第15話 ロリの取れたてほかほか

 今いるのは、人気の無い公園のようなスペースだ。この世界の人の一般人は暗くなればもはや寝るだけのようで、この時間に遊んでる子供はいないらしい。そうコノミが教えてくれた。


 なんでまたこんなところへ来たかというと、まだ実験が途中だったからだ。明日もまた忙しそうだし【アイテム作成】のスキルを少しだけでも試してから帰りたい。


「というわけで、色んなアイテムを作ってみる」


「わー、ぱちぱちぱち」


 コノミは適当な段差へ腰掛けて、こちらを見守っている。美少女好きなやつがこの光景を見たら狂喜乱舞して通報されそうだ。というか俺も見たい。俺がその美少女の一人じゃなかったらだけど。


 さて、どうやらこのスキルの使い方は二通りあるらしい。一つは金属やモンスターの素材等の材料を消費して、アイテムを作成する。もう一つは、既に存在しているアイテムに、スキルを付与すること。


 前者はそのままの意味で、作成する。鉄を使って剣や盾を作れるということだなきっと。試しに、その辺りに転がっていた小石を何個か拾ってきて、それに向けてスキルを発動してみる。とりあえずナイフにしてみるか。ちなみに、このスキルは魔力を大量に消費すればするほどアイテムの質が上がるので、【弱体化】はオフにしたままだ。


「【アイテム作成】」


 すると、用意していた材料が光に包まれて一つにまとまったかと思うと、次の瞬間には石で出来た30cmくらいのナイフになった。手にとってみると、何個かの石で出来たはずのナイフはどう見ても一つの石から出来たものであり、どこを見てもまだらになっていたり継ぎ目があったりしない。何の違和感も一つの物質になっている。これって凄くないか?


 コノミが手を差し出してくるので渡してみると概ね同じ感想だったらしく、まじまじと槍を見ている


「おー、よく出来ておるな。一つの物質として存在しておる。刃も一流の鍛冶師が研いだかのように鋭い」


 このスキルやばい。素材とイメージ力さえあれば望んだ形の物が作り放題だ!


 興奮してこの後も色々実験してみた。さて、もう一つの使い方はどうかと試してみると、なんとも微妙な結果になった。スキルを付与出来ると言っても俺が習得しているものに限らず、相応の魔力さえ消費すればなんでも付け足せるらしい。それだけ聞くとすごい便利に聞こえるけど、強力なスキルは膨大な魔力を消費するせいか、スキルによってはアイテムが砕け散るようだ。


 試しに風を操る能力を付与しようとした石のナイフが砕け散ったので、次の石のナイフに突風を巻き起こす能力を付与しようとしたらやはり砕け散った。結果的に石のナイフに付与出来たのは優しく吹きかけたような風が切っ先から出せるというもの。全く以って使えない。


「うーん、他に試せそうな素材も無いし今日はもう諦めようかな」


 なんせこっちに召喚されてから色々付いて回ったり絡まれたりと、スキルをろくに試す時間も無かったんだから、実験に使える素材なんてあるわけがない。ジェノママに頼めば融通してくれるかもしれないけど、あんまり頼るのも悪いし。


「しょうがないの、これを使うとよい。取れたてほかほかだ」


 と差し出されたのは今の俺の胴体より大きな水色の鱗。厚さは1cmくらいだろうか。受け取ってみると、この大きさで羽毛のように軽い。いくら軽くてもどっから出したんだこんなの。なんでも俺のために丁度抜け落ちそうなのをくれたらしい。有難い話だ。せっかくなので使わせてもらおう。武器にするのもなんか違う気がするし、あれを作ってみよう。ついでに髪の毛も何本かもらって、それを素材として認識して完成品を思い浮かべる。


「【アイテム作成】」


 光に包まれて出来上がったのは、一つの手袋。もちろんただの手袋ではない。右手用の手袋一つだけで、薬指と小指の部分だけ第二間接から先が無い。そう、これは弓矢を射る時用の手袋だ。このスキル、頭の中で細かくデザインすればそれに添ってくれるし、デザインしなくてもイメージがある程度あれば細かいところは勝手に補ってくれる。なんて便利なんだ。


