第13話 領主からの依頼

 突然現れた立派な髭を蓄えた立派そうな人に連れられて、立派な馬車で立派な屋敷へと連れて来られた。え、これって明らかに貴族的な階級な人だよね?道中護衛の騎士がそれなりに併走していたし、屋敷についてからも沢山の使用人達に迎えられた。


 こんな偉い幹事の人に連れて来られて、一体俺達はどうされてしまうのか。いやまぁ話を聞きたいってことだったから悪いようにはされないだろうし。ジェノなんて思い切り楽しそうにワクワクした表情をしている。なんでもこっちの貴族街には入ったことすらないそうだ。そりゃそうだ。文字通り身分が違う。


 そして今は応接室のようなところでジェノと並んでソファに座っている。俺でも分かるくらい明らかに良いもので、お値段もそれなりだろう。貴族の屋敷の応接間ということで見栄えを意識しているのか、さりげないながらも高級感あふれる芸術品が部屋を彩っている。こんな光景アニメや漫画でしか見たことの無い俺は、この部屋をキョロキョロと見回してもおかしくは無いのだけど、それよりも目を引くものがあった。


 実は馬車でこっちへ来るときからずっと気になっていた。向かいのソファは貴族が着替えから戻ってきてないからまだ誰も座っていない。問題はその後ろに控えている二人組みだ。片方はなんだかゴリラっぽい雰囲気はあるけど普通に人間だ。しかしもう一人の方は、なんだあれ。


 そこにいたのは、三度傘を被って、刀を腰に差して直立しているパンダだった。立ち位置的に貴族の護衛なのだろうけど、騎士という感じでもない。なら個人的に雇われた冒険者だろう。にしてものっしのっしと直立二足歩行するパンダはとてもシュールだ。まだ言葉を聞いてないけど喋れるんだろうか。あの貴族が戻ってきたら聞いてみよう。


 そう思いつつ目の前に用意されたお茶をすすって待っていると、先ほどの貴族が現れた。護衛としてついていた騎士は、軽く頭を下げると、そのまま扉を閉めた。どうやら外で待機するようだ。となるとあの二人組はやっぱり護衛だな。


 ジェノが立ち上がったので、俺も真似して立ち上がる。態度が軽いせいでバカっぽいと思っていたけどそれなりに礼儀は知っているようだ。というかあの母親は礼儀には厳しそうだったな。結局は色々甘かったけど。


「遅くなってすまない。ああ、そのままくつろいでくれて構わんよ。二人も、楽にしていてくれ」


「うす」


「ありがとうございます」


 さっきの第一印象としては気難しそうに感じたけど、案外気のいい人なのかも知れない。疲れたような笑顔から、なんとなくそんな気がした。そしておっさんの方が適当なのにパンダは丁寧なのがギャップもあって笑いがこみ上げてくる。あのパンダはやばい。色んな意味で。


「どうも。オレはFランクテイマーのジェノ、こっちはFランク従魔のスプリです。それで、オレ達を連れてきたのはどういったご用件で?」


 ジェノが俺を紹介するのに合わせてぺこりと頭を下げる。そしてチラリとジェノの方を見る。あそこまでのことが起きてたのにどういったご用件とはこいつ、案外図太いやつだ。いや、そもそも図太かった気もするな。


「私はこのコウロの領主をしている、カリウェイ・ポーツタフ辺境伯だ。そしてこっちは冒険者のコーキンとテッペだ。ああ、誤魔化さなくても良い。私は君達が何かしでかしたとも思っていないし、捕まえたり罰したりするつもりももちろん無い。ただ話が聞きたいだけなのだよ」


 なんと、貴族なのは間違いないとしてどの程度かと思っていたら領主が直々に出向いてきてたとは。随分と殊勝なことだ。ジェノや俺はきっと、小説などで知っている貴族が相手ならぶち切れて処刑されそうなくらい貴族相手の礼儀などなっていないだろうにそこも気にした様子が見えない。すごく出来た人の気がする。


