第9話 龍神vsムゲン
仕留められなかったことにイラつきを覚えている龍神相手に軽口を叩きながら、【時間停止】のスキルを発動する。
対称は龍神。瞬間、世界が静止した。
「なんだ、この感覚は、この地と切り離された?貴様、一体何を・・・!」
「あんまり目立ちたくないから時間を止めた。お前ごと止めても良かったけど、せっかくだし実験相手になってもらおうかと思って」
時間を止めたことで、いくら暴れてもばれる心配はない。こうしていても魔力をごりごり消費していってるからあんまり長くは止めていたくないけど、せっかく全力で身体を動かせそうな相手が出てきたのだからこの機会を存分に生かそう。
「実験だと?我相手にそこまで言えるのも、この力を見れば理解出来ると言えよう。やはり、貴様は脅威だ。龍神王様から剥がれ落ちた鱗から生まれた我は、その我の生まれた地を守る為ならばこの命も厭わぬ。龍神と謳われた我の、全身全霊を受けてみよ!」
裂帛の気合と魔力が、混ざり合って龍神の周囲を吹き荒れる。凄まじい風だけど、それはあくまで一般人目線だ。俺からしたら得に微動だにせずに耐えられる。しかし、見た目の神々しさとか威圧感からは想像出来ないくらいすごい良い奴っぽい。ここは叩きのめして仲間にしてみる方向で行こう。悪い奴でもないのに殺すのは忍びないし。
「何故だ・・・何故、我が支配下にある水の要素が呼びかけに応えないのだ・・・!」
龍神が急にうろたえ始める。まぁあんな前口上までして気合いれて必殺技を放とうとしたのに、発動出来る気配がなかったらそうなるよね。気の毒だけど仕方ない。どんな技かわからないものをさすがに受けたくないし、できるだけ圧倒的に勝ちたいし。
「この場にある水は全て俺が支配した。因みに、いくら産み出しても同じことだからな」
「まだ、我にはこの牙がある!」
そう、【水の使い手】に膨大な魔力を割くことで、全ての水の要素を支配下に置いた。これで龍神は水に関係したスキルや魔法が一切使えない。となれば後はその巨体を生かした攻撃しか残っていない。実際龍神はその巨大な口を開けてこちらへ突っ込んでくる。あの大きさならきっとトラックですら丸呑みに出来るだろう。しかし、その行動も分かりきっていたし、速さもこちらが上だ。
「よいしょ!」
「ごぶっ!」
「わっしょい!」
「ぐはっ!」
「どっこいしょ!」
「ぶふぁっ!」
その牙が俺の身体を捉える前に、顎を蹴り飛ばして強制的に口を閉じさせる。勢いそのままに回転してアッパーで再び顎を捕らえて頭部をかち上げる。拳に伝わってくるのはグシャッっという骨を砕いたような確かな感触。
威力と衝撃に目を回している隙に頭を飛び越えるように跳躍しながら縦に高速回転し、回転の勢いを全て乗せた踵落としを眉間に叩き込む。流れるような連続攻撃を食らった龍神の頭部は地面に叩きつけられ、維持する力を失ったのか龍神の巨体も地面へと落ちてきた。
ちょ、このままだとジェノが下敷きになってしまう。あわててジェノの身体を拾いに行き、間一髪で回収出来たので龍神の頭部のところまで一緒に運んでいく。
「まだやる?」
「ぐっ・・・無念だ・・・。我と同じく鱗から生まれたこの地を守れぬとは・・・」
「言っとくけど別に、ここをどうこうしようなんて気は無いよ」
既に龍神は息も絶え絶えで既に虫の息だ。話しかけると、瞳だけをこちらに向けて悔しそうにしている。何か悪さをするつもりも無いと伝えると、安心したような表情を浮かべる。龍神が何か言葉を発する前に、言葉を続ける。
「その代わり、一緒に来て俺に力を貸して欲しい。俺自身の力はあまり使いたくないんだ」
「そなたにも事情がありそうだな。我は敗れた身、潔くそなたに仕えるとしよう」
よし、言質取った。だけど、守護者がここを離れて大丈夫なのか?
「その場合ここの守護ってどうなる?抜けても大丈夫なものなの?」
素直に聞いてみると、龍神の顎の下の鱗が一枚剥がれて、祠だった残骸の下へと入っていく。きっとこれが返答の代わりなんだろう。
「しばらくは我の代わりにあの子がここを守護してくれる。その間に、力を蓄えればあの子が次代の龍神として顕現するだろう」
なるほど、すごい代替わりシステムだな。だから龍は逆鱗に触れると怒るのかもしれない。さすがファンタジー。
「我は疲れた。しばし眠る・・・」
そう言い残すと、龍神の姿は消えていく。その後には、手のひらに収まる薄水色の綺麗な水晶玉が残されていた。
「ふぅ、なんとかなった。【弱体化】」
息を吐きながら【時間停止】を解除して、ついでに【弱体化】を起動して水晶玉を拾う。そういえば仕舞う場所が無いな。後でジェノの腰の袋にでも入れさせてもらうか。ああ、とりあえずジェノを起こさないと。
「おーい、ほら起きろー」
「う、ううん・・・」
「おいってばー」
「・・・は、どうなったんだ?」
しゃがみこんですぐ横で倒れたままのジェノの頬をペチペチと叩く。しばらく声を掛け続けると、ようやく目を覚ました。キョロキョロと辺りや上を見回している。龍神でも探してるのか。
「なんとかお願いして怒りを鎮めてもらったよ。祠も元通りだし」
視線をやると、鱗の力なのか祠は元の通りに直っていた。ファンタジー万歳。
「おー、まじか、頑張ったな。途中で寝ちまって悪かった」
言いながらがしがしと俺の頭を撫で回すジェノ。こういうの、すごくヒロインっぽくない?
なんて思っていると、周りが騒がしくなってきた気がする。ふと見渡してみると、狭い通路から大量の冒険者や兵士、騎士が駆けつけてくるのが見えた。まぁ、あれだけ派手なものが上空に現れて消えたら大騒ぎにもなるよな。この街の人ならあの龍神がどういう存在か知ってるだろうし。
駆けつけてきた連中が広場へと押し寄せてくる。倒れたままのジェノとその傍でしゃがんでいる俺囲むようにして出来た人だかりの中から、髭面で立派そうな人が数人の騎士っぽいのを従えてこちらへ歩み寄ってきた。
「少し話を聞かせてもらいたいのだが、いいかね?」
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