第10話 回想:ジェノから見たこれまで

 オレはついに、念願のテイマーへの第一歩を踏み出す。召喚の儀式の為の資金がついに貯まったのだ。思えば長かった。そんな辛い思いでは置いといて、オレには夢がある。


 まず可愛い女の子を召喚してパートナーにする。そしてその子と旅立って色々な街を旅して、色々な問題を解決して可愛い女の子とお近づきになる。そして仲間も増やしたりしてウハウハハーレムパーティーの完成!ってな。オレって頭いい!


「あんたら、誰だ?」


 そして運命の時、これで女の子じゃなくてもまぁ仕方ないとは思っていた。だからいざ召喚してみて、少し幼いとはいえ可愛い女の子が出てきたときはそれはもう大興奮の有頂天だった。そこはなんとかオレの紳士力で押さえ込んで、冷静にかつ爽やかに名乗ることに成功した。


「オレはジェノだ。まずは詳しい話をしたい」







 オレはまだ本契約をしていない為この子の名前を知らない。なのでこの女の子と二人で、母親のやっている召喚術の店兼自宅へとやってきた。服装や顔立ち、髪の色や目の色が珍しいのはあっても普通の人にしか見えないが、一応種族やステータスの鑑定はしなければいけない。しかし爺さんの店にある鑑定用の道具が調子が悪かったらしく、これ以上金も掛けられないのでタダでやってもらえそうな母親に頼むことにしたってわけだ。


 自宅に到着してとりあえず空き部屋で待っていてもらい、母親を呼んでくることにした。


 オレの可愛い可愛いパートナー(予定)の待つ空き部屋を出て、店の方へ周ると接客中の母親の姿を見つけた。傍から見たら見たらクールな美人らしいが、オレからしたら氷の悪魔としか思えねぇ。とにかく冷徹で怖い存在だ。


 しばらく待って客が途切れたタイミングで事情も説明せずに引っ張って行く。結構待たせちまってるし時間が少しでも惜しい。


 部屋に入ると、オレの相棒(予定)は椅子に腰掛けて脚をブラブラさせて待っていた。それに合わせるように、長い黒髪を頭の左側で一つにまとめたサイドポニー?がゆさゆさ揺れている。可愛い。いやオレは決してロリコンという訳ではなく、色んなジャンルの女の子が好きで、その中にはもちろんロリも存在するというだけだ。つまり、ロリしかいけないのではなくロリでもいける、よってロリコンではないのだ。


「わりぃわりぃ、待たせたな」


「ほんと、結構待ったよ」


 若干すねたような顔もまた可愛い。口調は女の子っぽくないが、それもまた一つの属性であり愛嬌だ。愛でる事はあっても機嫌を損ねる要素など何も無い。


「・・・なるほど。フロンスの爺、私に黙ってそんなことを・・・。ジェノも召喚術はダメだと、あれ程言ったろうに」


「まぁまぁ、客商商売な以上爺さんも断れねぇし、禁止って言ったってもう呼んじまったもんはしょうがないし?」


 そして急に連れて来られて無表情ながらも確実に不機嫌な母親に対して説明すると、やはり呆れたように言われた。母さんは昔からオレがテイマーになって旅立ちたいというのを知っていて、ずっと反対していた。だからこっそりとばれないように資金を貯めるのに10年も掛かってしまった。それが無ければもっと早くに旅立てたんだろうに。


 しかし、一度やっちまえばこっちのもんだ。何故なら、召喚したモンスターは基本的に送り返せない。召喚してすぐに呼ばれた者と呼んだ者の両方が心の底から帰りたい、帰したいと思って可能となる。なのでそれなりに時間が経っていて、かつ少なくともオレは絶対に帰さないと思っているので不可能なのである。それを母さんも分かっているからこそ、呆れてはいるが今更咎めてもしょうがないと怒らないのだから。


「まったく、仕方ない。お前が呼び出したのはその子だろ?見てあげるからしばらく外にいなさい」


「はいよ。んじゃ、また後でな」


 手を振りながら、鑑定結果を楽しみに部屋を出る。もちろんあの子が自分の身を守れるという意味では強いにこしたことはないが、元々一人旅ではないという周囲へのアピールとハーレム要員のつもりで召喚したのだから、弱くたって構わない。戦闘はオレ一人でなんとかするつもりで、長年母さんのもとでしごかれて来たんだからな。








 自室でごろごろしていると、扉からノックの音が響き、続けて母さんの声がする。


「【鑑定】が終わった。戻ってくるといい」


「待ってました!」


 ぼろっちい愛用のベッドから飛び起きて、早足で先ほどの部屋へと向かう。中へ入ると、母さんと相棒が待っていた。


「結果だが、これだ」


 鑑定結果を紙に模写した物を渡される。街でも評判の良い母さんのサイン入りの、ステータス証明書だ。ギルド等では別途【鑑定】の必要があるが、他のところでは信頼できる一品である。どれどれ。


種族:人間

筋力:F 魔力:E はやさ:F 頑強さ:F 生命力:F

スキル

・【水の使い手ウォータニア】


 なるほど。やっぱり見た目どおりほとんど戦いに向かないようだ。正直可愛かったらいいと思って召喚したから全く問題ない。むしろ、若干魔力が高くて水系のスキルも使えるくらいだし十分過ぎるくらいだ。