「んー・・・、よし。この街を治めてる領主様ならきっと信用できるだろうし、オレらが知ってることは全部話しますわ」


 ジェノがチラリとこちらに視線を向けてくるので、無言で頷きを返しておいた。そうすると、この領主を

信用することにしたのか先ほどまでの出来事を語っていく。ただ聞いてるのも暇なので相槌や同意の声も入れながらだ。そしてジェノが気を失ってからのことは、俺が必死に祈ったら鎮まってくれたということにしておいた。


 そして俺が鎮めた証としてあの水晶玉も提出すると、後ろの2人も含めて3人でまじまじと見つめてから、カリウェイさんはふぅと息を吐いた。


「なんだこれ・・・魔石か?いや、なんか違う気がする。テッペさん、これ何かわかる?」


「いやわかんない」


 そう言いながらコミカルに首を振るテッペと呼ばれたパンダ。お前素はそっちかよ。面白いから動かないでくれ。苦しい。


「にわかには信じがたいが、これを見せられてはどうしようもないな」


「これって何なんですか?」


 拾ったはいいものの今一これがなんなのか分かっていなかったので、パンダから視線を引き剥がしてついでとばかりに聞いてみる。


「これは龍神の宝玉と言って、龍神様が力を貸し与える時に授けると語られている伝説級のアイテムだ。鎮めるどころか、龍神様に認められていなければこれを授かることは無い。ましてや、封印を破るような相手に授ける物ではないのだよ」


 その言葉に驚くカリウェイさんの護衛2人と、何故か超興奮しているジェノ。さすがオレの相棒だ!なんて言いながら俺の頭をがしがしと撫でてくる。


 いやまぁ、封印ぶち壊しましたけどね。祠もろとも木っ端☆微塵に。まぁそういうことなら疑いが晴れたようで良かった。こちらも全力で龍神をぼこぼこにした甲斐があったというもんだ。


 まだ撫で続けているジェノに若干うっとうしいなぁと思ったら、左の方でまとめてる髪の毛の束がジェノの後頭部を叩いた。すげぇ、なんか動いた!あれか、猫の尻尾みたいなものか?なんてそんなことは今は置いておこう。


「そうなんですか。なんなのか分からなかったもので」


 龍神を鎮めるのに必死で無我夢中で余裕が無かったとアピールしておく。お、倒れた主人公を庇って龍神を鎮めるために必死に祈るってなんかすごいヒロインっぽくていいね!実際はヒロイン(物理)って感じだったけども。


「うむ、これはきっと龍神様が君達に加護をくださるという意思の表れだろう。私にはそういったものを感じ取る力は無いが、話を聞いた限りでは分け与えるのではなく龍神様自身が宿っておられるようであるしな」


 そっと宝玉を差し出すカリウェイ。宝玉を受け取ると、ジェノに手渡した。さっきの話を聞いてなかったのか、聞いててそれなのか、わりかし雑に皮袋へと押し込んでいる。おいバカ空気読め、カリウェイさんがめっちゃ見てるぞ!


「んん、あと、君達が言っていた冒険者だが、騎士達に捜索とギルドへの連絡を行うよう伝えてある。直に見つかって罪を償うことになるだろう」


 ああ、そういえばあいつら逃げたまんまだったな。俺のせいとはいえあれだけのことをしでかしたことになってるんだから、そう簡単に許されることではない。まぁ俺達に絡んできたんだから自業自得だね。


「あー、すみません、カリウェイさん。一つ提案があるんすけど」


「どうしたコーキン。言ってみよ」


「Cランクの冒険者相手に戦えて、龍神様が力を貸してくれるんなら十分な戦力っすよね?さっきの件に協力してもらったらいいかと思いましてね」


 さっきの件?とは一体なんだろうか。もしかしてまた厄介なことに巻き込まれるのでは・・・。


「なるほど、いいんじゃね?」


 コーキンの言葉に軽く相槌を打つパンダ。カリウェイさんとコーキンに対してのギャップも相まって噴きそうになる。だめだ、何が面白いのか理解は出来ないけど何かが俺のツボに入ってる。


