第16話 唐突の試験前夜

 特訓を終えて帰宅したジェノを待っていたのは、衝撃、そして天使エンジェル達であった。スプリがいるのはわかってはいたが、何故か女の子がもう一人増えていたのだ。スプリと同じく美少女としか言えない容姿で、違うところといえば髪の毛が薄水色で金色の毛が一房前に垂れていて、瞳は金色。服も膝くらいまである白いワンピースを着ており、活発的なスプリとは対照的にどこか儚げな印象をジェノは受けた。


 なんだこれ、さっそくオレの祈りが神に通じてスプリが分裂でもしたか?神なんて信じてないけど。でも女神様なら大歓迎。


 等と下らないことを考えている間も、スプリと謎の女の子は仲良さげにしている。若干スプリが疲れたようにしているがジェノは気づいていない。可愛いと可愛いが掛け算されて、もはや超可愛いとしか認識できないのである。しばらく眺めていると、ジェノに気づいたスプリが声をかけてくる。


「あ、ジェノ、帰ってきたのか」


「おう。その子はどうした?妹でも呼んだのか?」


 同じような顔をしていたら普通に辿り着く予想。しかしスプリは首を横に振ると、紹介を始めた。


「この子はコノミって言って、今日出会った龍神だ」


「はぁ!?龍神って、あの龍神か?」


「うん」


「うむ、敬うが良い」


 素直に頷くスプリと、やたら偉そうに無い胸を張るコノミ。目の前にいる存在が龍神だという衝撃も、ジェノにとっては一瞬だった。何故なら美少女が2人も目の前にいて、しかも詳しく用件を聞いてみると自分の旅に同行するとのことだったからだ。早くもハーレム要員の二人目を得て、ジェノにしては珍しい少し落ち込んだ気分もどこかへ吹き飛んでいったのであった。







 こっちの世界にも風呂の文化はあったらしく、安心した。しかし、一つ発覚したことがあった。今俺が着てる服、服じゃなかった。どうやら身体の一部というか、一体化しているみたいで脱ぐことは出来なかった。どうしたかというと、そのまま入った。ということは俺って常に全裸ってことか?なにそれこわい。


 とはいえ他の服が着れないかというとそうではなく、さっき自分で作った手袋をつけたら肘まであるはずの黒い手袋は消えたように見えなくなっていた。そして今も、この世界の寝巻きのような物を用意してもらっていたので上から着てみると、やはり違和感の無いように元々の服は消えている。ピンク色の寝巻きは恥ずかしいが、まぁちゃんと着れて良かった。ていうか外に出る時は脱ぐだけか。何かに目覚めかねないな。


 あと、ここでようやく自分の姿を鏡で確認した。コノミの言ってた通り、あんな感じの顔で、間違いなく美少女に分類される。めっちゃ可愛い。俺じゃなければ嫁にしたいくらいの可愛さだ。やっぱりこれはヒロインを目指さざるをえないし、目指して正解だった。


 そして、風呂の後は四人で食事をして、今は俺にあてがわれた部屋に、俺とジェノとコノミの三人が揃っている。ちなみにベッドは最初から大きすぎるくらいだったので、二人で使いなさいと言われている。美少女と添い寝なんてどういうことだ。いいのか本当に。まぁでも今は俺も美少女だしいんだよねきっと。


 そしてもう一人の美少女はというと、必死に自分の膝に座らせようとするジェノと戦っていた。ジェノはどうも可愛い子に弱いらしく、とてつもなく興奮している。コノミの方は実はジェノがあんまり好きじゃないらしく、態度がすごく悪い。まぁ龍神なんだしそこは仕方ないと思うけど。


「さぁさぁコノミ、そんな遠慮しないでここに座りなって」


「寄るな汚らわしい。我はそのようなところに座るつもりはない。我はスプリについて行くだけで、貴様と仲良くする気なぞ毛頭無いのだからの!」


「あー、怒った顔も可愛いなー!」


「ええい寄るでない!」


「ボルックス!」


 あ、しつこくしてたジェノが殴り飛ばされた。そのまま壁に叩きつけられてがっくりと崩れ落ちる。とまぁこんな調子だ。力のほとんどを譲ったとはいえそこは龍神。力を失ってもなお人間とは比べ物にならない力を持ってるんだろうな。