 ちなみに、このステータスの段階は成人の一般男性のステータスをFとして基準にしている。だから少なくともこの子は一般男性くらいの身体能力はある。極稀に子供並みのステータスのモンスターが召喚された場合は-(ランク外)となる。


 さて、無事に鑑定も終わったところで本題に入らなければならない。相棒(予定)のほうへと視線を向ける。


「お前はオレが絶対に守る。契約してくれねぇか?」


「いいよ」


 さすがのオレもそれなりに緊張して問いかけたわけだが、わりとあっさりとした答えが返ってきた。それでも承諾は承諾だ。さっさと契約しちまおう。


「オレの名前はジェノ、よろしく頼む」


 左手を差し出して反応を待つ。


「スプリって呼んでくれ。よろしく」


 スプリは、オレの手を握り返す。すると、お互いの右手が光を放つ。光が収まると、二人の人差し指に宝石のはまった指輪がはまっていた。これが契約の魔法であり、二人の絆を表すものだ。召喚の時に使用した触媒の欠片がはまることになるので、これを良いものにしたせいで余計に費用が嵩んでしまった。しかしオレはこだわりを大事にする人間だから、妥協することは出来なかった。


 左手を離して指輪をしげしげと眺めるスプリを見て、ハーレムの第一歩としてオレはこの子を守ると心の中で硬く誓った。









「おい、ちょっとこっちまで付き合ってくんねーかな?」


 この街の冒険者ギルドにやって来て、書類を書いたりステータスの【鑑定】を行ったりしてようやく登録が完了し、上機嫌で家へ向かっていると、怪しい二人組みに声を掛けられた。変というか、完全に悪意に満ちている。せっかくのいい気分に水を差しやがって、無粋なやつらだ。


 辺りを少し見てみるが、我関せずといったように目線を合わせずに早足で去っていく。ちらほら見かける冒険者ですらこの有様だ。しょうがねぇ、冒険者同士のいざこざは自己責任とさっき説明を受けたばかりだし、オレが対処するしかねぇな。


「いいぜ。その代わり、覚悟しとけよ」


 睨み付けてから、案内を待って着いて歩く。そうして裏路地を進んでいき、辿り着いたのはこの街の守護者が眠るという半径50mほどの広場だった。真ん中には結界を司る祠があって、あとは何もない。神聖な場所のはずだが、祠は強力な結界に守られているらしいし、周囲の建物との境界にも結界が張られているからこういった用途で使う者もいるのは知っていた。


「んで、俺達をこんなところまで連れてきて何の用なんだ?この後も予定があって忙しいんだけど」


「なー。出来れば納得いく答えを聞かせてもらいてぇところだぜ」


 スプリがいつもの口調で男達に問いかけた。スプリはきっと怖がっているだろう。それでも気丈に振舞っているんだろうからここはオレがしっかりしなければならない。オレが続けて喋ることで、男達の意識がスプリにいかないようにという意図も込めて、オレもスプリに合わせてから男達を睨む。


「なーに、お前みたいな若造が冒険者でしかもテイマーに登録するなんて、まだまだ早いってことを教えてあげようかと思ってなぁ」


「そうそう、今なら持ち物と有り金全部を寄こせば痛い目に合わないで済ましてやるよ」


 30後半っぽいおっさんが二人して新米冒険者に絡んでくるとか、どうせうまくいってないんだろうな。残念なやつらだ。せめて人様の邪魔にならないところで腐ってやがれ。


「自分たちに未来が無いからってオレ達を妬むのは筋違いってもんだぜおっさん。どうせその歳でもうだつが上がらねぇんだろうが、そんなことやってっからダメなんだよ」


 相手を怒らせるような言葉を選んでぶつけていきながら、腰に差してあった愛用の武器を手に取り構える。これは我が家に伝わる家宝とかで、奪われるようなことがあればオレも奪ったやつも氷の悪魔の手によって殺されてしまうだろう。


 この世の中には魔法具マジックアイテムというものがあり、それはアイテムに魔法が込められていて、魔力を流すことでその込められた魔法を起動することが出来る優れものだ。しかし、予め込められた術式しか発動できない為に、細かい調整は出来ないのだ。


 それも当然、そもそも魔法具という物は、スキルの込められた神具ゴッズアイテムというものを、なんとか再現しようとして出来た物だ。つまりは模造品、廉価版というやつだ。なので魔法具は比較的安価で日常生活にも非常に広く用いられている。それに引き換え神具はそもそも人の手ではまだ作り出すことは出来ないので、発掘されたり強力なモンスターから授かったりしか入手方法が無いせいで非常に高価だ。


 ここまで話せば分かると思うがこの太陽の煌き(グリッターシャイン)も神具だ。長年愛用しただけあって今のオレの装備で一番信頼できるものだ。これさえあれば、こんなやつらに負けずに、スプリを守り抜くことだって出来る。いや、してみせる。



「なんだとこのガキ・・・!優しくしてりゃあ付け上がりやがって!もう許さねぇ、ボコボコに痛めつけてから身包み剥いでやるぞ!」


「あいよ。ああ、坊主達には悪いけどな、俺達は二人ともCランクでCランクのパーティーも組んでいる。覚悟しといた方がいいぞ」


 さて、まだまだこれからやることは一杯ある。こんなところでつまづいちゃいられねぇぞ、オレ!

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