「ほー、綺麗な手袋が出来たな。これは弓使い用のものかの」


「だな」


 手袋をよく見てみると、あの鱗に色々処理をして、加工した物を手袋にしてあるのが分かった。糸の部分は髪の毛。このスキルはそういう細かい手順も全てすっとばしてくれるらしい。職人涙目だな。しかも素材のお陰かえらく頑丈そうだ。薄く加工されているのに普通の刃物くらいなら通さないように思える。


「さて、まだ終わりじゃないぞ。【アイテム作成】」


 続けてこの手袋にスキルを付与する。手袋だし装備者に合わせてのサイズ変更と、さっきなんとなく付けた風関係のスキルだというのはもう決めてある。その為に射手の為の手袋を作ったんだからな。手袋が光に包まれていく。さっきまではそのまま砕け散ったけどどうだ・・・?


 手袋が無残にも砕け散る・・・ようなことも無く、光が収まる。うまくいったようだ。試しに手袋を付けてみる。少し大きめだった手袋は、次の瞬間にはジャストサイズへと変化した。ファンタジーってすごいね。自分で作ったけど。


「試してみるのか?しかし弓なんて無いぞ」


「大丈夫だよ。投げても効果を発揮できるように作っておいたから。よっ、と」


 まずは効果を使わずに、先ほど実験で沢山作った石のナイフを、投げてみる。軽く投げたけど、少し離れた位置にあった木の幹にスコーンと小気味いい音を響かせて突き刺さった。相変わらずすごい身体能力だ。コノミは嫌なことでも思い出したのか浮かない顔をしてる。それは置いといて、だ。次は魔力を手袋に込めながら、さっきと同じくらいの勢いで投げてみる。


 俺の手から放たれた石のナイフは、荒れ狂う突風をその身に纏い、正に風の弾丸と化して一本の木へと命中し、その木の幹もろともに砕け散った。威力上がりすぎ。そんなに太くなかったとはいっても木を一本倒しちゃったぞ。


「恐ろしい威力だのう。しかし毎回それだけの魔力を込めておったらすぐに力尽きるのではないかの?」


「大丈夫大丈夫、魔力量によって威力が決まるから、使う魔力も調節できるよ。もちろん威力はその分下がるけどね」


 なんでもないように答えると、コノミが固まる。どうしたのかとほっぺたをつついてみると、呆れたように教えてくれた。


 曰く、魔法具というアイテムがあるがそれは一定の効果しか出せず、あくまで神の残した遺産である神具の紛い物。細かい調節の出来るスキルが付与してあるアイテムは、魔法具のオリジナルとも言えるその神具であり、まさにこの手袋だという。付与するのは使いづらい方だと思ったら、こっちも十分とんでもなかった。仕方ないからこの手袋はしばらく仕舞っておこう。


 そして実験の結果、素材として上質な物で出来たアイテムほど、強いスキルに耐えられるようだ。龍神の鱗なんて、おそらく素材としては最上級だろうし。あんまり沢山もらうのも悪いし、鱗ばかり使うと全部水色になってしまうから他の素材も集めて色々作ってみたい。まぁ、作ったとしても使うあても仕舞う場所も無いんだけど。っていうかジェノにばれる。


「我の素材で出来た防具なら、我が授けたことにも出来るがの」


「それもそうだな。まぁ、今日はここまでにして、家に帰ろうか」


「うむ、腹も空いたしの」


 そういえばこっちに来てから何も食べてなかった。でもあんまりお腹が空いた気もしないな。食べる必要もなくなったんだろうか。ジェノママにでもこっそり聞いてみようかな。片手で持ってきた荷物を持って、

もう片方の手には上機嫌なコノミ。正直26歳童貞としてはすごい嬉し恥ずかしなシチュエーションなわけだけど、美少女でヒロインのスプリとしては 差し出された手を拒否するわけにもいかない。俺は大人しく手を繋いで、すっかり暗くなった街を歩くのだった。


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