「ほら、いつまでもじゃれてないで話をしよう。ジェノには色々聞きたいんだから」


 俺が椅子に腰掛けるとコノミがその膝の上に座り、ジェノも続こうとしてコノミに殴り飛ばされて仕方なく対面の椅子へと座る。その眼差しは羨ましそうであったけど、しばらくすると微笑ましそうなものに変わった。人生楽しそうで何よりだ。





 膝の上でこちらを見てくるコノミの官職にドギマギしながらも、それからしばらく話をした。ラノベの主人公ならとりあえず軽く引き受けて、ぱぱっと解決して色んなコネとか手に入りそうな巻の目玉とも言えそうなイベントを断った理由を聞いてみるとジェノ曰く、


「Aランク冒険者が狩り出されるような魔人なんてオレらにはまだ早い。いくらコノミに力をもらえたからってそれをすぐに使いこなせるわけでもないだろうし、そんなんでスプリを戦わせるわけにゃいかねぇよ。それに、龍神の力を受け継ぐなんてこの街では大事だ。目立ちすぎて面倒になるぜきっと」


 とのことだった。言いたいことはわかったけど、別にそこまで過保護にならなくてもいいのに。コノミなんかは、何言ってんだこいつ、という雰囲気が滲み出ている。俺の能力や強さはジェノには内緒だと説明してあるから何も言わないでいてくれてるけど。


 その魔人というのも興味があったしあのキルウェイさんとかの頼みなら引き受けたい気持ちもあったけど、ジェノがそう言うなら仕方ない。あのパンダ達はやはり相性はあれど、二人で五人組くらいAランクパーティに匹敵するほどの実力者らしいし、きっとなんとかなるだろう。


 他に話したことといえば、ジェノが口走ったテイマーのランクアップ試験。これは明日と明後日の両日使って行われるらしい。Cまでのランク毎に同時に開催され、合格すれば参加したランクの一個上のランクへ上がることが出来る。基本的には現在の自分のランクと同じランクに参加するそうだけど、実は飛び越えての参加も可能らしい。ただ、試験中に死亡したとしても責任は持たないとかで、大人しく実力に見合ったランクに参加すべきとのことだった。


 俺達は現在二人ともFランク。なので普通に考えるとFランクが妥当なところだけど、ジェノはDランクの試験に参加すると言い出した。いや確かにやろうと思えば圧勝することも簡単だけど、縛りを設けたままでは正直難しいと思う。けれどジェノとしては、チマチマランクを上げるのも面倒らしく、旅立つ前にランクを一気にあげておきたいらしい。


「大丈夫だって、オレが前に出てスプリが戦わなくてもいいようにすっからさ」


 等とジェノは言ってたけど、そういうことじゃない。ていうかテイマーの試験なのにジェノが前に出ても大丈夫なのかと聞くと、そういう戦い方もあるから大丈夫と返事がきた。そんなものなんだろうか。コノミはやはり、こいつ何言ってるんだという感じのオーラを発していた。


 ここで説明しておくと、ジェノの冒険者としてのランクはF。それとは別に、俺のランクもF。それは従魔ランクと呼ばれ、あらゆる面や貢献度を含めてランクにした冒険者とは違い、純粋に強さや脅威度によって付けられる。モンスターについてるランクと概ね似たような意味合いだ。希少性等は加味しないけど。


 これは【鑑定】された結果、つまりパラメータやスキルで決めるので成長しなければ一生上がることはない。確かにジェノは実力はそこそこあるけど、俺は(表向きは)Fランクモンスターだ。しかも登録した翌日に試験なんかに出て悪目立ちしないかが心配だ。何故ならランクアップ試験はトーナメント形式で、娯楽の少ないこの街では観客が大勢きて観戦するらしいからだ。果たしてどんな戦いになるのやら。


 ちなみに、やはり美少女と一緒に寝るというのはハードルが見えないくらいに高く、しかもコノミが抱きついた状態で寝るものだから一睡も出来なかった。あとジェノは一緒に寝ようとしたところをコノミに殴り飛ばされて何故かかけつけたジェノママに連行されていった。というのも付け加えておく。


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