃないかもしれないけど、トーナメント形式である以上勝てば有利なのはきっと間違いないだろうし。


 俺も他の人たちと同じように試合を眺める。テイマーの試験だからみんな何かしらの従魔を連れているんだけど、その戦い方は様々だった。さっきのおっさんのように従魔をけしかけてテイマーは補助に周ったり

、逆にテイマーが前に出て従魔にフォローさせたりといった感じで。中には両方とも前に飛び出していく攻撃特化な組もいた。なるほど、これなら確かにジェノが前に出て行っても大丈夫そうだ。


「次!ジェノとリアクース、準備しろ!」


 そうこうしているとギルド職員からお呼びがかかった。ジェノの後に続いて20m四方くらいで引かれた四角の中へと入る。この四角の半分からこっちならどこから開始してもいいらしいので俺は後ろの線の前で立ち止まり、ジェノは真ん中の線の前で立ち止まる。完全なテイマー特攻型の陣形。しかもこっちはサポートが水を操るくらいしか出来ないから、もうジェノを一人で突っ込ませるのに等しい。けどジェノが絶対にこうするって言うから仕方ないよね。大怪我する前になんとかするから。


 相手の方をみると、相手はテイマーの方が後ろに下がって、従魔の方が前に出るようだ。ジェノとリアクースと呼ばれたテイマーの間くらいに陣取っている。よく見るとリアクースはエルフなのか、耳がややとがっている。金色の髪を後ろで一つにまとめているようだ。そして美人。やっぱりエルフといえば美人さん。エルフっていいよね。装備は弓矢。エルフだし魔法を使える可能性も高い。やばい、後衛としての能力に明らかに差がある。


 じゃあ前衛はどうかと言うと、リアクースの従魔は普通の大きさを持つ黒っぽい狼だ。きっとそれなりに力はあるだろうし、素早さも高そうだ。特殊なスキルも持っているかもしれない。対するこちらはジェノ。実力はいまいちピンと来てないけど、どうなんだろうか。まぁ、無理そうだったらとっておきもあるし、なんとかなるだろう。ジェノがやる気なんだから、ヒロインとして精一杯サポートしますかね。








 ジェノは事前にスプリと話し合って決めた位置まで来ると、太陽の煌きがはまっている棒を手に持って魔力を流す。すると、オレンジ色の金属が長剣を形作る。よく見ると相手を殺さないように刃は鋭くなっていない。そして相手を睨みつけるように観察する。


 相手は金髪エルフのリアクースちゃん。エルフだし見た目に反して歳いってるかもしれねぇけど美人だからちゃんでいいや。エルフらしく胸はそこそこ。でもやっぱり美人。なるほど、こいつは手ごわそうだ。


 等と下らないことで頭が一杯になるが、今は真面目に試験を受けなければとすぐに一旦振り払う。リアクースはエルフ族の得意とする弓を装備している。そして従魔は隠密狼スパイウルフという種族のモンスターである。


 この国のテイマーは大体召喚がメインではあるが、それ以外にもいくつか従魔を手に入れる方法がある。その中の一つがテイムであり、このクードと名づけられた隠密狼も、リアクースによって森の中でテイムされた個体であった。隠密狼の危険度はBランク。高度な知能とその名の示す通り隠密行動を得意としており、変身能力を有する。そのスキルを使って冒険者パーティーや集団の中の一人に成り代わり、群れの元へと誘い込んで餌食にするという危険なモンスター。クードは生まれたばかりの頃にリアクースによって保護され、まだ完全な成獣ではない。しかしその能力の高さ故に従魔ランクはD。あと十数年も育て上げればAランクも夢ではないほどの資質を秘めているのだ。


そして遂に、試験官が声を張り上げる。


「はじめ!」


 合図と同時にクードが真っ直ぐにジェノへと飛び掛り、リアクースはジェノへと矢を放つ。ジェノとスプリのペアの噂話は、参加者全員の耳に入っていた。昨日登録したばかりでテイマーも従魔も両方Fランク。しかしテイマーの方は絡んできたBランク冒険者に対して時間稼ぎが出来るくらいには実力がある。というものだ。実際の部分と違うところもあるが、その情報と従魔ランクは純粋に強さによって決まるということからリアクースはジェノへの集中攻撃という判断に至った。


 対するジェノは、特に慌てた様子もなく笑みすら浮かべながら矢を切っ先で軽くはじき、クードを返す剣を振り下ろし、肩の辺りを打ち据えたそのままの勢いでクードを地面へ叩きつけた。流れるような動作でそれを行ったジェノは、再び飛んできた矢を弾きながらリアクースを見やる。


「まだ続けるか?」


「くっ・・・降参!」


「そこまで!勝者、ジェノ!」


 それはまさに一瞬の出来事で、見ていた者達はざわざわと近くにいた者同士でなにやら話している。勝利に気分を良くしたジェノは上機嫌で四角の中から出る。


「ジェノ、実は強かったんだな」


「実はってなんだよ実はって!これでも10年間あの鬼にしごかれてきてんだ、こんくらいはできねぇとな!」


 余裕そうに従魔とはしゃいでいるジェノの姿に、他の参加者達は反感を覚える。試験中である以上それを今すぐどうこうと思う者はまだいなかったが。







 9試合終わったところで休憩となり、参加者達は昼食の為に散っていく。俺とジェノもほったらかしにしていたコノミと合流し、何か食べに行こうとしたところでこちらにとある人物がやってくるのに気がついた。それは動きやすさを優先した軽装に、背中に背負った弓矢、真っ直ぐな眺めの金髪を後ろで一つにまとめて、狼を伴った人物。先ほどの試験でジェノに敗れたリアクースだった。


 恨み言でも言われるのかと思ったら、なんと用件はジェノへの感謝の言葉だった。なんでも、本来なら武器はそのまま使っても良くて、実際リアクースの放った矢も金属製の、しかも返しまでついた鋭い鏃のものだったそうだ。なのにジェノの剣の刃は潰してあったおかげで、中級回復薬一つで従魔を回復できたからお礼を言いたかったとかなんとか。しかしまぁ、


「でも、私のクードの得意とするのは隠密行動であって、真正面から戦うことじゃないから。それだけは忘れないでよね」


 と気の強いことを言って去っていった。ツンデレか?ツンデレなのか?ジェノも何かが気に入ったのか、やはり美人と話せたのが幸せなのか、すごい嬉しそうにはしゃいでいる。


「うへへへへ、リアクースちゃんにお礼言われちゃった。うっひょひょひょへぶっ、おおう・・・」


「ええい、うるさいのう!」


「ごはぁっ!・・・へへへ、これもオレにとってはご褒美だぜ」


 なんかむかつくので頭の横に一つに結んでいた髪の毛の束で顔面を叩いておく。するとそれを面白がったか、同じくジェノがうざかったのか、顔を両手で押さえているジェノの腹にコノミがボディブローを入れた。これでしばらくは静かになるな。なんかうずくまりながらも気持ち悪いこと言ってるけどそこはあえて触れないでおく。


 なんとか一回戦は勝ち抜いたし、この調子で後半戦も頑張っていこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る