「確かに、な。あの件は少数精鋭で当たりたい。今はタイミングの問題でAランク以上の冒険者は君達しか空いていなかったし丁度良いかもしれんな」


「さっきの件とは?」


 ジェノは落ち着いた様子で詳しく話を聞こうとしている。っていうかあの二人Aランクかよ。明らかに武器が前衛特化だけど大丈夫なのか?


「実はな・・・」


 そうしてカリウェイさんは、“装甲”魔人ガイサと呼ばれる、この街に迫る脅威について語ってくれた。







 資料も見せてもらいながら、話を聞き終える。ジェノは黙り込んで何やら考えている。


 ジェノはその“装甲”の二つ名を持つ魔人ガイサについてある程度知っていたらしく、最近の目撃情報の資料くらいしか見ていなかったけど俺は違う。御伽噺や帝国と遭遇した話など、素直に面白いと感じた。確かにこんなのが街の近くで目撃されたら領主としては放っておくことは出来ないだろう。フィクションの貴族だと放置したり思想だけど、カリウェイさんのお陰で貴族に対する高感度が上がっている。


「といった具合なのだよ。この件は迅速に片付けてしまいたい。報酬は弾む。だから力を貸してはもらえないだろうか?」


 じっと、俺達二人を見つめてくるカリウェイさん。この人は、間違いなく良い人だ。街の為、領民の為を思って行動している。さっきすぐに駆けつけてきたのだって、何かがあればすぐに対応出来るようにこの屋敷の窓からはあの広場が見えるようになっていたからだ。そもそも自らが飛んでくるというのが、責任感の強さを証明している。


 変な冒険者に絡まれはしたが、何度か自分の脚で歩いたこの街も嫌いじゃない。だからこの人に力を貸すことに何の異論も無かったし、もちろんジェノも同じ考えだと思ってた。いつも通りに目線を向けたら、任せとけ!と調子の良いことを言うに違いないと思っていた。


 しかし、ジェノの返事は想像と違うものだった。


「いやー、すんません、実はオレ達、明日と明後日行われるテイマーのランクアップ試験に参加して、その後はすぐに旅立つ予定なんですよー」


 そんな話初耳なんだけど。ゴタゴタしてたせいで言いそびれたっぽいな。


「ふむ、どうしてもか?」


「どうしても、っすね。ではそういうことで!よっしゃ行くぞスプリ、かえって特訓だ!」


「・・・あ、ちょっと待てって、ジェノ!おい!」


 ジェノは早口に理由を告げると、そのまま立ち上がって部屋を出て行こうと歩き出す。一瞬放心していたけどすぐに我に返って呼び止める。しかしジェノは振り返ろうともしない。少し前までは楽しそうにしていたのに、一体何がどうなっているんだろうか。


「あちゃー、ま、しゃーないっすね」


「そうだな、まだギルドに登録したばかりの者達には荷が重かったようだ。君達に頑張ってもらうしかなさそうだな」


「他に期待できそうな戦力もいませんしね。万が一を考えたら騎士団には街に残ってもらわないといけないですし」


「無いものは無いのでからあるもので対応するしかあるまい。スプリ、と言ったかね。我々のことは気にしなくても大丈夫だから、パートナーのところへ戻りなさい」


 これはジェノを追いかけてもいいのか?でも失礼にあたるかもしれないし、そしたらジェノを連れ戻した方がいいのか?どうしようかと、オロオロしているとカリウェイさんが目線を合わせて優しく話しかけて来た。俺はその言葉に素直に甘えることにして、頭を軽く下げてからジェノを追いかけるように退室した。


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